真夜中のシャドーボーイ

真夜中のシャドーボーイ

Date: 2015/06/19

「そうあるべきことのようにふるまっているそうではないもの」

なんだかあまりに詩的な表現で、結構うざったい感じのブス、言うなれば皆でキャーキャーと昨日のテレビ面白かったねとか盛り上がってるところにズイと入ってきて、私、バラエティは観ないのよね、だいたいナショジオばっかだし、とかドヤ顔で言いそうなしゃらくさいブスが、ナショジオで特集される側の猛獣みてえなブスが、好きな人ができたときに遠まわしのアピールとして自身のSNSで書きそうなポエミーな文章ですが、これって結構そのへんに溢れていることなんじゃないかって思うんです。

「そうあるべきことのようにふるまっているそうではないもの」、もっと分かりやすく言うと、実際にはそうではないのにそうであるように扱われているものなわけで、早い話、暗黙の了解というヤツなんですよ。冷静に考えて、ちょっと立ち止まって落ち着いて考えてみると違うのに、そうであるように扱われていたり、そうであると考えられていたり、そうであることが当然のように価値観を共有されていたりする、そういうことって結構多いと思うんです。

例えば、ウチの職場では普段の飲み会や栗拾いツアーやバーベキュー大会など職場内でのイベントの際には僕を誘わないのが当たり前となっており、そうなると「patoは誘ってもこない」「patoはこいうイベントが嫌い」みたいな価値観が全員で共有されるようになるんです。実はこれ、単純に嫌いだから誘わないことに対する罪悪感を暗黙の了解で薄めているに過ぎないのです。

実際の僕は誘われれば喜んで行くし、そういう飲み会行こう的な話題で盛り上がってるときは誘われるようにちょっとカレンダーに「この日はあいてる」みたいなスマイルマークを書き込んだりしてるほどなのですが、やっぱ、何がどうなっても誘ってもらえないんですね。

これも、彼らの間では「patoは誘ってもこない」という暗黙の了解が出来上がっているのですが、実際の僕は誘われたい、栗を拾いまくりたい、そんな思いに溢れているのです。この時点で「そうあるべきことのようにふるまっているそうではないもの」なわけなのです。

では、「そうあるべきことのようにふるまっているそうではないもの」何度も言いますがナショジオしか観ないブスが言いそうなこの現象に接した際、どのような行動をとるのが正解でしょうか。もちろん、これは暗黙の了解ですから、そうでないと分かっている分かっていないに関わらず、そうであるように対応するのが正解です。 どうみてもブスなのに、素手で鮭とか取ってそうなレベルのブスなのに周囲の人間が「カワイイ」「カワイイ」と連呼する。この場合はどうでしょうか。これは完全に暗黙の了解が形成されています。認知的不協和に陥りそうですが、冷静にこの了解に向き合う必要があります。

そして気がつくでしょう。そこには不可解な暗黙の了解が形成されるに至った理由が存在するはずなのです。ブスに親を人質に取られてるとか、実家の抵当を握られてるとか、了解するしかない理由が必ずあるはずなのです。ですから、それに沿って「かわいいね」って言っておくのが社会生活を営む人間として正解で、「素手で鮭とって冬眠の準備しそう」なんて絶対に言ってはいけないのです。絶対に暗黙の了解を破ってはいけない。だからこそ暗黙の了解なのです。

けれども、暗黙の了解ってやつは世の中を円滑に回す潤滑油のようなものですけど、言い換えればそれは思考停止でしかないわけです。そこから物語は絶対に展開しない。「Aだよね」「うんAだね」これでは僕らの中を日々通り過ぎていく莫大な量の情報たちと何ら変わらないのです。「Aだよね」「果たしてそうだろうか?」このスキームこそが新たな物語を展開させるきっかけとなりうる。僕らは時にその段階を目指さなければならない。

あれは先日のことでした。

職場の同僚がちょっとした雑談で、「昨日朝までエロ動画みちゃってサ」みたいな事を言い出したのです。「おいおいドエロ~」みたいな感じで同僚たちは盛り上がっていたわけなんですが、よくよく考えたらこれって変じゃないですか。

朝まで映画を見ていた、朝まで小説を読んでいた、朝まで漫画を読んでいた、これらなら分かるのですが、朝までエロ動画を見ていた、これはおかしい、絶対におかしい。そもそもエロ動画は継続的に鑑賞するものじゃない。

もちろん、そんなもの完全に人それぞれなのですが、もちろん真っ暗な部屋で呆然とエロ動画を眺めていて気付いたら朝になってたって構わないんですが、やっぱりそれって変じゃないですか。あまり下品なこと言いたくなくて遠まわしに言おうとしてましたけど、もうダイレクトでいいますね、エロ動画なんてオナニー終わったらもう見ねえよ。

じゃあなんで彼はそこまでする必要があったのか、一体何に追い立てられて朝までエロビデオを見るに至ったのか、推理を始めたわけです。別に本人に質問したほうが早いんですけど、彼とはそんなに仲良くないので質問したところで「お前誰?」みたいに言い返されるのが関の山、だから勝手に推理します。

まず、夢中でエロ動画を見ていたら気付いたら朝になっていたという説。これはまあ、ありえません。先程も言いましたが、ありえません。エロ動画に対して芸術性へ作品性を見出しているならギリギリ理解できますが、件の彼はそこまでに達してもない感じです。そもそも重要な絡み部分以外は飛ばされがちなのがエロ動画です。再生して一気にフェラシーン、なんてやるのが普通の世界です。やっぱりこれはちょっとありえない。

