駒からヒョウタン

駒からヒョウタン

Date: 2008/08/04

ヒョウタンから駒が出てくると嬉しいが、駒からヒョウタンが出てきても大して嬉しくない。

そもそも、「ヒョウタンから駒」というのは、意外なところから意外なものが出てくるという意味だ。往々にして、予想外のラッキー的な意味合いで使われる事が多い。じゃあ、なぜヒョウタンから駒が出てくるとラッキーなのか。「駒」ってのは何も王将とか香車みたいな将棋ゴマから出てくるわけじゃない。そんなの無理矢理ヒョウタンに入れればいくらでも出てくるわ。

「駒」ってのは馬のことを表しており、語源を当たってみると一日に数万里を走るとんでもない白馬だったらしい。分かりやすく言うと、ヒョウタンからディープインパクトとかナリタブライアンが出てくるようなものだろう。

あまり野暮なことは言いたくないですけど、ヒョウタンから馬が出てくるって正直あり得ないじゃないですか。物理的に無理じゃないですか。なのにニュって出てきてその馬がムチャクチャ走っちゃう。そりゃあ僕だって嬉しいですよ。

実は、人間ってのはこの「ヒョウタンから駒」的な意外性にめっぽう弱い。何の期待もせずにヒョウタンを振ってみたら中からナリタブライアンが出てくる。これはもう腰が抜けるほど嬉しい。ナリタブライアンで一稼ぎできると小躍りして喜ぶくらいだ。

しかしながら、普通に馬運車とか厩舎からナリタブライアンが出てきても、うん、まあ、そうね、くらいにしか思わない。そりゃそうだ、くらいにしか思わない。確かに出てくるのは嬉しいけど、ヒョウタンから出てきたくらいの興奮は味わえないのだ。

これと同じ事で、例えば女性なんかは特にそういった意外性に弱い。まあ、女性なんてのはクリトリスが第一の脳で、頭の中に詰まってるのが第二の脳でって感じで大抵がアッパーパーなんですけど、なんていうか、不良が子猫助けるとかそういうのに弱いじゃないですか。

なんか不良が汚い子猫抱いて登校とかしてくるでしょ、そすると女子なんかは「やだ、大谷君って見かけは怖いけど優しい……」とか言いますからね。大谷君、シンナーで歯とかボロボロですよ。モモンガみたいなズボンはいて大変なことになってますよ。それなのに、「乱暴な不良が」「捨て猫を拾ってくる」という意外性にとにかく弱い。あのですね、猫拾ってきて女学生が落ちるなら僕なんて500匹くらい拾ってきますわ。ボケてる老人とか拾ってくるわ。

でもね、僕が猫を拾ってきたってきっとダメなんですよ。いやいや、僕が猫を拾ってきても意外性がない、結構優しい感じの人間ってわけじゃなくて、確かに意外なんでしょうけど、そこには意外なだけでは満たされない何かが存在するんです。

つまり「ヒョウタンから駒」は嬉しいのだけど、「駒からヒョウタン」は嬉しくない、そういうことなのです。ヒョウタンから馬が出てくる、馬からヒョウタンが出てくる、どちらも意外なところから意外なものが出てくる意外性なんですけど、後者はどうもあまり嬉しくない。馬がムリムリとウンコして、その中にヒョウタンが入ってたとしても、まあ、意外なんだけど別に喜ばない。むしろ変なものでも食って体調悪くしたかと心配するほどだ。

それと同じ事で、不良が子猫を拾ってくるとその意外性にメロメロかもしれないけど、逆に子猫が不良を拾ってきたら大変、もう化け猫レベル。でっかい物の怪が不良の大谷君を咥えて登校してきてね、大谷君とかもう死んでてダラーンとしてるの。そりゃ女学生も泣きますよ。阿鼻叫喚の生き地獄ですよ。大谷君、首吊りみたいな感じで死んでるから失禁とかしてますしね。

結局、人間なんてのは意外性に弱いといいつつも、そこには計算に裏打ちされた打算ってヤツが存在して、あくまでも自分に都合の良い意外性だけを受け入れるのだ。意外なところから良く走る馬が手に入れば嬉しいし、不良の大谷君にしたって、心の中でちょっと大谷君のことを良いなって思ってるから意外な良いところを発見してメロメロになる。むしろ好きになる理由探しに過ぎない。僕のようなブサイクフェイスが猫を拾ってきたって、確かに意外なのだけど別にフーンって感じ、焼いて食べるつもりなのかしら、くらいのものなのだ。

もうずいぶん前の話になるのだけど、確か1年位前のこの時期だった。職場の野球大会という訳の分からない行事があり、炎天下の中訳もわからず野球をやらされた我が職場の面々は疲労し、熱中症患者を6人も出すという未曾有の大災害が巻き起こった。

