モンゴル放浪記2007vol.2

モンゴル放浪記2007vol.2

Date: 2007/08/14

前回までのあらすじ
悪魔の抽選により2年ぶりにモンゴルの地に降り立ったpato、ここで「ぬめり」本を売って売って売りまくってやる、日本語の分からない現地人に売りつけてやるぞ!と意気込んだのはいいものの、その「ぬめり」本を日本に忘れてきてしまうという大失態。落ち込んでばかりいられないのでリュックに入っていた「アカギ20巻」を売りつけることを決意。しかも、モンゴル-ロシア国境の国境警備兵(いきなり発砲してくると評判)に売りつけようと画策。現地人ドライバーを雇い国境に向かって走り出した。


あれだけ口を酸っぱくして「ドライバーは日本が通じる人、最低でも英語が通じる人がいい」と仲介人に伝えたにも関わらず、出発当日、待ち合わせ場所に現れたのは掛け値なしにモンゴル語しか通じないドライバー。チンギスハーンみたいなヒゲ面してやがった。

いやですね、僕だってモンゴルは二度目ですよ。2年前に放浪の旅をし、今回も放浪している。少しばかりモンゴル人ってヤツが分かってきたつもりで、これは全世界共通なのかもしれないですけど、外国の人って結構無表情っていうか無愛想なんですよね。日本人みたいにヘラヘラ愛想笑いしない。

僕なんか、レンタルビデオ店で、「セックス中に彼氏に電話させる」っていう最高にエキサイティングなエロビデオを借りようとしてカウンターで「お客様、まだ34歳あかね浣腸地獄が返却されてませんが」とか言われても愛想笑いしちゃうくらいなんですけど、外国の人、それもモンゴル人ってムチャクチャ無愛想なの。鬱病の力士とか見てたら分かるでしょ。

で、そんな無愛想な、それこそ怒ってんのかなって思うくらいに皆無愛想なのだけど、その中でも特段に無愛想なのがこのチンギスハンみたいなドライバー。もうピクリとも表情を変えやがらねえ。

こっちがこれからの長旅を少しでもジョイフルで楽しいものにしようと、精一杯の笑みで「やあやあ、よろしく」みたいに話しかけてるのに微動だにしやがらない。マジで三親等くらいの親族が死んだレベルの無愛想さなんですよ。

とにかく泣いても笑ってもこいつがドライバーなのは確定なのでグダグダ文句を言っても始まりません。彫刻の如く表情を変えないドライバーを尻目にサッサとテントやらなにやらの荷物を積み込みます。で、なんとか予定時間に出発、国境へ向けて旅立ったのでした。

ここで、車内では僕とドライバーのミーティングが。一口にロシア国境に行くといってもそこには様々な国境が存在するわけなんですよ。皆さんもモンゴルの地図などをお持ちでしたらご確認ください。

実は首都ウランバートルから北に百数十キロもいけば簡単にロシア国境に辿りついてしまうんですよね。ここまでの道のりは、古くからロシアと交流する大切な道だったらしく、舗装もされていて鉄道も通っている。下手したら1日で国境まで辿りつけちゃうんですよ。おまけに、聞いた話によると、この辺は国境と言えども警備兵はフレンドリーで非常に緩やかな雰囲気、物々しい警備とは程遠いって話なんですよ。やっぱそうですよね、多くの人が行き来する国境なんてそんなものだと思います。

しかしながら、地図を見て欲しい、モンゴル国の北側は全てロシアに面している。ということは、メインの国境以外にももっと寂れた、それこそ人なんて居なくて寂しい国境もあるんじゃないか。で、そこでは密入国とか盛んでロシア兵も殺気立った感じで警備に当たっているんじゃないか。そんな場所でアカギ20巻を売りつけないとダメだよな。

あーでもない、こーでもない、無愛想なチンギスと車内でやりあうこと20分、執拗に行きたがらないチンギスをなんとか説き伏せ(言葉は通じない)て、目的地はモンゴルの右上の国境、ロシア、中国との国境というデンジャラスな地帯に行くことになりました。

さて、ウランバートル市内を走りぬけ、車は何故かダウンタウンの貧民街みたいな場所へ。おいおい、国境目指すんじゃなかったのかよ、とか思うのですが、ハンドルを握るチンギスの顔がムチャクチャ怖かったので文句一つ言えませんでした。

で、勝手に建てたんだろうなっていう、掘っ立て小屋みたいな家々が立ち並ぶエリアに侵入し、その中でも一際ボロい家に停まります。ほんと、クシャミとかしたらコントみたいにバラバラになるんじゃなかろうかというレベルの家。

そこでチンギスが何やらモンゴル語で「ウォーイ」みたいな言葉を叫ぶと、中からワラワラと子供が出てくるじゃないですか。みんなすっげえ汚い服着てて、ウチのアパートの隣りの民家に誰にでも吼える雑種の犬が居るんですけど、その犬が犬小屋に毛布を隠してるんですよね。もう何年も置かれてる毛布で、風雨によってボロボロ、おまけに犬が使ってるんでムチャクチャ汚いんですけど、その毛布よりボロをまとった子供たちがワラワラと小屋から出てくるんですよ。