では、彼は何らかのノルマを課せられていたという説。もしかしたら、エロ動画に関するレビューを執筆していたり、彼の主催するイベントでエロ動画を紹介したりするのかもしれません。うーん、ちょっと考えたけど、そんな頭のおかしい人はそうそういないですよね。これもちょっと違うと思います。

じゃあ、彼は普段はナショジオしか観ない説。ナショジオしか見ないので、普通のバラエティと勘違いしてエロ動画を朝までみてしまったすいませんこれはありえないですね。

そうなるともう、これは「Xvideosが削除されやすいから」この理由しか思い当たらないのです。もうこれしか考えられない。

Xvideosとは、もはや知らない人はいないと思いますが、普段はナショジオしか見ない人のために念のために説明しておきますと、インターネット界に彗星のごとく現れた救世主、エロ動画界の雄とも言うべき偉大なるサイトです。

2045年、この年は技術的特異点が到来するであろうと言われています。具体的には人工知能が人間の知能を超えるといわれ、人類が人工知能に支配されるのではないかという危惧があるわけなのです。もし、そんな世界が訪れたとしても、人類の知能を凌駕した人工知能はきっとXvideosにアクセスして人工知能同士の絡みの動画を見ているだろうと言われるくらい、僕が勝手に言ってるんですけど、それくらいすごいサイト、それがXvideosなのです。

僕は本気でXvideosのことを神のようなサイトだと思っていて、大切なことの多くはXvideosから学んだし、健やかなる時も悲しいときもいつも傍にはXvideosがいたんですけど、その神サイトであるXvideosに唯一欠点があるとすれば、唯一じゃなくて2つあるんですけど、一つは検索がカスということともう一つ、削除が異常に早いということなんです。

「削除が早い」と皆さんが聞いて想像する早さってあるじゃないですか。まあ、早いといっても1日とかそこらの早さ、昨日まで見れたのにもう消えてるとか、そんくらいの想像するじゃないですか、みんなそれくらいを想像すると思います。ふん、ちゃんちゃらおかしいわ、出直してこい。あのね、実際にはそれと一桁オーダー違いで早いですからね。

うお、エロそうな動画!飯食ってから本格的に観よう!と喜び勇んで飯食ってアクセスしたらもう消えてる、ってレベルですからね。誇張でも何でもなくて、本当のこのレベルで消えている。驚くほどの仕事の速さ、削除の早さ、それがXvideosにはあるんです。アングラな扱いで、違法性なども加味すると仕方ないこととはいえ、その早さは衝撃レベルなのです。

そうなってくるとある仮説が成り立ちます。もしかして同僚は、大量に良いエロ動画を見つけたのではないだろうか。これは経験した人にしか分からないと思いますけど、大量に好みのエロ動画を見つけるということは即ち、大量の好みの女を恋人にしたのと同義です。一夫多妻制。どれだけ有頂天か想像してみてください。

けれども、その大量の愛しき人たちが、とんでもない早さで削除されていく。恋人が消されていくんですよ!has been deletedとか言ってる場合じゃなく削除されていくんですよ。完全に人殺しじゃないですか。仕方ないこととはいえ、やはり心にぽっかり穴が開く感情が芽生えてくるはずです。

せめて残された僅かな時間を二人で過ごそう、朝まで思い出を語り合って、出会ってくれたこと生まれてくれたことに感謝しよう。僕らが出会ったんは必然かな偶然かな。そういってお互いに指を絡め合った。二人の時間がせめて平穏で心安らかなもので、なるべく深い緑に包まれているように願おう。そうだな、深緑がいい。僕らは決して言葉は多くないまでも心で語り合った。見つめあう時間、時の流れを感じた。気付くと、東の空が明るくなっていた。朝日に照らされた町並みは色鮮やかで、その鮮やかさが僕らの絶望を一際鮮明にした。綺麗で鮮やかで眩しくて、決して手の届かない眩い希望が目の前にあること、それが絶望なのだ。僕はそっと彼女の髪を撫でた。もう彼女は動かなかった。カーテンの隙間から入り込んできた朝の光は僕の足元まで伸びてきていた。バイクの音が少しづつ近づいてくる。きっと新聞配達だろう。朝は変わらず毎日やってくる。それがどれだけ残酷なことかも知らずに。

とまあ、こういうことですよ。全然意味分からないですけど、こういうことです。つまり、彼は沢山見つけたエロ動画を消される前に見ようと奮闘したら朝になっていた、朝までずっとエロビデオみていたってことですよ。完全にバカじゃねえか。

でもまあ、彼の気持ちもわかるんです。見よう見ようと思っていたエロ動画が削除される、これは勇気が出せなくて告白できなかった女の子に10年後に同窓会であの時、好きだったんだよって言われるよりあちゃーってなりますから、そりゃ夜を徹して見てしまうのも理解できる。

でもね、何も夜を徹して見なくてもいいんじゃないか。もっと昼間とかに見てもいいんじゃないか、そう思うんですけど、そこで「暗黙の了解」が立ちはだかってくるんです。一応社会人として生きる以上、「職場でエロ動画を見ない」っていう暗黙の了解、鉄の掟が存在するんです。やっぱ真面目に働いている場面でエロ動画をましてやXvideosを閲覧するなんてあってはならないことなんです。

