四畳半の戦場

四畳半の戦場

Date: 2012/03/28

こうして長いことワールドワイドウェブ上で日記を書いていますと、やはり自分的にも好きな日記、嫌いな日記というのが出てきます。そりゃそうです、もう10年半もやってるんですから。時間による堆積ってのは結構重要なもので、どんなクズでゲスなことでも10年もやればそれなりに立派に見えてくるものです。

例えば、毎日ヒゲを剃らずに毛抜きで抜いて正露丸のビンか何かに集めている人がいたとしましょう。その行為自体は別になんてことはない、むしろお見合いの席で「ヒゲを抜いて集めてます」なんて言おうものなら、一発で向こうからお断りの電話が入るレベルです。

ただ、その行為も10年も続ければ立派なもので、一つの偉業に昇格します。貯めたヒゲの量も相当なものになっているでしょうし、なんか見てるだけで痒くなってくるような独特の禍々しきオーラを放っていることでしょう。自分で垂れ込めばローカル局の情報番組くらいなら取材に来るかもしれません。

このように、その行為自体は大したことがない、いやむしろクズの部類に入る行為であっても、それを10年続ければそれなりのものに変わるものなのです。何かと移り変わりが激しくスピードとイノベーションが求められる現代社会、その中においても変わらないことっていうのはある程度大切なのかもしれません。

で、好きな日記っていう話に戻るんですけど、そうやって10年もやってるとやはり自分的にも好きな日記って出てきますし、閲覧した方でもこの日記はいいね、とか思ってくれる人もいると思うんですよ。過去の日記を取り上げて、これ面白い、ってtwitterとかで紹介してくれたりね。

ただ、時間の壁ってのは確実にあって、何年も前に書いた日記って今の僕から見ても僕が書いた日記じゃないし、完全に他人が書いた日記なんですよね。へーこんな日記もあるんだ、ってすごい他人の目線で見ていたりする。そうすると、好きにな日記って意味合いも違ってきて、当初は書いた自分として好きな日記だったのだけど、完全に閲覧者の目線で好きな日記を選ぶようになっている。

もう一つの意味での時間の壁っていうものも存在して、これは長期連載の漫画なんかによく起こる現象なんだけど、長い長い連載期間の間に社会情勢がめっきり変わってしまうという点。それが最も分かりやすいバロメーターが携帯電話だ。

例えば、10年前ならまだしも20年前には携帯電話なんてのは今ほど普及していなかった。あったとしても通信兵みたいなとんでもないものだった。それが今や、誰もが持ってる必須アイテムにまで昇華し、社会生活を一変させる存在にまでなった。

長期連載の漫画はそのへんの部分に頭を悩ませていて、連載当初は携帯電話なんてありえなかったのに、なぜか漫画内ではそんなに時間が経過している設定ではないのに突如として携帯電話が登場したり、逆に一貫して携帯電話を登場させず、すごく時代から置いていかれた状態になっている作品も存在する。

長く続けることはそれなりに意味があることなのだけど、この時間の壁だけは非常に深い問題になる。特に漫画や書籍なんかは、発行年数とかコミックスの巻数などから書かれた年代がある程度は推測できるのだけど、インターネットの文章は往々にして書かれた年代が分かりにくい。結果、この時間の壁がモロに露出して、こいつ何言ってんだ、みたいな状態になることが多い。

例えば、最も分かりやすい例を挙げてみると、僕が書いた日記なんだろうけど、閲覧者として非常に好きな日記があって、それが「四畳半の戦場」という日記なのだけど、過去に書いた日記だけあってそんなに長くないのでここに全文を転載してみる。

四畳半の戦場

へへ、やっぱり血には抗えないもんだな。またこの戦場に舞い戻ってきちまったよ。

今を遡ることおよそ2ヶ月前の4月、テレビとビデオという戦友を同時に失った俺はエロビデオから引退した。血で血を洗うエロビ闘争から一歩身を引き、悠々自適の隠居生活、そうなるはずだった。

