140文字のラブレター

140文字のラブレター

Date: 2012/05/27

今時「メンス」って言葉を使ってるやついるのかな。そんな軽い思いつきだった。ただ、それだけだった。

僕が中学くらいだった時に、たまたま読んだゴシップ誌なんかに、どういう飯食って育ったらそういう発想が出るんだと言いたくなるような、「女の子に生理周期について質問するコーナー」みたいなものがあり、それを実際に敢行し、編集し、紙にまで印刷して発売するという豪快さにいたく衝撃を覚えたものだった。

その中で、低俗としか思えない雑誌編集のインタビュアーがいつも口にする名文句が、「○○ちゃんのメンスはどうなってるのかな~?」だった。まだ若かった僕はこのセリフに衝撃を受け、そのネットリしたいやらしさ、低俗さに、こんな言葉を女性に投げつけられる大人になりたい、そう思ったものだった。特に「メンス」という単語の響きたるや、僕の心を鷲掴みにして離さなかった。

何やら秘密めいた印象を受けるのに、それでいてドロドロしていない、軽やかで爽やかな印象すら受ける。メロンの親戚と言われてもうっかり納得してしまいそうな説得力、メンスにはそれがあり、大人になったらメンスと軽やかに言えるようになりたい、そう願っていた。

時は流れて現代、あの時の蒼き思いなど忘れて日常生活を営んでいた僕だったが、ふいにこの「メンス」という言葉を思い出した。僕は男だし、女っけのない生活をしているし、特にこれといって「メンス」という単語を使う機会がほとんどなかった。あの日の決意や憧れなど遠い日の花火のようで、鮮やかに記憶の中に残っているものの、悲しいほどあっさりと夜の闇に飲まれてしまっていた。

ちょっと「メンス」で検索してみよう。

それはこんな汚れきった大人になってしまった自分が、あの頃に戻るための儀式のようだった。当時はこんなインターネットなってものができることすら予見できていなかったけれども、とにかく検索窓に「メンス」と入れて検索してみた。

メンス-《(ドイツ)Menstruationの略》月経(げっけい)。生理。

定義めいた解説、Web辞書のようなもの、あとは「メンスに理解を持つメンズ」という意味で「メンス男子」とか訳のわからない記事が出てくるだけだった。メンスという言葉自体は生きていた、ずっと脈々と受け継がれてきていた。ただ僕がその言葉に触れなかっただけなのだ。けれども、検索結果に生の声はなく、実際に「メンス」と使っている場面は見つからなかった。

僕はTwitterで検索をかけた。生の呟きの中に「メンス」と使っている人はいるのだろうか。現代のツールを使ってあの日の思いを取り戻す。それはなんだか奇妙でもあり、爽快でもあった。Twitterの検索窓に「メンス」と入れ検索をする。

すると出るわ出るわ、メンスの山山山、メンス山。多くの人がメンスと呟いているのです。しかも、30歳を超えた気持ち悪いおっさんがアニメアイコンで「メンスですな、フヒヒヒ」とか呟いているわけではなく、年頃の娘さんというか、目が異様にでかいプリクラなんかをアイコンにしている娘さんとかが

「今日メンスでつらいわー」

とか呟いているんですよ。女の子ですよ。女の子がですよ。年頃の女の子ですよ。あまりにもナチュラルに爽やかに使われすぎてて、メンスってそういう生理的な言葉じゃなくて、バドミントンみたいな爽やかなスポーツを指す単語だったかしら、と思っちゃうくらいなんですよ。

で、あまりに多く生々しい女の子の生のメンス発言に、女の子ってこんななんだ、と少々のショックを受けつつ、あの日、ゴシップ誌で読んだ女の子はみんな恥ずかしそうにメンスの話してたのに、それが今やどうだ。twitterはメンスの銀座通りやで、とか思っていたら、一人の純朴そうな青年の呟きを発見したのです。仮にその彼を高田君としましょう。その高田くんの呟きが僕の目に止まったのです。

高田
テレビでやってたけどIQ150以上の天才しか会員になれないメンスって団体があるらしい。俺とは無縁だな。

高田くん、そりゃメンサ(MENSA)だ。そりゃ君とメンスは無縁だ。とんでもない勘違いをしていて、それでもって全世界に向けてメンスって呟く高田くんがなんとも愛おしく感じたし、彼のこれからを観察したい気持ちに駆られた。早速僕は高田君を観察する専用のアカウントを取得し高田君をフォローした。