その暗黙の了解が、上質のエロ動画の発見を遅らせているのではないか、僕はそう考えるのです。見つけて削除された、なんてのは氷山の一角で、こうしてる間にも僕の知らないところで知らない上質のエロ動画が削除され続けている。地球温暖化により遠い南極の氷が溶ける音は聞こえないけど僕の心を締め付ける。同じようにエロ動画が削除される音は僕らの心をキュッと締め付けるんです。

でもね、職場でXvideosを閲覧するようになったらどうですか。そうですよ、沢山の上質エロ動画を発見することができるのです。ものすごいものが見つかる可能性だってありますよ。ナンパ物なんていいやつが20個は見つかりますよ。これはもう、やるしかないでしょう。

そうなってくると一つの大きな問題がありまして、いくらなんでも職場でXvideosを観ていたら解雇になる、セクハラ的問題にもきっと発展する、という由々しき問題というか、そもそも当たり前の問題が生じてくるんです。

なんとかして暗黙の了解を破って職場でXvideosを観たい。そうすることできっと僕という物語は新たに展開する。けれどもそれをやったら解雇だ。悶々と悩んで悩んで悩みぬいて、そしてある一つの結論に至ったのです。

帰宅時の車の中で見る。

もちろん、運転中に携帯電話を見るのはご法度ですから、これは職場の駐車場に停車状態にある車の中で行います。実はこれ、ものすごいエアポケットみたいなスキマでして、完全に神が与えたもうた神の領域。職場の駐車場なのでロケーションとしては職場、なのに仕事を終えて帰るところなので完全にプライベート。おまけに他に誰もいないパーソナルスペースってことで、もうXvideosを観るためだけに用意された舞台みたいなもんなんですわ。むしろ、車って移動する手段だったっけ?くらいのもんですよ。

仕事を終え、駐車場まで歩いて車に乗り込む。するとなんかすごい心が落ち着くんですよ。木々のざわめきを聞いて、一枚一枚の葉っぱがこすれあう音を聞き分けられるような、そんな落ちついた気持ちになるのです。だからといって、決して怠惰に浸っているわけではなく、心は研ぎ澄まされていて鋭利な刃物のような感じで、まるで日本刀と同化した感覚に包まれている自分に気がつくんです。

そんな状態で探すエロ動画がつまらないはずがない。そりゃもうすげえの見つけちゃいましてね、年に1本見つけられるかどうかみたいなレベルの極上のエロ動画を発見するわけなんですよ。未来のスターを発見したスカウトマンみたいな気分ですよ。

こりゃ暗黙の了解を破って物語が展開した。極上のエロ動画を掴み取った。物理的に掴めるならエロ動画を鷲掴みにして誇らしく天空に捧げたいくらいですよ。

そうなると、いよいよそのエロ動画を活用する段階になるんですけど、良く考えたらここは職場で車の中じゃないですか。いくらパーソナルスペースといえども外から丸見えで、こんなとこでおっぱじめようものなら逮捕までありますよ、逮捕まで。

もう取り急いで家まで帰宅する必要があるわけで、早速愛車のエンジンに火を入れ、我が家までの道のりをひた走ることになるんですが、ここでね、すごい不安な気持ちが湧き上がってくるんですよ。

「もしかして削除されてるんじゃないか」

戦場ではいいやつほど早く死ぬ。それと同じでXvideosではいい動画ほど早く死ぬ。あれだけの動画ですから、家に帰ったら「はい、has been、has been」って感じで消えてる可能性が高いんですよ。

そうなってくると、運転していても考えることはXvideosのことばかり。もうセンターラインの白線とかシークバーの読み込み終了したところにしか見えませんからね。これくらいの長さの白なら一気にフェラまで飛ばせるな、くらい考えてましたからね。

もうとにかくエロ動画、エロ動画でしてね、早く家に帰り着くことを切望したんですけど、こういう時に限って普段はスカスカの道路が混み合っていたりしてですね、もう気が焦るばかり。そんな折、信号待ちである交差点に停車したんです。

ここはかねてから信号待ちの時間が長いことで有名な交差点。普段ならがっかりするところですが、僕はチャンスだと思いました。この間なら動画のチェックができる!いつもならイライラする長い信号待ちも今日ばかりは神が与えたもうたチャンスと、ポケットから携帯電話をだして更新ボタンを押したのです。

「よかったまだ生きていた」

日常生活においてこれだけ安堵することがあるだろうかというレベルで安堵した。戦地から孫が無事に帰ってきた老人のような表情をしながら前を見ると、信号が青になっていた。こりゃいかん、すぐに発進させないと後ろからクラクションとか鳴らされてしまう。携帯電話をポケットにしまう余裕はなかった。

仕方なしに携帯電話を手に持ったままハンドルを握りそのまま発進。すると、けたたましい音と共に大阪辺りの暴力的な祭りみたいな感じで賑やかなパトカーが踊りだしてきた。

「はい、そこの車、交差点過ぎたら左に寄せて停まってください」

完全に僕のことを指し示していて、あちゃーって感じなんですけど、素直に従って路肩に車を停車します。パトカーは僕の真後ろにピタリとくっつけて停車すると、警官の方が颯爽と降りてきました。で、運転席に駆け寄り軽妙に話しかけてきます。

「だめじゃなーい!」

「はい?」

実はお恥ずかしい話ですが、この時点で何が違反だったのか全然分かってなかったんですね。で、すごい素っ頓狂な、女の子に告白したら、うちの米屋の経営が大変だから付き合えないって言われてた時みたいな顔してました。

