優しさのレオロジー

優しさのレオロジー

Date: 2011/04/20

人の優しさに触れるということはいくらかの戸惑いを覚えることなのです。この世の中は実は優しくない要素で構成されていて、例えば、僕が引っ越したばかりの一人暮らしの部屋で、異常に天井の低いロフトという名のエクストラルームにまだ慣れず、朝起きるたびに天井に激しく頭を打ちつけ、身悶えて脳挫傷になりそうな生命の危機を毎朝迎えていたとしても、誰も気に病んでくれないし、ふーん、あっそ、死ねば?くらいのものなのです。

それどころか、一人で寂しい、もう僕も齢34で周りの同い年の連中は家庭を持ち、子供を設け、今日は子供の入園式とかルンルン気分で有給を消化しているというのに、かくいう僕はエロビデオのレビューを書くから、貯まってんだ原稿が、と有給を取る始末。別にそれはそれでかまわないのだけど、たまに松屋でカルビ定食を食っててふいに外を見て、幸せそうな家族やらアベックなんかがいると、心に穴がポッカリ開いた気分になるのです。そんな寂しさを吐露したところで、別にカワイイ女性が全身にチョコを塗りたくって全裸で来てくれる訳ではありませんし、ふーん、あっそ、死ねば?くらいのことしか思わないと思うのです。

この世は優しさで構成されている、君は一人じゃない、なんて言うかもしれませんけど、この世は優しさで構成されていませんし、僕は一人です。それは別に僻んでるわけでもなく失望しているわけでもなく、歴然たる事実がそこにあるだけなのです。人はそんなに人のことに興味がないし、この世は優しさでなんか構成されていない。

多くの人が、人々の優しさに触れた時、戸惑い、そして感動するはずです。それこそがこの世界が優しさで構成されていないことの証左なのです。本当にそうであるならば、一つの優しさなど取るに足らないこと、まるで当たり前にそこに存在するはずなのです。たとえば、あなたはウンコをしたら感動しますか。便秘気味な女性なら感動するかもしれませんが、僕のように何度となくウンコをする人間にとってはウンコなど取るに足らない出来事、呼吸と同程度の存在でしかないのです。

つまり、優しさに戸惑い、感動を覚えるというのはこの世界において、いやアナタの周囲において優しさが珍しく希少な存在であるということなのです。優しさに感動するより先に、感動するほど優しさが少ない自分の状況を嘆くべきなのです。

そういった前置きを踏まえて、先日感動した話を書きますけど、ついこの間、1年の間に2回しか更新しなかった2010年の沈黙を破り、連続更新をぶちかましたじゃないですか。24時間の間に沢山更新して指が痙攣起こしたんですけど、別に全然更新しなかった2010年も怠けていたわけじゃなくて、こう、なんていうかビクビクしながら過ごしていたんですよ。

何にビクビクしていたかって、アナタたちにですよ、アナタたち。ホント、アナタたちは鬼が産み落としたんじゃないかってくらいに鬼の子ですから、こうなんていうか、電車で老婆とか見たら殺しちゃうんでしょ?それくらい鬼じゃないですか。で、1年に2回しか更新しないというある意味益荒男ぶりを発揮していた僕に、沢山の辛辣なメールを送ってきたじゃないですか。忘れたとは言わせません。

「早く更新しろ、死ね」

「とにかく死ね」

「毎朝死ね」

「ちょっと大きい市の市役所の手続きみたいに淡々と事務的に死ね」

とか狂ったように送ってきたじゃないですか。どういうもん食って育ったらあまり知らない人に「死ね」なんて送れる子に育つのか分かりませんけど、さすがの僕も「死ねとは手厳しいですな、ゲハハハハ」と最初の頃は程よく反応してましたけど、そのうちメールを見なくなっちゃったんですわ。そりゃそうですわな、ある小部屋に入るとエンドレスで狂ったように死ねって言われるアトラクションがあったとしたらどうしますか。最初は面白がって入るかもしれませんけど、そのうち入らなくなりますよ。