高田くんのアカウントを見てみるとどうも高田君は女の子にしか興味がないようで、26人ほどの女の子をフォローしているみたいだった。逆に女の子の何人かにもフォローし返されていて、20人程度のフォロワーがついていた。早速、同じようにその26人ばかりの女の子を僕もフォローしていく。

で、しばらくこのメンス高田くんの動向を観察していたのだけど、これがまあ、高田くんの機動力が凄い。さすがメンスの名前を冠するだけあって、女の子のフォローというか、ここではツイッターで言うところのフォローという意味ではなくて本来の意味でのフォローなんですが、ほら、女性って結構ツイッター上で落ち込んだりするじゃないですか。

全部が全部そうじゃないんですけど、男性って結構、落ち込んだりすることがあってもあまり表に出てこなく、ましてや魑魅魍魎が巣食うツイッター上で呟いたりはしない、これは古来よりある男には7人の敵がいるっていう考え方で、どこに敵がいるかもわからないのにそうそう弱味を見せないってことなんでしょうけど、女の子は結構、というかツイートの半分くらいが自分の心情なんですよ。当然、落ち込んでる時は何の躊躇もなく呟くもので

「今日、好きな人に無視された。凹む(T-T)」

こんな感じのこと出すわけなんですよ。これをワールドワイドウェッブに乗せて全世界に公開する意義については別の機会に論じることとして、あなたはこのような呟きを見た場合、あるいは近くにいる女性が口にした場合、どういった対応を取りますか。

人それぞれだとは思うんですけど、僕はまあ、面倒なことには巻き込まれたくないんでそういうのは完全にスルー、キーパーのヘルナンデスくんがバランスを崩すくらいのスルーっぷりなんですけど、まあ、多くの人は「元気出して」とかそういうふうに心がこもってなくても声をかけますよね。それが普通だとは思います。

けれどもね、それがかなりの頻度で多発していたらどうですか。毎日毎日、それも一日に何度もという頻度で頻発したら、さすがにどんな聖人であっても面倒になると思いますし、もうスルーしちゃおうかなって感じで接触を避けるようになると思うんです。

ちょうど高田くんのツイッターがそんな感じだったんですけど、どうやら彼はそういった少し傷つきやすい少女たちを中心にフォローしてるみたいで、傷つきやすい少女が26人、その子達がそれぞれネガティブな感情を吐露しまくってるもんですから、そりゃすごいことになってて

「なんでワタシ、生きてるんだろう」

「もう全てにお別れしちゃいたいな」

「つくづく自分が嫌になった。死にたい」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

「死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死」

「手首切った」

もう、僕、自分が見てるツイッターの画面がこんな呟きで埋め尽くされてたら裸足で逃げ出しますよ。重い重い。ボディーブローみたいにズッシリくるわ。最後の発言なんてゴールドクロスの修復してるじゃないですか。あまりにもネガティブすぎて読んでるこっちがウッカリ首を括ってしまいそうになるんです。

でもね、高田君は違った。それらの傷つきやすい少女たちに向かってちゃんと一個一個丁寧に返事を返していて。

「どうしたの何があったの?人はみんな生きる意味があると思うよ」

「お別れなんていわないでよ。俺でよければ話を聞くよ」

「自分のこと嫌になるのは誰にでもあるよ。俺でもそうだもん。だからそんな気にする必要ないよ」

「どうしたの?なにか嫌なことあった?」

「ダイレクトメールで連絡ください」

「ダイレクトメールでメールアドレス送りました。至急連絡ください。とても心配しています」

とまあ、非常に面倒見の良いこと良いこと。なかなか感心な若者じゃないか、僕の代わりに傷つきやすい少女たちを守ってくれよ、と高田くんに一目置いていたんです。けれども、これが大きな誤りでったことが後に分かります。

そうやって日々傷つきやすい少女たちをフォローしていた高田くんなのですが、ある日の早朝「今日は出かける」というツイートを残したまま丸一に呟かなくなってしまったのです。彼の呟き頻度から考えるとそれはかなり異例のことでした。

いつもネガティブな発言をするとすぐにフォローしてくれる高田くんが居なくなったことで多くの少女たちからも戸惑いが感じられました。たった一日いないだけなのに、いつのまにかこんなにもあの人の存在が私の中で大きくなってたなんて……。みたいな状態に。いつの間にか高田君も彼女たちにとってなくてはならない存在になっていたんですね。

僕が高田くんの代わりに彼女たちをフォローするツイートをしてもよかったのですが、いきなり気持ち悪いオッサンが横からしゃしゃりでてきてゴールドクロスの修復されても嫌なので、黙って見守ることしかできませんでした。