「携帯、使ってたでしょ」

「信号待ちのときはいいけど、動き出したら使っちゃだめだよ」

とか言われて、僕が不勉強だったんですけど、画面を見るとか操作するとかしなくても持ってるだけで携帯電話使用の違反になるみたいなんです。ここで該当条文を紐解いてみると、携帯電話使用に関する条文は道路交通法第七十一条五項の5ですね。

自動車又は原動機付自転車を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置(その 全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。)を通話(傷病者の 救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うものを除く。)のために使用し、 又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと

オラオラ、どこにも持つだけでダメなんて書いてねえじゃねえか、通話のために使用か画像を注視とか書いてるじゃねえかオラオラ、じゃあスマホに見える木綿豆腐とか持って運転してたら捕まるんか、とか思うんですけど、やっぱね、こりゃ僕が悪いですよ。運転ってのは慣れてくると忘れがちですが、自分の生命どころか人の生命を奪いかねない危険なものです。それをXvideosのエロ動画に心奪われた状態でする、これは良くありません。おまけに見ないまでも携帯電話を手に持った状態、これも危険です。よく事故を起こさなかったなと思うくらいですよ。

そんな考えに至りましてね、素直に違反キップに署名をし、反則金の納付書を受け取りました。違反点数1点、反則金6000円です。まあ、点数はともかく、6000円はまあまあ痛い。

「何見てたの?」

違反キップの処理をしながらパトカー助手席の警官が質問します。

「いえ、見てはないです持ってただけです」

そう答えると、

「いやいや、信号待ちのときから凝視してたでしょ?何見てたの?すげえ真剣だったけど」

ああ、信号待ちの段階から狙いを定めてるのかとか思いつつ、そこで注意してくれれば違反なんかしなかったのに、するのを待ってたのか、と思いつつ、さすがにXvideosを見ていたとは恥ずかしくて言えず

「まあ、いろいろ見てました」

いろいろって言葉すげえ便利だなと思いつつ適当に愛想笑い。すると、

「次からは気をつけて!」

そんな言葉と共に開放されました。

その後はなんとか無事に家に帰って、ちょっとオドオドしながらXvideosにアクセスすると、件の動画は削除されていました。ほれみたことか。

自分が悪いとは言え、今日はついてないな。お目当ての動画は消えるし、違反で捕まるし、職場のブスが石垣島土産で配ってた意味不明なクッキー僕だけ貰えないし、とションボリしながら頂戴した違反キップと反則金の納付書を見て、一つの考えに至ったのです。

「この反則金払わなかったらどうなるんだろう」

皆さんは、交通違反の反則金を払わなかったらどうなると思いますか?罰則の金なんだから払わなかったら警察に捕まったり大変なことになるんじゃないか、刑務所に入れられるんじゃないか、そもそも自分が違反したことで払わなきゃいけない罰金だろ、ちゃんと払えよ、それを払わず逃げようなんてpato最低!pato死ね!pato加齢臭!と思うかもしれません、けれども、実はこれ、pato加齢臭以外全部間違いです。

僕らはいつの間にか交通違反の反則金は払わなければならない、そんな暗黙の了解にはめ込まれてしまっているのです。ここに大きな行き違いがある。

順を追って説明していきましょう。まず、交通違反のときに納めるお金は罰金ではなく反則金であるという点です。ここは大切です。罰金とは裁判によって確定する刑で、お金によって支払う財産刑です。交通違反でも重大な違反は裁判にかけられ罰金刑となりますが、軽微な違反に関しては必ずしもそうなりません。変わりに反則金というものが登場してきます。

次に、ここで登場した反則金とはなんでしょう。そもそも、全ての交通違反は裁判による審理を受け刑事処分を受ける必要があります。けれども、それはあまり現実的ではありません。数多くの違反を裁判で処理することは現実的に不可能ですし、裁判によって刑が確定すると前科となるわけで、すると国民の大部分が前科を保有するような事態に陥る可能性だってあります。それだったら、軽い違反だったら反則金を支払うことで、その後の裁判だとかの刑事手続きを免除してあげようか、ということなのです。

次に加齢臭ですが、最近寝ようと思って布団に入ると枕から知らないおっさんの臭いがしてきて、家に変なオッサンが侵入してきて勝手に枕を使ってて、と恐怖したのですが、良く考えたら僕の臭いでってこれはいいですね、関係なかったですね。

まあ、簡単に説明すると、普通は交通違反で捕まってもみんな等しく裁判を受けたり刑事処分の手続きが必要なんだけど、それは大変だから軽い違反の時は反則金で許してあげるよ、ってことなのです。

ちなみに、その許してもらえる境界線ってのが、違反のときに貰う違反切符の色で、青い色した青キップが軽微な違反、反則金で許してあげる。赤切符が重大な違反、ダメということになります。

ということで、ここで大切で重要なのは、交通違反をした場合は反則金を支払わなければならない、いつの間にか多くの人がそう信じている暗黙の了解にあります。実際には裁判とか大変だから反則金払えば免除してあげるよという制度、これは裏を返せば裁判とか受けるつもりなら反則金払わないでいいよ、ということなのです。そう、反則金の納付は強制ではなくあくまで任意なのです。