けれどもな、一度染まっちまった血ってのはなかなか元にゃ戻らねぇ。俺の中を脈々と流れるエロビソルジャーの血が、ピンク色の血が、平穏な日常を許しちゃくれないのさ。

泣き叫ぶ妻子を置いて俺はまた戦場に舞い戻った。レンタルビデオショップのエロビデオコーナーという名の戦場。広さたった四畳半ほどの小さな戦場。甘えも妥協も命取りでしかないこの世界に舞い戻ってきたんだ。

俺の装備は心もとない。相変わらずテレビも、ましてやビデオもありゃしねぇ。けれどもな、戦場でそんな泣き言を言うヤツなんていやしねぇ。ココじゃあ装備よりも魂だ。それに、今は便利な世の中になったな、俺にはDVDってやつがある。これだけありゃあいくらでも立派に戦ってみせらあ。

くくく、やはりココは戦場だぜ。どいつもこいつも焼け付くようなギラギラした目をしてやがる。ハズレのビデオを選ばないように、間違って最新作を借りてしまわないように、予算内に収まるように、どいつもこいつもナイフみたいな目をしてやがる。

四畳半ほどの広さの戦場に、俺を含めて3人もの男がいやがる。他のナヨナヨした男とは違う、牙を持った男達、それも信じられないくらい研ぎ澄まされてやがる。

俺には分かってるぜ。お前らも信念があってこの戦場にいるんだよな。男には自分の世界がある。例えるなら空を翔ける一筋の流れ星(ルパンザサード)。

おっと!いきなり死のカーテン(注1)か。相変わらず手加減もクソもありゃしねえ。ブランク明けのこの俺に情け容赦なく死のカーテン。へへ、鬼どもが棲む世界はこうでなくちゃな。

(注1 死のカーテン-エロビデオを選んでいる人の前に立ちふさがり、選ぶのを妨害する行為。エロビソルジャーとしてはローキック並みに基本)

俺の前に立ちふさがる今時風の若者。名前はリトルジョン。なかなか良い動きしてるじゃねえか。だがな、移動の際に左肩が開く癖はいただけない。それじゃあ死のカーテンの意味がないぜ。おっと、ついつい先輩風吹かしちまった。ここじゃあ全員敵だったな。敵対心も忘れて忠告とは、俺も年取ったもんだぜ。いやいや、ブランクのせいかな。

おっと、こちらのオタク風のお兄さん(サンダース)はゾーンディフェンス(注2)か。この動きを見ると、俺は戦場に帰ってきたんだなあって思うよ。

(注2 ゾーンディフェンス-目ぼしい作品をキープしまくり他の人が借りられなくする手法。ガッチリキープした作品群から吟味し、最終的に借りる作品を決める。堅実派ソルジャーが好んで使う戦略)

この世界は何も変わっちゃいねえ。いつまで経っても戦場は戦場だ。今日が復帰戦だって甘ったれた気分も吹き飛んじまった。さあて、俺も極上のエロDVDでも借り漁るか。見てろ、リトルジョン、サンダース、これがプロのエロビソルジャーのエロビチョイスだ!

ブランクもものともせず借りまくる。いや、駆りまくる。そう、コレだよコレ。俺が求めていたものはコレだ。平穏な日常なんてクソ喰らえ、男と男のプライドを賭した戦い、生きてるってこういうことなんだ。

血を沸騰させながらエロDVDをキープしていく。その様を見て格の違いってヤツを悟ったのか、リトルジョンはスゴスゴと退散した。妥協して選んだのだろう、数本のエロビデオを大事そうに抱え退避した。戦場に背を向けた男、リトルジョン。なあに、まだ若いんだ、いくらでもやり直せるさ。

さて、そろそろ俺の方もサンダースに引導を渡して仕上げにかからなきゃな。おや?さっき戦場に背を向け、数本のエロビデオを持ってカウンターに行ったはずのリトルジョンが戻ってきやがった。一度戦場に背を向けた男が戻ってくる、これは只事じゃないぜ。

ふと棚の隙間からカウンターを覗いてみる。一体リトルジョンの身に何が起こったのか。ヤツを戦場に舞い戻らせたものは何なのか。塹壕から覗き込むように確認した。

バ、バカな!カウンターの店員がカワイイ婦女子に代わってやがる!