しかも優勝した部署は温泉旅行にご招待というこれまた暑苦しい賞品で、これを企画したやつらは僕らを焦熱地獄に叩き込むつもりなのかと怒ったのだけど、なぜかウチの部署は異常に燃えて優勝を狙っており、大会1週間前から朝練とかやっていた。

そんな本気モードのチームで臨んだ1回戦、相手はお堅い部署チームで、明らかに運動不足の中年ばかり。正直楽勝だと思っていた。しかしながら、なぜかピッチャーをやらされていた僕は一球目で先頭打者のけっこう偉い人の頭にデッドボールを喰らわせてしまい、たった一球で危険球退場となった。職場のレクリエーション野球で退場させられるヤツもそうそういない。職場からも退場させられるかと気が気じゃなかった。

まあ、早々に退場になって仕方ないんでフェンスの向こうから体育座りで試合を見ていたんですけど、なんていうかですね、いつも根暗で何を考えているのか分からない、あの人は絶対にストーカーに豹変する、みたいなとんでもないことをいつも女子社員に言われてる林田君が大ハッスルしとるんですよ。

どうやら彼は野球部出身か何かだったらしく、もう玉さばきとか全然違うのね。もうバシュッと取ってシュッと投げて女どもがキャーって言うね、とんでもない状態になっとるんですわ。仕方ないので僕も女どもと一緒にキャーキャー言ってたんですけど、「あの人頭おかしいって。普通、重役の頭にボールぶつけないって。カウンセリングとか勧めるわ」みたいなこと言われて気持ち悪がられました。

結局ね、意外性に弱いんですよ。あの根暗な林田君が実は野球が上手かった。もうその意外性にメロメロですよ。スノーボードが上手なブスが夢を乗せてラップを歌いだすくらいメロメロだった。

まあ、これも明らかに計算しつくされた意外性で、ただ根暗で無口なだけでイケメンだった林田君だから演出できたに過ぎない。「野球が上手い」という自分らが納得するだけの良い面を探していただけに過ぎないのです。

例えば僕が危険球退場にならず、なぜかイチローばりに大ハッスルして活躍したとしても、「なにあいつ一人で燃えてるの」「職場の野球大会で本気出しちゃって空気読めないわー」「顔が気持ち悪い」って言われるに決まってます。そう、意外性で良い印象をもたれる人間ってのは、元々ポテンシャルが高いだけなんです。そんなの意外性でも何でもないわ。

というわけで、今日はホントの意外性という話をしてあげましょう。前述の林田君ですが、野球大会以後も女子社員の間では結構人気の高まりを見せていましてね、色々な女子に誘われていたんですよ。まあ、僕がこれだけ女子社員に人気だったら「しゃぶれや」くらいは言ってるんでしょうが、林田君は乗ってこない。どんな女子社員の誘いにも乗ってこなかった。

そこでまた意外性ですよ、少し無口だけど野球も上手でイケメンな林田さん、なのに誰が誘っても乗ってこない。あーん、すごい真面目で彼女を大切にするタイプだわ、ってなもんですよ。

そしてそれから数ヶ月経ったある日、その無口な林田君から突如として結婚報告が成されます。お相手は職場の女子なんか全く関係ない普通の女性。なんでも趣味で通っていた将棋クラブで知り合ったそうなのです。

そこでまた女子社員ですよ。あーん、真面目でスポーツも出来るイケメンなのに将棋なんて知的過ぎる!意外すぎる!とまたもやメロラップですよ。いやいや、こういっちゃなんですけど、根暗な林田君に将棋って結構あってるじゃないですか。意外性でも何でもないじゃないですか。なのにもう意外性の虜になっちゃってますから、そんなことにも気がつかないんですね。

そんなこんなで、ジューンブライドって言うんですか、6月くらいに挙式が執り行われたんですけど、何故か僕が披露宴の司会って言うか、友人関係が余興をしたりするお楽しみタイムの司会にされちゃったんですね。

呼ばれてた職場の女子社員などは林田君を取られたショックで「なによあのブス!」とか嫁の悪口言ってて、こいつら性格悪いから意外でも何でもねーなー酔い潰れて片乳でもだせねーかなーって眺めながら司会業をこなしてました。

さて、職場の連中の余興というか、職場内のひょうきんな連中が今時そりゃないだろうっていうレイザーラモンHGのモノマネをして会場を凍りつかせるという、僕も司会者として全くフォローしない異常な余興が終わり、いよいよ新郎と新婦が出あった将棋クラブの面々が出てきました。

まず、将棋クラブの偉い人が出てきて、長々と「夫婦というものは香車と同じです。あの駒は2つで一組なのです。お2人も香車のように真っ直ぐに力を合わせて……」みたいな挨拶をしてました。僕は司会者として、将棋の駒って結構二つ一組だと思います、あと、香車同士ってあまり力を合わせない、みたいなフォローを入れておきました。