実際には払わなくてもいいのに払わないといけないと思われている、これぞまさしく「そうあるべきことのようにふるまっているそうではないもの」ではないですか。では、この暗黙の了解を打ち破り、ずっと反則金を払わないでいたらどうなるか、きっと何らかの物語が展開するのでしょう。しっかりと事の顛末を見てみましょう。

交通違反で反則金の納付書を貰った人なら分かると思うけど、この納付書、とにかく不便にできている。納付できる場所も郵便局とか銀行だけだし、なにより納付期限が1週間くらいしかない。すぐに期限切れになって納付できなくなってしまう。

納付期限が切れても特段気にすることなく日々の生活を過ごしていると、1ヶ月くらいしてちょっと物々しい感じの郵便でもう一度納付書が送られてきます。この際、反則金の金額が郵便代だったか手数料だったかが上乗せされていて、僕の場合6000円が6800円になってました。

それでもまだまだ納付は任意ですので払わずにいると、今度は最寄の警察署からダイレクトに連絡がきます。この辺は警察署によって運用が違うと思うのですが、たぶん警察としては反則金を支払ってもらったほうが処理的に楽なんでしょうね、結構頻繁に支払うように連絡が来ます。

封書で4回くらい、警察署に出頭してきて納付するようにとか手紙がきます。赤い便箋とか黄色い便箋とか使ってきて結構物々しいのですが、まだ出頭も納付も任意です。強制ではなく払いたい人が払うというものです。

そうこうしていると警察署からダイレクトに電話がかかってきます。

「○○日の違反についてですが、反則金を納付してください」

みたいな感じで警察官の方からかなり単刀直入にいわれます。そこでしっかり主張しましょう。

「あ、納付するつもりはないです。検察にまわしてください」

反則金が納付されなかった場合は刑事手続きに移るため警察から検察に移動します。気を使っていつまでも警察で止めてるみたいな感じだったので、はやく検察に移してくれと言いました。すると何をトチ狂ったのか電話口の警察官の方が、

「いやいや、反則金は全員納付することになってます。それはできません」

僕驚いちゃいましてね、そんなはずはない。絶対に納付は任意であるはずなので

「いや、貰った違反切符にすげえ小さい字で「反則金の納付は任意」って書いてあるんですけど、本当に全員が納付するんですか?どんな法律ですか?」

と主張したら、電話口の警察官の方、ちょっと上司に相談しに行った後に

「分かりました、検察に移します。そうなると、もしかしたら事情聴取とか詳しい話を聞く必要が出てきますから、警察署の方まで出頭してきてもらうかもしれません」

「はい、それでしたら喜んで」

たぶんその出頭すらも任意なんでしょうけど、別に警察に楯突きたいとそういうわけではなく、暗黙の了解を打ち破って本来の手続きをしてみたいだけですから、納付はしないけどその辺は協力することを告げます。

それから2ヶ月くらいでしょうか。忘れそうになった頃に検察から手紙が届きます。中を開くと、交通違反に対して話を聞きたいので何月何日の何時に出頭してきてください、と書いてある。ちなみにこの時までに警察からの事情聴取の要請はなかった。

で、この検察からの呼び出しは無視するとガチで逮捕もありえるのでしっかりと出頭する。モロ平日の午前中だけど、有給を取ってしっかりと出頭する。僕の場合は、検察庁からは遠かったので地方の支所みたいなところに呼び出されたのでそこに行くことになった。いよいよ物語が動き出したのだ。

指定期日に検察庁の支所に行くと、そこには小さな待合室みたいな場所があって、すでに3人の先客が座っていた。なぜか3人とも女性で一人はホイットニーヒューストンみたいな女、もう一人は無課金ガチャで出てきそうな土属性っぽい女、そして最後の一人がいまだに前略プロフィールとかやってそうな女だった。

この人たちも反則金を払わなかったのかな。僕が言うのもなんだけど、払わなくてここ検察庁までくる羽目になるのって結構剛の者だぞ、何を考えてここまできてるんだ。普通はもっと早い段階で払うぞ、とか思いつつ自分の名前が呼ばれるのを待ちます。

しばらくすると、最初にホイットニーヒューストンが呼ばれ、スーツを着た男にどこかに連れて行かれます。なんかホイットニーがスーツの男に連れて行かれるとエンダァァァとか聴こえてきそうだなとか考えていると、次に僕が呼ばれました。

ホイットニーと同じよう事務員っぽいスーツの人に連れられていくと、結構重厚な扉がある部屋に案内されました。

「どうぞお入りください」

といわれて部屋に入ると、横幅が広いデスクと本棚が目に飛び込んできました。デスクの前には小さな椅子が置かれており、その横に動物の死骸を置くみたいな小さな台がありました。本棚は比較的大きいのですが、中身はスカスカで、申し訳ない感じで六法とかが収められてました。

まあ、どう考えても立派なデスクの前にある小さな椅子に僕が座るんだろうな。その正面に検察官が座るんだろう、で色々と話をきかえるのか、とか思っていました。ここまで案内してくれてありがとう事務員さん、俺はおとなしく検察官を待つよ、とか思ってると、その事務員さん、颯爽と立派な方の椅子に座り

「さあ、はじめましょうか」

とか言うじゃないですか。アンタ検察官だったんかい!と突っ込みそうになりましたが、ここは我慢です。何せ目の前にいる人はこれからの僕の処遇を決める人なのですから。

さて、検察庁に呼び出されて目の前に検察官がいる。ここで何をするかというと、別に反則金を納付しなかった違反について裁かれるわけではありません。それは裁判所がすることです。