おかしい。さっきまでは屈強な憲兵みたいな店員だったはず。確かにそうだ、店に入った時に確認したはず。確かに憲兵だった。それが、今やカワイイ婦女子に。これだから戦場ってヤツは恐ろしい、何が起こるか分かったもんじゃねえ。

男店員だと思ってエロビを持っていったらカワイイ女に代わっていた。それでリトルジョンは血相変えて戻ってきたってわけか。 確かに恐ろしい。ビデオ屋の女性店員は地雷原みたいなもんだ。うっかり足を踏み入れたらとんでもないことになる。できれば避けて通りたいものだ。

でもな、戦場において「地雷原だから通れない」は通用しねえ。そこが地雷原だろうがなんだろうが先に進むのみ。俺たちエロビソルジャーは不器用だからな、それしかできねえんだ。

「このままじゃ、いつまで経っても行けない。よし、勇気を出して行ってみよう!」(リトルジョンの心の声)

「まちな」(俺の心の声)

「え・・・!」(リトルジョンの心の声)

「あたら若い命を散らすでない。お前はまだ若いんだ。俺が行く」(俺の心の声)

「そ、そんな、だって俺・・・アンタが選ぶのを邪魔したり・・・」(リトルジョンの心の声)

「なあに気にするな。昨日の敵は今日の友。一緒に戦ったらもう戦友さ」(俺の心の声)

「俺・・・俺・・・」(リトルジョンの心の声)

「女店員は俺がひきつける。その隙にオマエらは周り込んで男店員の方を突破するんだ、いけ!リトルジョン!サンダース!」(俺の心の声)

「隊長・・・!」(リトルジョンとサンダースの心の声)

うおおおおおおおおおお。塹壕を飛び出し、迫り来る砲弾をかいくぐって敵将の元に辿り着いた俺。早速、吟味したエロDVDを差し出す。「レイプ!レイプ!レイプ!」タイトルだけで10年くらい懲役になりそうなDVDを麗しき女店員に差し出す。

「会員証をお願いします」

「なにをやってるんだ。リトルジョン、サンダース。早く、俺がひきつけてる間に周りこめ!」(俺の心の声)

会員証を受け取り、バーコードを読み取る女店員。その隙にリトルジョンとサンダースが塹壕を飛び出し、男店員の方に回りこむ。これでいい、これでいんんだ。そんな心配そうに見るな。老兵は死なず、ただ消え去るのみ。年老いたロートルが若い世代にしてやれることなど、これくらいのものだ。

「あれ・・・あれ・・・?」

戦場ってヤツは魔物が棲んでいる。何が起こるかわかりゃしねえ。女店員は必死でエロDVD「レイプ!レイプ!レイプ!」のバーコードを読み取ろうとするのだけど、全然読み取れない。

「田中さん、バーコードが・・・」

女店員は横の男店員に懇願するように話しかける。

「んあ?なんのソフトが読み取れねえの?ソフトによってたまにあるんだよなー」

「レイプ!レイプ!レイプ!です」

ごふっ!

やられちまった。やられちまったぜ。これじゃあ晒し者じゃねえか。婦女子の口から借りたエロDVDのタイトルを言われる。間違いなく致命傷じゃねえか。

「リトルジョン、サンダース、良く聞け。俺はもうダメだ。敵の次の砲撃が来る時、俺はもうこの世にいないだろう」(俺の心の声)

「隊長ーーー!」(リトルジョンとサンダースの心の声)

リトルジョンとサンダースは、俺の横の列に並びながら悲しげな目で、悔しげな眼差しで見ている。

「なあ、今度生まれ変わったら戦争のない世界で過ごせるのかな。俺達ソルジャーが気兼ねなくエロビデオを借りられ、誰と争うこともなく好きなエロビデオを借りられる、そんな世界が来るのかな・・・・ガクッ」(俺の心の声)