けれどもね、僕は気づいていたんです。かなりの頻度でネガティブなツイートを繰り返していた少女たちなのですが、高田君と時期を同じにして丸一日ツイートをしなかった少女がいたことに。

で、次の日、注意深く見ていると傷つきやすい少女たちは普段と変わりなく、高田君も普段と変わりなく、全く同じようなタイムラインが流れているかのように見えたのですが、唯一違っていた部分があって、あの昨日呟かなかった少女の様子がおかしいんです。

相変わらず何やらネガティブなツイートをしているんですが、何か様子がおかしい。さらには、高田もなぜかその子にだけはフォローをしない。お互いにまるで他人のように振舞っているんです。

ハハーン、こりゃあ、やったな。

そう思いましたね。ツイッターで異常に絡んでいた男女が急に絡まなくなった時は9割セックスしてますからね。昨日は多分、二人で会っていて一日かけてお楽しみだったんでしょう。とても元気があってよろしいことです。

そりゃあ僕も血気盛んだった頃はツイッターでセックスすんな!とか怒り狂い、ナマハゲみたいな格好でホテル街を闊歩とかしたかもしれませんが、もう36歳になりますよ、そうそう怒っていられません。むしろ、ツイッターでそうやってセックスにこごつけるわけか、やるじゃん高田、と翔さんの声を送りたいくらいですよ。

でもね、事態はそうではなかった。そうやってセックスしたと思われる少女たちは彼のフォロー、フォロワーから消えて行くんですね、で、そうすると新しい傷つきやすい少女が追加というか、もう入荷ですよ、いつのまにか補充されてるんですね。そういった、怪しい動きと少女たちが消える、こんなことが何度となく繰り返されていくんです。これはもう、最初からそういう少女たちを狙っているとしか思えず、あの数々のフォローも全部セックスという到達点のために行われていることであって、全部語尾にセックスがつくんだと思うんです。

「どうしたの何があったの?人はみんな生きる意味があると思うよセックスしたい」

「お別れなんていわないでよ。俺でよければ話を聞くよセックスしたい」

「自分のこと嫌になるのは誰にでもあるよ。俺でもそうだもん。だからそんな気にする必要ないよ、セックスは必要あるよ」

「どうしたの?なにか嫌なことあった?セックスする?」

「ダイレクトメールでセックスください」

「ダイレクトメールでメールアドレス送りました。至急連絡ください。とてもセックスしたいです」

こりゃあすげえな!巷には「ツイッター活用術」とか「ツイッターをビジネスに活用」とかインチキくさい本が溢れているけど、どんな本にも書いていないツイッター活用術じゃねえか!と僕も大興奮、さらに高田くんの観察を続けていると、ある事件が起こりました。

白雪姫(仮名)
どうして色々な女の子にちょっかいだしてるの?

自分で自分のこと白雪姫って名乗るのもどうかと思うのですが、高田くんにとって痛烈な指摘が一人の少女からなされました。というか、女の子の方から見ても高田くんが色々な女の子にモーションかけてるのは丸分かりで、なんで今までその指摘がなかったのか不思議なんですけど、ついに白雪姫さんがそのパンドラの箱を開いたのです。

「いや、別にちょっかいとかそんなんじゃないよ?僕は君だけだよ?」

もう高田も訳のわからない弁明になってて、どさくさに紛れて君だけだよって言っちゃってるんですけど、そうとう焦っているのが丸分かり。高田くんが馬鹿なところは、MENSAのことをメンスと勘違いていたところではなく、この「君だけだよ」発言が皆に見られていることに気づいていない部分です。

当然、他の傷つきやすい女の子たちは面白くないわけで、その高田くんの不誠実な言動にかなりの不快感を感じたらしく、次々と遺憾の意を表明。順次高田ガールズから脱退していったのです。見ていた僕も「あらら」と言うしかない急展開だった。

このような失態を演じてさぞや高田君も凹んでいるのかと思ったのですが、かれはへこたれない。そもそも全ての発言の語尾に「セックスしたい」が付属する人ですから、転んでもただでは起きない。

「ありがとう、そうやって叱ってくれたのは君が初めてだよ」

みたいなことを白雪姫に言い始めたんです。いやいや、白雪姫は別に叱ってない。ただ指摘しただけ、とか思うのですが、もう高田は止まらない。

「君以外の女は全部フォローを切った。君だけだ!」

みたいなことを平然と呟くんです。何食って育ったらこんなこと言えるんだ。で、見てみたら本当に切ってて、高田すげーって思ったんですけど、三日後くらいには「高田2」っていうアカウント作ってそこで他の女をフォローしてました。もうちょばれにくいアカウント名にしなよ。