では、検察官は何をするかというと、砕いて言っちゃうと裁判にかけるかどうかの判定です。反則金は裁判などの刑事手続きを免除してくれるものですが、納付しないと裁判になることはもう説明しました。しかしながら、自動的に裁判になるわけではありません。

裁判をするには「法律により処罰したいから頼むぜ」と裁判所に依頼する「起訴」という手続きが必要となるのです。その起訴を行うのが検察官です。検察官が話を聞き、起訴するかどうかの判断をする。起訴されればそのまま裁判となる、起訴されなければどうなるか、実はここがポイントでして、起訴されなければ不起訴となり、何もなし、反則金も罰金も払う必要ないという途方もない状態になります。

じゃあどれだけの割合でこの不起訴になるかといいますと、完全にケースバイケースなので絶対に不起訴になるとは言えないのですが、統計的から見ると元々が軽微な違反であった場合、95%以上が不起訴になっています。まあ、ほとんど不起訴ってことです。で、その不起訴かどうかを決めるのが目の前にいる検察官、つまりこれからのやりとりが一番重要になる、ということです。

「いやあ、今日はお仕事はどうされました?」

「あ、休みました」

「なるほど、平日ですもんね」

目の前の検察官は、けっこう砕けた感じで雑談をしてきます。検察官ってすげえ怖い人みたいなイメージを持ってたけどなかなかざっくばらんじゃねえか。で、何分か話をした後、いよいよ本題の交通違反の話になります。

検察官の手元には結構分厚い資料がありまして、今回の違反に関することが色々と書いてあるみたいでした。こう言っちゃなんですけど携帯電話保持の違反で、こんな厚みのある資料ができちゃうほど何が書いてあるんだとむちゃくちゃ気になりました。

話の内容自体は、違反行為の再確認、地図を見て違反場所を確定、それから検察官の方の経験を踏まえた説教みたいなものと続いていきました。

「私は、絶対に車を運転するときはドライブモードですね。携帯が鳴ってることすら分からないようにする。職業柄、絶対に違反をするわけにはいかないですからね。それで連絡取れなくて友達に文句言われたりしますけど、そんなやつは友達じゃない。断じて友達じゃない!」

みたいなことを言われてました。検察官さん、友達と喧嘩でもしたのかなあとか考えていたらついに核心に迫る質問をされます。

「なぜ反則金を納付しなかったんですか?」

まずい。この質問はまずい。「そうあるべきことのようにふるまっているそうではないもの」を確かめるため、みたいなナショジオしか見ないブスみたいなポエムを出しても理解されるはずがない。「暗黙の了解を打ち破り俺たちの物語を動かすため」なんて言ったら意味不明すぎて「はい起訴」と言われかねない。頭をフル回転させて考えます。

「僕はどうしようもない人間です。そんなどうしようもないクズのような人間ですから、違反行為をして反則金払ってはい終わり、じゃ反省しないんじゃないかって思うんです。ですから、こうやって正当な手続きを経て、やっぱ言っちゃなんですけどこういうのって面倒じゃないですか、でもそんな想いをすることが僕への戒めになると思うんです。ですから納付せずに正当な手続きを進むことにしました」

みたいな事を言ったと思います。なかなか唸るしかないそれっぽいセリフ。現にここに至るまですげえ大変で、もう二度と違反はしないってむちゃくちゃ反省してますから、まんざら嘘でもない。検察官の方も「ふむ」みたいな感じで頷いてます。

そんなやり取りをしていたら、後ろのドアが開く音がして、人が入ってくる気配がしてきました。チラリと後ろを振り返ってみると、どうやら土属性っぽい女と別の検察官の人が入ってきたような感じでした。

全然気がつかなかったのですが、僕が座ってる部分の横に衝立があって仕切られていたのですが、その向こうはてっきり倉庫にでもなってるかと思ったら、どうやら同じように机と椅子と本棚のセットがあって、別の検察官の人が取調べをしているようでした。そう、この部屋はダブルで取調べができるようになっている画期的造り。結構声が筒抜けだけど大丈夫なのか、これ。

聞き耳を立てなくても聞こえてくる会話内容によると、やっぱ土属性の女は反則金を納付しないでここに至ったらしく、その理由を「忙しくて払いにいけなくて」みたいに答えてました。

さて、僕の目の前にいる検察官の方は、どうやら僕の言葉によって「違反行為とその反省」というテーマに火がついてしまったらしく、「なぜ人は人を裁き、人は裁かれる必要があるのか」みたいな話を結構延々と話をされていたのですが、さらに本題の部分に触れてきました。非常に大切であると前置きした上で説明されます。

「ここからの手順ですが、二通りあってどちらでも自由に選択できます」

ここからが大切です。完全に大切です。この後の処理としてはまあ、刑事手続きに移行していくのはもちろんなのですが、この段階までくる違反が違反全体から見てかなり少ないとは言え、それでもやはり全てを起訴して裁判所に送るってのは大変な負担なんですね。

その負担を減らすために「略式裁判」っていう制度がありまして、これを選択すると裁判は開かれることなく、自動的に有罪となり罰金が決まります。もちろん前科にもなりますが、罰金額は反則金と同じになります。ちなみに、手数料の800円がなくなって滞納したときよりお得になります。自動的に有罪にはなりますが、裁判所まで行って裁判を受けなくていいというメリットがあります。