「隊長ーーー!」(リトルジョンとサンダースの心の声)

リトルジョンとサンダースをかばうため、若き次世代に自分の意思を受け継がせるため、戦死したはずだった。しかし次の瞬間、奇跡が起こった。

「あー、いいよ。こっちでやるから。貸して」

男店員は俺の「レイプ!レイプ!レイプ!」を女店員から受け取ると、自分のレジで処理し始めた。すんでの所で命拾いだ。そして、

「お待ちのお客様、こちらにどうぞー」

手が空いた女店員のその言葉は、他でもないリトルジョンとサンダースに向けられていた。

リトルジョン、サンダース、戦死。

エロビデオコーナーという名の四畳半の戦場。ココでは何が起こるのか分からない。少しでも気を抜けば即座に命を落とすことになるだろう。

あばよ、リトルジョン、サンダース。お前らの墓参り、ちゃんと行ってやるからな。いや、俺らに墓参りなんて似合わないな。お前らが命を落としたこの場所に、お前らの大好きなエロビデオ持って来てやるからな(1週間後に返却しに)。

すさまじい日記だ。これ本当に僕が書いたのだろうか。自分で自分の日記を褒めるのは、職場の会議で自分の意見を押し通そうとする人が演じる茶番劇より滑稽なのだけど、もう僕は作成者より閲覧者の目線になってしまってるのであえて褒めようと思う。

まず、スリリング、読んでいてハラハラドキドキしてしまう。それでいて、あの特殊なビデオ屋のエロビデオコーナーという空間を見事に表現しきっている。緊張感の中にあってほんのりとした優しさを垣間見せる場面もあり、緊張と緩和のバランスが非常に良い。さらには、女性読者のことなど1ミリも念頭に置いていない姿勢が素晴らしく潔い。ついでに「四畳半の戦場」というタイトルも秀逸で、語感が良いだけでなく、実際にはエロビデオコーナーが4畳半の広さなんてことは絶対にないのだけど、それだけ狭く感じるほど濃密な空間であることを連想させる。さらには四畳半とは等身大の自分と同じ意味を持つ。僕だけの戦争、2004年時点でこのタイトルをつけることができるセンスには驚くばかりだ。

と、自画自賛してみたのですけど、結構気持ち良いもんだ。とにかくまあ、僕はこの日記が作成者としては別にそうでもないのだけど、閲覧者としての視点で見ると格段に好きだ。なんか趣があって、すごい深い心情風景が広がってくる。古き良き時代を思い起こさせるのだ。

けれども、これももう、完全に時代にマッチしていない。これを書いた当時は、まだyourfilehost維新が起こっておらず、インターネット上でエロい動画を見ることなんてありえなかった。エロサイトに挙げられた数秒のエロ動画を見るために、訳のわからない「FREE XXXX!」とかギラギラ光るバナーをクリックし、隠しリンクをクリックし、お礼は三行、そんな時代だった。

つまり、まともにエロい動画を見ようと思ったらビデオ屋に赴き、徹底的に吟味に吟味を重ねてエロビデオをチョイス、7泊8日レンタルにするために最新作は避けて旧作を狙う。何度となくパッケージに騙され、単品女優物から複数出演の企画物に移行していく、そんな時代背景だった。世の多くの男性がそういった修羅の刻を経験しているからこそ、この日記は共感を呼ぶし、心の中のいちばんウブな何かを刺激するに至っているのだ。

それが今やどうだ。ピッポッドン!たぶん、3回くらいクリックしたらいくらでもエロ動画に到達してしまう。抜くのに十分な画質長さ、それらが簡単に、それでいて無制限に手に入ってしまう。

さらには、DVDの台頭、販売用のセルDVDが安価になったこと、amazonなどのネット通販の隆盛、それらが追い打ちをかけて誰も金を出してレンタルしなくなったし、恥ずかしい思いをして借りなくても通販で手に入るようになってしまった。ちなみに、エロビデオ最盛期のVHSビデオなど標準で2、3万円くらいだったが、いまやエロDVDは2千円前後、完全に手が出る値段だ。