Numeri経由で来るメールってのが大体、メールフォームからくるもので、そのメールフォームから来るメールには「Numeriメール」っていうタイトルがつくんですけど、数あるSPAMメールに紛れてくる「Numeriメール」という題名のメールがくるじゃないですか。そうするとまた死ねって言われるんじゃないかと恐ろしくてですね、「ヒィ!」とか奇声を上げて震え、布団をかぶって夕方まで寝てる、なんて状態が続いたんですよ。

そんなこんなでメールチェックすら恐ろしくてできない日々が続き、それでも一日に来る量が半端じゃないですから、数日メールチェックしないとメールボックスがパンクしちゃうんでメールチェックするじゃないですか。でもね、どうしてもメールフォームから来る「Numeriメール」だけは開けなかった。

でね、ついに先週、連続更新にて復活したわけなんですけど、それでもやっぱり怖いわけですよ。皆さんは僕のことをビッグスクーターにまたがって夜な夜な暴走族の頭蓋骨を叩き割って回ってる豪胆な男だと思ってるかもしれませんけど、本当は繊細でナイーブなんです。こう、連続更新を終えてもビクビクしてたわけですよ。

「テメー、1年も待たせてなんだあの更新は、死ね」

「連続でやればいいってもんじゃねえだろ、死ね」

「更新してんじゃねえよ、死ね」

「pato、さよなライオン」

「【拡散希望】大至急拡散してください!pato死ね!」

みたいなメールが山ほど来てて、もう身も心もズタボロにされるって恐れていたんです。もう怖くてメールチェックすらできなかった。絶対に連続更新を受けて発奮した鬼の子どもが狂ったように死ねメールを送ってきてると信じて疑わなかった。

けれどもね、やっぱメールチェックしないってわけにもいきませんから、おっかなびっくりな感じでメール受信をし、「きゃ!」とか乙女みたいな声を出しながらおそるおそるメールボックスを覗いてみたんです。

そしたらね、きてないんです。

そりゃあ「ムネダル人妻の不倫願望通信」みたいな意味の分からないスパムメールはアホみたいに来ているんですけど、なんだムネダル人妻って、で、その中に「Numeriメール」がないんです。もちろん、「Numeriメール」がないんですから「死ね!」なんていう鬼の子のメッセージもないんです。

これはね、皆の優しさだと思いましたね。もちろん皆さんも許せない思いがあったと思います。patoのヤロウやっと日記を書きやがったか、とか、なんだその内容は、とか、つまらん、お前の日記はつまらん、とか不満な部分は多々あったと思います。けれども、長いこと日記をお休みしていたんです。どんな人でもpatoの状態が著しく不安定なんじゃ?と心配になるはずです。そこであまり辛辣な言葉を投げかけたら大変なことになってしまうんじゃ…なんか、そんな皆の優しさが見えたようでした。

本当に皆さんは成長したものです。一昔前なら、街でpatoを見かけたら矢を放ってよい、なんてことが真剣に話されていたくらいですから、それから考えると大変な進歩。大きな一歩。このNumeriメールが全く来ないっては本当に皆さんの気遣いや優しさなんだと思います。

Numeri開設10年になろうかというこの時期に、初めて閲覧者さんの優しさに触れてしまい、戸惑いと同時に感動を覚えたのです。世の中ってのはやっぱり優しさでは構成されていないんだけど、それでもたまに触れる優しさがあるから生きていけるんです。

その優しさってのは、実は受け取るほうだけじゃなく与えるほうにも重大な役割を示すことがあります。以前、僕が職場で隔離されてる話は書いたと思います。広いオフィスに一つ机を置いてポツンと座り、インターネットの線すらきてないのでどっかの無線LANの電波を勝手に拝借して職場ネットワークに繋いでるのですが、その職場に同じく皆に嫌われているような女性が配属されてきたんですね。