もう一つが正式な裁判にかけられる「公判請求」というものです。これを選択してもまあ、余程のことがない限り有罪ですし、罰金刑で反則金を支払うことになります。裁判所にも行かねばなりません。

ここで「略式」と「公判請求」の選択を迫られます。ちょうど隣で話している土属性の女の声が聞こえてきたのですが、

「どちらにいたしますか?」

「はい、じゃあ略式で」

「わかりました。ではそのように処理します」

と円満な感じ。すごいピースフルな感じで話がまとまっている。そりゃ誰だって裁判にかけられたくないし、裁判所に行くのも面倒だ、どうせしようがしまいがほとんど有罪だ、ならば略式を選ぶのが当然なんでしょうけど、ここで、「そうあるべきことのようにふるまっているそうではないもの」なんですよ。

略式を選んだらほぼ有罪で罰金が科せられる。前科になる。でも、公判請求を選んでもほぼ有罪で罰金で前科になる。注目すべきは、公判請求を選んで裁判で有罪になったとしても、別に略式より酷い状態になるわけではないんですよ。罰金額も増えたりはしません。言うなれば、ここに来るまででもうひどい状態だから、どっち選んでも同じだよってことなんです。

じゃあ裁判所に行くか行かないかの違いしかないんですが、ここで忘れてはいけないのが先にも説明した「不起訴」という扱いです。略式の場合は自動的に処理されますから、不起訴はありえなく有罪確定ですが、正式の場合は本当に起訴するか検察官が判断する余地が出てきます。つまり、不起訴になる余地が出てくる。というか、軽微な犯罪ならほとんど不起訴。95%以上は不起訴です。そうなると罰金も反則金も払わないし、裁判所にも行かない。これには公判請求を選択しなければならないのです。

反則金は払わないといけないもの、略式起訴を選んだほうが楽、「そうあるべきことのようにふるまっているそうではないもの」なわけなのです。

さて、僕の目の前の検察官は色々と制度の説明をした後に、こう言いました。

「さて、どちらの手続きにするか選ぶわけですが、私がこれまでの事情を聞いたところ、自分を戒めるために反則金を納付しなかった、とおっしゃられました、けれどもあなたはもう十分に戒めは受けておられる、こうして検察まで来て長時間時間を取られて、十分すぎるほど戒めを受けておられる。ですから略式裁判にしたらいかがでしょうか?ここらで終わりにしてみては?きっともう違反はしない、そう思いますよ」

こうやって検察官の方が略式を勧めてくることが多いようです。なんと慈悲深いお方だ。けれども、ここで略式を選ぶなら最初から納付したほうが全然全うですので

「いえ、公判請求でお願いします」

と主張します。

「え?」

確かに検察官の方は聞き返しました。確かに聞き返しました。

「公判請求で」

「いや、あなたはもう十分戒められた」

「公判請求で」

そんなやり取りがしばらく続いた後に、僕の意思が固いと思ったのか、検察官の方が言い放ちました。

「よろしい、ならばでは公判請求で行きましょう」

なんか検察官の方からすげえ禍々しいオーラみたいなものが見えた。

「では、公判請求ということで、裁判に向けて今から詳細な供述調書をとります」

「え!?」

今度は僕が声を上げてました。ここまで結構長時間になってるんですけど、今から供述調書とるんすか?とか思うんですけど、検察官はデスクの横にあった、PC-98かよみたいな古いパソコンを起動させ準備万端といった佇まい。

供述調書を取る。何が始まったかといいますと、単純に言うと、問題の違反行為に対して、かなり詳細に僕の見解を聞き取ることになります。検察官の質問に答えていき、あの違反がどんなものであったか、僕はどう考えていたのか、そんなことを記録に残していくのです。後々裁判になった場合にこれが大切な資料となりますので、嘘をつくことはできません。僕も心して供述を始めました。

「では、まず、違反に至った経緯を聞きましょう」

検察官の方は、かなり優しい言葉遣いで質問してくれます。けれどもね、それがむちゃくちゃ細かいんですよ。

「はい、その日は仕事が終わりまして、家に帰ろうと車に乗り込みました」

「それは何時ごろ?」

「18時過ぎだったと思います」

「正確に何分だったかわかります?」

「わかりません」

「では18時過ぎに職場を出たんですね?」

「いえ、しばらく車の中で携帯電話でサイトを見ていたんです」

「それはどんなサイトですか?」

ここで僕は固まりましたね。無難にFacebookとか言えばいいんでしょうけど、まじ!?アカウント教えて!俺のカプチーノ画像にいいね!してよ!とか言われたら嘘だってバレますし、なによりれじゃあ後の話が繋がらなくなります。虚偽の供述をしていいはずがない。きちんと本当のことを伝える必要があります。