けれども、それが白雪姫にはズシリと効いたらしく、

「別にそこまでしなくても…でもなんだか感動しちゃった」

と満更でもないご様子。それからもずっと二人でやりとりしていて、かなり微笑ましいやりとりがあって、僕はずっと二人を見守っていたんです。なんだかいつの間にか本当にいい雰囲気になってて、最初は高田のやつも語尾に全部セックスがつくくらい下心丸出しだったんですけど、今はもうそんなそぶりも見えなくて、完全に語尾からセックスが消えたんです。

そして、いよいよ二人が新宿で会おうみたいな話になって、僕もあまりに心配なんで見に行こうかと思ったんですけど、さすがにそれはちょっと良くないじゃないですか。だからツイートされなくった二人のツイートを見ながら、また高田のやつエロいことしようとして白雪姫ちゃんを傷つけてやしないか、白雪姫ちゃんはちょっとコミュニケーションとか苦手っぽいから押し黙ったりしてないか、もう心配で心配で、何度新宿に行こうと思ったか。

で、次の日、今までは高田が思いっきりセックスをぶち決めてよそよそしくなるのが常でしたが、今回はきちんと

「昨日は楽しかった、ありがとう」

「こっちも楽しかったよ」

「すごいかわいくてビックリした」

「高田くんだって」

と、セックスをしていないご様子。そこに高田の本気を見たし、すごい二人のことを応援したい気持ちに駆られた。どうやらこの時に二人ともメアドの交換をしたみたいで、重要な会話はメールでやってるのか、ツイッター上で会話が展開されることはなくなったのだけど、それでも

「おはよう(*^o^*)オ(*^O^*)ハー」

みたいな、クソうざったい会話が展開されていて、僕もその会話を覗き見るのが日課になりつつあったのだけど、ある日、白雪姫からこんな呟きが書き込まれていた。

「さようなら」

衝撃が走った。何があったのか分からない。けれども彼女は突然、ツイッター上で別れを宣言した。突然のことに僕は動揺を隠せなかった。高田、早く彼女をフォローしろ、と思うのだけど高田のアカウントに動きはなかった。きっと、電話とかメールでフォローをしているんだろう。

何が起こったのかは分からない。けれども、おそらく何か困難なことが二人の間で起こったのだろう。僕はそれを知るすべがない傍観者という立場にいることが残念で仕方がなかったし、二人に対して何もできない自分がとにかく無力だ思った。

二人は多くの涙を流したのだろう。どうしてこんなにも思いとは伝わらないものなんだとお互いにもどかしい思いもしただろう。思いのすれ違い、勘違い、どうしても恋をできないやむにやまれぬ事情、何があったのか分からない。けれどもきっと大丈夫。二人はきっと帰ってくる。僕はそう信じてずっと待っていた。ツイッター上で二人が帰ってくるのを待っていた。

「おはよう、昨日はごめんね」

「おはよう、これからもよろしくね」

二人は帰ってきていた。二人が出会い、愛を育んだツイッターに帰ってきていた。そして久々にツイッター上で会話が始まる。

「今度さ、買い物行こうよ」

「いいよーどこいく?」

「俺さ、冬物の服買いたいからさ、そうだなー」

困難を乗り越えた二人、それは本物の恋人同士になった瞬間だと思った。ずっと見守ってきていた僕も涙がポロリ。よかった、本当に良かった。ツイッターは140文字しか届けられない。けれども、込められた思いは無制限に送ることができるのだ。

「じゃあさ、新宿のマルイにいこうよ、メンズ館に」

その言葉に、ずっと見守っていた僕はついに書き込んだ。ずっと見守っていたことを打ち明けて謝り、それから二人と仲良くなれたりなんかしたら、それで3人で飲みに行ったりして、二人がいちゃつき始めたら、おいおいー俺がかえってからにしてくれよー、もしくはお二人が出会ったツイッターでやってくれよー、とかなりたい、そんな思いで考えに考え、比較的軽いノリで書き込んだ。

「メンズ館?白雪姫ちゃんのメンスはどうなのかなー?」

次の日、二人のアカウントは消えていた。

ツイッターで届けられる140文字のラブレター、二人の恋、純愛、そんなものは全然関係なく、若かりし頃からの夢だった、メンスと言える大人、僕自身がそれになれたのが何よりの誇らしかった。

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