まあ、この女性がブスでしてね、僕も人の容姿をとやかく言える立場にはないんですけど、とにかくブス。一応、僕の秘書みたいな感じになるのですが、他の秘書がついている同僚にはマドンナ古文みたいな女性があてがわれているのに対し、なぜか僕だけブス。それも男同士の絡みとかそういうマンガが好きそうなブス。美男子同士のラブシーンに「ムッハー!」とか言ってそうなブス。とにかくブス。

でもね、別にブスだとかそういうのいいじゃないですか。いい加減そういうのやめませんか。ブスだブスだと祭囃子のように囃し立て、自身の運営するサイトに書き連ねる、そんなことして何になるっていうんですか。もうそうんな時代じゃないんですよ。優しいインターネットの時代ですよ。

とにかく、ちょっと容姿が劣るその女性が秘書についたのはいいんですけど、こいつが色々と酷い。秘書のくせに全然仕事しない。いや、仕事しないのは僕も言えた義理じゃないんでいいんですけど、なんていうか明らかに反抗的過ぎて恐ろしい。秘書ってもっと色々と献身的にサポートする立場じゃないんですかって質問したくなるくらいに酷い。

「ちょっとお願いしたいんですけど、この書類を郵便で送っておいてもらえませんか?」

みたいに、僕が物凄く下手に出て媚びへつらってお願いするんですけど、

「今忙しいんで」

と断られる始末。忙しいという彼女のパソコンの画面には多分、ネットで公開されているボーイズラブ小説。そのうち彼女が「臓物が痛い」という良く分からない理由で三日に一度は休むようになり、「明日は大切な会議があるので休まないでくださいね」と僕が彼女のスケジュール管理をする始末。どっちが秘書なんだかわからない。

おまけに、どういった類の嫌がらせなのかちょっと理解できないんですけど、ある日、仕事場に行くと入口のところにデーンと「ペットの消臭元」が置かれてましてね。それも二個。「あんた臭い!」っていうアピール程度の嫌がらせなら我慢もできますけど「それもペットの臭い!」って部分が本当に傷ついた。さすがの僕もあまりに腹が立って「やなやつ!やなやつ!やなやつ!」とか憤慨しながら職場の廊下を歩く状態でした。

そんな感じで秘書との確執がシャレにならないレベルに達したある日、事件が起こりました。ちょうどその日は午後から出張で飛行機に乗らねばならず、空港へと向かうシャトルバスの時刻が知りたくなったのです。それで調べてもらおうと思ったのですが、残念ながら秘書の方はネイルを塗るとかなんとかで遅刻の様子。僕も別の仕事がありましたので「お忙しいところを申し訳ありませんが、シャトル便について調べておいてください」とメモを残していったんです。

で、2時間くらいして戻ってみると僕の顔を見てメモのことを思い出したらしく、いきなり調べだしたんですね。で、何かブツブツ言いながらパソコンに向かって検索してるっぽいんですけど明らかに「シャトルベン、シャトルベン」って言っておられるわけなんですわ。どんな検便だ。

明らかにシャトル便のことシャトルベンって読んでる事実に戸惑いつつ、じゃあ郵便とかはユウベンとか読むのかしら、便箋とかはベンセンなのかしら、とんでもないお人だ、などと悶々としていたら、二人しかいないオフィスにとんでもない音が響き渡ったのです。

プー

文字で書くとこうなっちゃうんですけど、現実にはもっとこう、生々しいというか、生命の息遣い的な感じというか、あえていうなら「プ」と「ブ」の中間みたいな音声がオフィスに響き渡ったんですよ。早い話がオナラです。

この事実を踏まえ、恐ろしいほどの頭の回転で推理するんですけど、オフィスに響き渡るオナラ、この部屋には二人しかいなかったという事実、そして僕はオナラをしていないという事実、それらを総合すると犯人が一人しかいないんです。そうです、犯人は彼女、秘書の彼女なんです。

もうこの事実に完全に狼狽してしまいましてね。いくら彼女がブス、じゃないや、少しだけ整形を必要とするような容姿の人、だと言いましてもね、ホモが活躍するマンガが好きだとしましてもね、20代前半のお嬢さんなわけなんですよ。そんな彼女が殿方の前でオナラをする、それがどれほどのことかわかりますか。