皆さんも思い出したかのようにお近くのエロビデオコーナーに行ってみるといい。もう既に存在しないか、あったとしても申し訳程度、本当に4畳半くらいの広さかもしれない。そして、ゴーストタウンのごとく人がおらず、陳列もまばら、分類もやる気がないものになっているはずだ。

あの時代を知っている人ならいいだろう。この「四畳半の戦場」を読んで、そうそう、あんときむっちゃ吟味したのにパッケージに騙されたなあなんて思ってくれるのだけど、今のエロ動画サイトしか知らないゆとり世代、円周率を3で習ったゆとり世代が読んだらどう思うだろうか。何言ってんだ、このオッサン、くらいのことは思うかもしれない。

そうなるとね、やはりゆとり世代にも優しいNumeriを自負してるわけですから、今の時代に即した「四畳半の戦場」を書かないといけないわけですよ。今のインターネットダウンロード時代に即した「四畳半の戦場」ということで、いってみましょう。

四畳半の戦場

また俺は帰ってきちまった。この戦場に帰ってきちまったんだ。最初は耳を疑ったね、俺はもう退役の金時計ももらった。静かに余生を過ごす戦場とは無縁の老兵だ。何を間違ったのかその老兵にお呼びがかかった。なんてこたあない、戦局が厳しい、こんな老兵にまで声をかけなきゃいけないほど我が軍は追い詰められてるってことだ。

なんにしてもお呼びがかかるってのは嬉しいもんだ。いっちょ若造どもを揉んでやるか。俺は戦場へ行く準備を始めた。あそこは情も何も通用しねえ修羅の世界、エロビデオコーナーという地獄、鬼の棲む世界だ。それなりの準備をしなきゃ一瞬で命を奪われちまう。

戦闘服に身を包み、銃の手入れも怠らない。軍靴の靴紐を締めていざ戦場へ赴こうとした。しかし、若造は言う。

「今は戦場に出向く時代じゃないっすよ」

何を言ってるか意味がわからねえが、どうやら今は戦場で直接ドンパチなんて滅多にやらねえそうだ。なんでも家から手軽に戦場にアクセス、お気楽に戦闘を楽しめる、それが普通らしい。戦場でエロビデオを手に入れるなんて死語のようだ。

「じゃ、じゃあ、死のカーテン(注1)とかは使わねえのか?」

(注1 死のカーテン-エロビデオを選んでいる人の前に立ちふさがり、選ぶのを妨害する行為。エロビソルジャーとしてはローキック並みに基本)

俺の問いかけにゆとり世代だろう若い兵士は笑った。今は死のカーテンなんて誰も使わない、それどころかエロビソルジャーって言葉すら使わないらしい。エロビってなんすか?ゆとり兵士は馬鹿にしたように笑った。どうやら今はDVDもしくはファイルになってるらしい。

早速、ゆとり兵士の手引きでインターネットにアクセスし、今一番ホット言われるエロ動画サイト、xvideo.comにアクセスしてみる。なるほど、良い時代になったもんだ、こんなに手軽にエロ動画が手に入るとなると、感慨とかそういったものは皆無なんじゃねえか。そんな気持ちになってくる。

「とりあえず、俺はマッサージ物がみたいんだが?」

マッサージと偽ってエロスなことをして、リンパの流れがどうこう言ってエロスな部位を触る。そうこうしているうちに患者は良い気持ちになってきて、そんな動画がご所望だ。

「ここの検索窓に検索ワード入れて検索っス!」

ゆとり兵士はまるでゲームの攻略法を語るように軽やかに言った。戦場はこんなもんじゃねえ、もっと、気を抜いたら何もかも根こそぎ奪われるくらいの場所だ。この戦場には緊迫感が足りねえ。あの、エロビデオコーナーに蔓延していた、刺すか刺されるか、そんなリアリズムが微塵も感じられねえんだ。

「マッサージ リンパ」

検索窓に入れて検索する。結果がでやしねえ。

「ダメっすよ、xvideoは英語でしか検索できないっス!常識っすよ~↑」

嘆かわしいことに、鬼畜米英の言語を用いて検索しなければならないらしい。

「じゃあ、「中出し」とかどうやって検索するんだ?」

「中出しはCreampieっスよー↑」

釈然としないままCreampieで検索する。おおお、出るわ出るわ、数々のエロ動画、ってこれ全部外人じゃねえか!外人なんかで抜けるか!あいつらのセックスはスポーツ見てえじゃねえか!あいつらなんで絡みが終わったら変なBGM流すんだよ!とにかく外人で抜けるか!