「Xvideosというサイトをみていました」

「どうして?」

「僕はこのサイトを神だと思っていて、欠かさずチェックしていたからです」

「どれくらいの時間みていた?」

「15分くらいです」

「それからどうしましたか?」

もうグイグイきます。

「そこで良い作品を見つけたので家に帰ってじっくり鑑賞しようと思いました」

「それから」

「車を走らせました」

「どんな気持ちでしたか?」

「もしかしたら見つけた作品が家に帰るまでに削除されているかもしれないと逸る気持ちでした」

「ほう、そんなに削除が心配でしたか?」

「そうですね、以前に、トイレに行ってる隙に削除されるなど、悲しい思いをしたので、そうなってはならないと思っていました」

「それから?」

「信号で停まりました」

「○○交差点ですか?」

「はい」

「どうしました?」

「停車中なら違反にならないはずなので、作品が消去されていないかチェックしました」

「すると?」

「まだ生きてました」

「ほう」

「安堵しました」

「それから?」

「青信号になったので急いで車を発進させました。携帯電話をしまう時間がなかったので、左手に持った状態で運転しました」

「運転は片手?」

「いえ、持った状態で追加でかぶせるようにハンドルを握る感じです」

「運転しにくかった?」

「手が大きいので難なくできました」

「それから?」

「すぐにパトカーが出てきて、停車するように言われたので停車しました」

「何秒くらい携帯持ってました?」

「分からないけど、40秒は持っていたと思います」

「それから?」

「家に帰ったら作品は消去されていました」

こんな感じで延々と、根掘り葉掘り質問されて、検察官の人はずっとカチャカチャとパソコンに向かって文字を打ってるんですね。

で、カチッとマウスをクリックするとその横のプリンターからウィーンと紙が出てきて、それを手渡されました。

「声に出して読んでみてください」

紙を見ると、先ほどの僕の供述が文章にまとめられてるんですけど、なんていうか、全部書いてあるのな、供述の正確性って観点なのかもしれないけど、僕の言ったことに勝手に足されてないし、勝手に減らされてもいない。そのまま文章になっている。

いいですか、声に出して読むんですよ。これから間違いがないか声に出して読むんですよ。僕の供述がそのまま文章になってる。加減なく書かれた文章になってる。それを声に出して読むということですよ。

「○月○日、18時過ぎ頃、仕事えて自分の所有する車に向かい車の中でXvideosというサイトを約15分にわたって閲覧した」

こんな感じで朗読して、結構恥ずかしいんですけど、まだ耐えられる。でも、加減なく書かれていて朗読するってこういうことで、もう次の文章がすごい。

「私はXvideoを神のようなサイトだと思っている」

なんで僕は検察庁でこんなこと喋ってるんだろう。

衝立の向こうのスペースでは、供述調書取られてる間に土属性っぽい女から前略プロフィールやってそうな女に代わっていたんですけど、完全に丸聞こえで、

「ぶっ!」

とか笑ってますからね。

「そのような理由で頻繁にアクセスしており、我慢できず職場の駐車場に停めた車内でもアクセスした。そこで見つけた作品を家で見たいと考えた。けれども、Xvideo側の削除が早いことに不満を抱いていた。以前にもトイレに行っている間に削除された経緯があり、帰り道も気になってしかたがなかった。交差点の赤信号に差し掛かった際に、停車中なら違反にならないだろうと、我慢できずXvideosにアクセスした」

とか読まされるんですよ。前略プロフィールむちゃくちゃ笑ってるし。こんな辱めを受けるくらいなら最初から反則金払えばよかった。

で、一通り読み終わった後に、

「何か訂正したい場所ありますか?」

と聞かれるんですが、もう恥ずかしいやら何やらで死にそうになりつつ、

「あの、かねてからXvideosの削除が早いことに不満を抱いており、の部分なんですが、訂正お願いします。削除は早いなあって思いますが、それは仕方がないことだと思うので、不満には思ってません」

「わかりましたそこ訂正しましょう」

そこにこだわる意味がちょっと自分でも良く分からないのですが、もう訳の分からないことになってました。

しかも訂正したら訂正したで、また丁寧にプリントアウトされてきてですね、間違ってないか読んで確認するんですよ。つまり、

「私はXvideoを神のようなサイトだと思っている」

なにやってんだろ、僕。

結局、全部で三時間でしょうか。それくらいの時間をかけて開放され、さらに後日、実況見分と称して警察に違反現場まで呼び出されて

「ここでXvideosを閲覧しました」

と指差しした状態で写真とか撮られまくりました。よくニュースで犯人がやってるあれですね。あれやってきました。近所の住民とかガヤガヤ出てきて恥ずかしかったよ。

というのが一年以上前のお話で、この日から更新している今日まで裁判の呼び出しがないので、おそらく「不起訴」になったんだと思います。ちなみに不起訴の場合は連絡があるわけではないので、まあ、数ヶ月裁判に呼ばれなければそう考えていい、みたいな感じです。晴れて不起訴を獲得し、反則金を払わなかったのですが、痛感しましたね、ここまでされるんなら反則金6000円払っておけばよかったって。

結局、「そうあるべきことのようにふるまっているそうではないもの」というのは、そうあるべきものなのです。必要に応じてそうふるまっているわけですから、それを破って物語を展開させたとしても、面倒くさいことにしかなりえないのです。僕らの物語はいつだって不必要で無駄なものなんです。それを痛感しました。反則金、ちゃんと払ったほうがいい。

ちなみに、完全に余談になるのですが、検察での長時間のやり取りが終わり、検察の玄関の所を歩いていたら、ちょうど同じく手続きが終わって帰宅しようとしている前略プロフィールっぽい女とすれ違いましてね。誰かと電話しながらさっきのことを面白おかしく話してるんですわ。

「今終わったよ。隣がずっとXvideoって言ってて笑った。そうそう、あのエロいやつ。え?よくしらない?うそー!Xvideoしらないとかありえないっしょ。テレビはあまりみないから分からない?テレビじゃないよ。え?テレビはナショジオくらいしかみない?テレビじゃないって」

電話相手、すげえしゃらくせーな。

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