どうしようどうしよう、ここは「おやおや~、仕事はできないのにいっちょ前に放屁だけはする秘書さんがいるようですな~」とか「秘書さんがオナラという飛び道具とは恐れ入った、こりゃあ秘書じゃなくて飛車ですな!」とか「ロケットのようなオナラ!まさにシャトルベン!」とか徹底的に彼女を辱めることができる、小生意気な彼女を辱めることができる、などと発奮してしまいましてね、なぜかデスクに座ってハー!ハー!と荒い息遣いをしておりました。色々とギリギリchopと言わざるを得ない。

で、どうやって彼女を辱めるべきか考えていたんですけど、そこでふっと思ったんです。こうやって彼女を辱めることは簡単だ。でも、そうすることで憎しみの連鎖が起こるんじゃないか。憎しみとは悲しみだ。憎しみの連鎖は悲しみの連鎖しか起こさない。ここはその連鎖を優しさで食い止めるべきなんじゃないだろうか。

この世はいつだって憎しみと悲しみがリフレインしています。そんな中にあって、それを食い止めるのが優しさなのかもしれません。それこそがたまに見ることができる優しさなのでしょう。へへ、ちょっと紳士的にふるまってやるか。シャトルベンの時刻表を調べた彼女が、プリントアウトした紙を持ってこちらにやってきます。オナラをしてしまったという負い目からか、少し顔が赤く、目も合わせてくれません。そんなに恥ずかしがることはないよ。僕が優しさで包んであげよう。

「いやー、ごめんね、すごいオナラでちゃったよ。ちょっと出ちゃったしね!」

と、入学式の時におしっこを漏らした堀田君みたいなバツの悪い笑顔で言ってみました。ちょっと舌を出しておちゃめな感じで言ったくらいです。明らかに彼女がオナラしたんですけど、その罪を背負い、さらにはちょっと身が出たとまでカミングアウトする僕の優しさ。

やはり、彼女は僕の優しさに触れ、驚き、戸惑い、感動していました。なんだかその顔を見ていたらこれからこのこと上手くやっていけそうな、そんな気がしてきました。

彼女が入口に向かい、そこに置かれた二つのペット消臭元を手に取ります。たぶん、僕の優しさが心に響いて、私ったらなんであんな優しい人にこんな嫌味なことしちゃったんだろう、もう、バカバカって思ったに違いありません。やはり世の中、たまの優しさですよ。たまにだからこうやって人の心を動かし、すべてが良い方向に向かうのです。

と、思ったら、彼女、手に取ったペット消臭元をバンバンと二つ僕のデスクの上に置くじゃないですか。まるで、本当に僕がオナラをぶちかまして臭いのはテメーだ、と言わんばかりに!テメーはペット級の臭さだと言わんばかりに!こんのブス!

ツカツカと、まるで同じ部屋の上司がオナラをぶちかますセクハラ男でかわいそうなワタシとでも言わんばかりの後ろ姿で自らのデスクへと戻るブス。せっかくの優しさを踏みにじられ、ついでに罪まで被せられ心底落胆したのでした。

こうやって、優しさとは往々にして踏みにじられることがありますが、やはり常日頃からの優しさではなく、たまの優しさこそが人々に戸惑いを与え、感動を与え、行動を変えるのではないでしょうか。常に優しさが満ち溢れていたら、それが当たり前で何の効果もないのです。

ブスには届きませんでしたが、僕には皆さんの優しさ、辛辣なpato死ねなどのメールがメールフォームから届かない優しさに目が覚めました。やっぱpato死ねなんてそんな軽々しく言ってはいけない言葉ですよ。ホント、素晴らしい閲覧者さんたちだ。アナタたちは僕の誇りだ。などとNumeriのトップページを眺めながらウットリしていたら、リニューアルの際にメールフォームを付け忘れていることに気が付きました。

だから辛辣なメールが来なかったのか。ホント、メールフォーム付け忘れるとかpato死ね![

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