その後は会場の来賓を巻き込んで、積み上げた将棋の駒を崩さないようにそっと抜き取るというスリリングな、司会者として全くフォローできないゲームが始まりました。プレイしているテーブルしか盛り上がらない、その盛り上がりもイマイチというとんでもない余興だった。

そんなこんなで披露宴も終わり、二次会へと突入するのですが、そこでの林田君が意外性の塊だった。

二次会の席では司会の重責から解放され、なんか新婦の友人だった大塚愛似の女の子に、僕が普段から説いている首重要説を延々と説いてました。これはまあ、人間の体ってのは頭と手と足が大切なんだという話で、その他の部位はそれらを繋ぐ役割しか担っていないというもっともらしい話です。

「人間なんてのはね、頭と手と足があればいいんだよ。それだけあれば事足りる」

こう言うと知的な感じがしてきて意外性が演出できるじゃないですか。あの人、今日の披露宴の司会でバカなことばっかり言っていたけど、こんな知的な一面もあっただなんて!ってなもんですよ。

「でね、その頭手足の重要な部位にはある共通点があるんだ。何だか分かるかい?」

もう気分はインテリジェンスですよ。大塚愛似の子も真剣に考えつつ「うーん、なんだろう」とか指先を唇というか口唇にあてて考え込んでます。

「頭手足、それぞれを支えているものはなんだい?そうだろ、首だろ。頭には首が、手には手首が、足には足首が、重要な部位を支えるところにだけ首って名称がつくんだよ」

「あ、ほんとだ、すごーい」

もう落ちたと思いましたね。こいつはもう僕の意外性に落ちたと思った。一気に攻勢をかけて畳み掛けます。

「人間の体ってのは重要な何かを支えてる部位にしか首はつかないんだよ。じゃあさ、もういっこ首があるでしょ、それは何だと思う?」

「えー、もう1個首?どこだろー」

「乳首さ!」

まあ、今コレをお読みの皆さんならこの辺から旗色が悪くなるのが十分に分かっていただけると思います。

「でもおかしいだろ、乳首ってのは何も支えてないのに首という名称がついている。何でだと思う?」

もうこうなると大塚愛似の女の子は下を向いて真っ赤な顔してますよ。心の奥底がトクンといって早まる動悸を抑えるのに必死、僕に恋しているに違いありません。

「そう、乳首は重要な部位を支えてるわけじゃあない。でもね、女の子の乳首の先には僕らの夢や希望が詰まってる。頭蓋骨より重いそれらを支えてる乳首はやっぱり首なんだ」

「だから何も恥ずかしがることない。その夢や希望を、僕らの熱い想いを支えている乳首を見せてくれないか?不純な動機とかじゃなくて、その労をねぎらいたいんだ」

みたいなこといったら、その子帰っちゃいました。

なんだかなーって思いながら誰も近付いてこないで一人でチビチビと酒を飲んでると、なにやら会場が騒がしいじゃないですか。見ると、なんか新郎の林田君がベロベロに酔っ払ってるんですよ。もう、その酔っ払い方たるや物凄くて、あんな林田君見たことないってレベル。

同僚とか将棋クラブのメンツとかに絡みまくってですね、俗に言う悪いお酒ですよ。もうこれには林田君に憧れまくってた女子社員どももドン引き。でもね、あんたらが言ってる意外性ってのは野球が上手いことでも将棋が上手いことでもない、こういうのこそが意外性なんだ。

プラスに感じる意外性なんて、結局、心のどこかで期待している事象の延長に過ぎないのだ。本当に真に意外なものなんて、好青年が酔い潰れて大変なことになるとか、新郎の友人にいきなり乳首のことを熱く語られるとか、そういったドン引きするレベルのものなのだ。

もうヘベレケに酔っ払って、余興に使った将棋駒をアナルに入れるという暴挙に出た林田君。新婦は泣いていた。あんな角があるものを入れたら痛いに決まってる、「いてていてて」と言いながら入りきらずにボロボロと林田の尻から落ちてくる林田君を見て、こいつがこんな状態になるとは、ヒョウタンから駒ならぬ林田から駒だな、と思ったのだった。皮肉にも、その駒は香車だった。

もちろん、意外性には、本気で予想だにしていない嬉しいサプライズだってある。宝くじに当たるとか、友人が内緒で誕生パーティーを企画してくれてるとか。本気で心の隅ですら計算していない意外性、それこそ、ヒョウタンからすごい馬が出てくる喜びだ。しかし、それらは裏打ちされた打算の産物である意外性とは根本的に異なるものなのだ。計算された喜ばしいヒョウタンから駒なんて意外性でも何でもない、計算できない不幸な駒からヒョウタンの方が意外性なのだ。

今日、1年前にデッドボールをぶつけた重役に、なぜか個人的に呼び出されている。きっと昇進とか給料アップとかそういう類の話なのだろうけど、それを予想していると本来のヒョウタンから駒にはならない。だから意識せずに重役との会談に臨みたいと思う。出来ることならば、大切な首だけは守りたいものだ。

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