「仕方ないっすよー、どうしても日本人みたいならJapaneseとかいれないとー↑」

「もういい!」

これは何か違うと思った。手軽なのはいいことなのだけど、何か釈然としない。そう、他者の存在だ。ここは戦場であって戦場ではない。なぜなら他者、敵が存在しないからだ。敵がいなくてなにが戦場か。

「もっと他に愛好家とか揃ってる場所はないのか?」

「あるっスよ~↑」

紹介されたのは、皆がオススメのエロ動画を紹介しあう掲示板だった。アクセスしてみるといるわいるわ、歴戦の猛者どもが掲示板にひしめき合い、我も我も動画を紹介し合う。

「この空気だよ、俺が求めていたものは」

試しに紹介されていたURLにアクセスしてみる。外人の女がオッフオッフ!言ってた。

「また外人じゃねえか!」

「仕方ないっすよー人の好みはそれぞれっす。外人が好きな人もいますから~↑」

「もうxvideoはいい!」

「じゃあ、ここっスね↑」

教えられたのは、どこかファイルを上げることができるアップローダーに有志がアップロードし、それを紹介し合う場所だった。俺にはこちらのほうがあの日のビデオコーナーの空気に似ていて性に合った。

「ここにアクセスすればいいのか?」

「そうっスねー↑」

最高に抜ける!大人気!なまめかしい腰使い!というファイルが紹介されていた。早速ダウンロードできるURLにアクセスしてみる。

「ダウンロードできねえけど?」

「人気があるから順番待ちっす、みんなダウンロードしようとしてるんすね。めげずに何度でもトライっすよ!」

これだよ、これ、俺が求めていたのはこれ。あのエロビデオコーナーでの死のカーテンや、人気作の取り合い、返却されました棚で待ち構える行為、そういった他人を出し抜くことに命をかけるあの雰囲気がこのアップローダーにはある。とにかく何度もアクセスしまくった。

「本当にこれダウンロードできるようになるのか?」

「なるっす!信じて頑張るっす!」

腱鞘炎になるかという勢いでクリックしまくった。そして戦うこと1時間、ついに

「ダウンロードが可能な状態になりました」

イエス!

俺は若造とハイタッチで喜び合った。ムリムリとダウンロードが進行する。アップロードした者の説明によると、なんでもエロい人妻が物凄い艶かしい腰使いで大ハッスルしているらしい。ジリジリと進むステータスバーに心躍らせながらダウンロード完了を待つ。

「ダウンロード完了しました!」

イエス!

再度ハイタッチをし、ファイルを解凍、ついに開く。そこには151ファイルにおよぶ瀬戸内寂聴さんの画像ファイルがギッシリつまっていた。

「どういうこと?」

「徳を積んだっスね!」

どうやら、そういった類の騙しがあるらしい。恐ろしい世界だ。

「今度はこの、弁当配達の女の子がってやついってみようか」

「それも人気ッスね↑」

こうして俺と若造は興味のあるエロファイルに片っ端からアクセスし、騙され続けた。どうやらその中にはウィルス?と呼ばれる生物兵器が混じっていたらしく、俺のパソコンの中身が皆に共有されることとなった。

「孫の写真まで流出してるっスね↑」

戦場をネット空間と移して繰り広げられるエロ電脳ウォーズ。あの日あの時のエロビデオコーナーより殺伐とした戦いが繰り広げられていた。恐ろしい世界だぜ。

おわり

あれだな、こんな日記ばかり十年書いてても何にもならないわ。

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