よくよく見るとその子供たちがみんなコピーしたみたいな同じ顔で、なんか車から降りたチンギスと抱き合ってるんですよ。そのうち小屋の中から関取みたいな女性も出てきて、これまたサヨナラ勝ちしたみたいな勢いで抱き合ってんの。

それを見て思いましたね、ああ、これはチンギスの家族なんだと、で、これから長い長い旅に出るにあたって家族とお別れをしてるんだと。そんなもん先に済ませとけよと思いつつ、その美しい家族愛の光景を眺めてました。きっと、

「お父さんはこれからバカな日本人と国境まで行く」

「お父さん気をつけてね!あの日本人死んだらいい」

「なあに日本人は金持ちだ、隙あらば殺して」

「草原に埋めれば死体も出ないわ」

「チャンスがあったら殺るよ、俺は。見ろよ、バカそうな顔してるぜ」

「お父さん頑張って!」

そんな会話をしているに違いません。

そんなこんなで涙涙のお別れ劇を終えてチンギスの家族達が見守る中、いよいよ本当に旅立ちの時。もちろん僕のお金で思いっきりガソリンを給油して車はウランバートル市を抜けます。

これは2年前にも言ったのですけど、皆さんは日常生活においてアスファルトの道路ってのが普通に存在するじゃないですか。日本中、どこに行っても道路が存在し、駐車場までも綺麗なアスファルト、そういうのが普通だと思います。しかしながら、実はそれって非常にありがたいことなんですよね。

モンゴルのような発展していない国になると、舗装されている道路なんてごく一部。大半が砂の道路か、酷いところになると獣道ですからね。しかもその獣道がシッカリと道路として地図に記載されているいんだからおかしなものです。

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現に、ウランバートル市を抜けると、最初こそはこんな素晴らしい道路ですが、

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すぐにこんなになって

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最終的にはこんなのに。これをかきわけて進まないといけない状況になるんです。奥地になればなるほど荒んだ道路事情なんですよね。このような道では1時間に30キロも進めれば御の字なんですよ。

市内を抜けて道なき道をひた走ること数十分。前方になにやら異様な物体が。

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どうもこれは建設中らしく、モンゴルの観光地化を目論む政府が観光の目玉として建設を進めている巨大チンギスハン像のようです。こんな像を作るくらいならちゃんと道路を作って欲しいと思いつつも、なかなかに好評らしく、横では韓国人ツアーの家族連れが大喜びで写真撮影していました。

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さらに進むと、今度は大きな川にぶちあたりました。

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どうも橋を建設中らしく、完成するまでは古い橋を渡らねばならない感じなんですけど、その古い橋ってのが物凄くて

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意味が、わから、ない。

こんなんもはや橋でも何でもないですからね。ただの柱ですからね。あ、橋と柱で微妙に上手いこと言えたね。とにかく、モンゴル奥地では「川を渡るのに橋」という概念はあまりなく、浅い場所を見つけて一気に渡るという行為が正等です。川にぶち当たるたびに車が止まるんじゃないかと肝を冷やしていました。

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いくつか小さな村を抜け、その村で子供がトラクターを運転しているという衝撃の光景を目撃。ちなみに子供が舐めてるのは僕が日本から持ってきたチュッパチャップスです。微妙にエロい。

村人たちと交流しつつさらに車は奥地へ。今度はちょっとやそっとじゃ渡れないんじゃないかっていう大きな川に直面しました。

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「おいチンギス、この川を車で渡るのは危険じゃないか、遠回りしようよ」

と言うのですが、当然言葉が通じるわけもなく、思いっきり川に突っ込むチンギス。何度か深みにはまって止まりそうになるのですが、持ちこたえてくれ!と助手席でブルブル震えることしかできませんでした。

なんとか命からがら渡りきって休憩していると、そこにバイクに乗った青年二人組とジープの隊列が。

「俺たちはこれから川を渡る、その前にタバコ1本くれ」

みたいなニュアンスのことを言われてタバコをたかられました。しかし僕は彼らの言葉に耳を疑ったのです。ジープならまだしも、バイクで川渡るのは無理だろう。

「バイクは無理なんじゃ…」

という僕の言葉が彼らに通じるわけもなく、異様にハイテンションな彼らは川に向かって突入します。ヒャッホーとか叫んでた。

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バイクに続いてジープも川に突入。

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もう深すぎてバイクの方はタンクぐらいまで水に浸かってます。

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ジープの方はらくらくクリア。しかし、バイクは

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川の真ん中で止まってた。そりゃそうだ。普通にエンジンまで水に浸かってるもの。

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溺れそうになりながらもバイクを引き上げ、逆さにしてエンジンから水を追い出すモンゴル人。水さえ出せばノープロブレム、そんなわけないだろ。こりゃ日本人は相撲で勝てないはずだわ、精神構造が違いすぎる、と妙に納得したのでした。

さて、激闘の大河を後にし、いよいよ日が暮れてまいりました。

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日が暮れるくらいになるとドライバーが適当な草原を見つけて食事の準備、テントをおっ立ててと書くと微妙にエロいですが、普通にテントを立てて就寝とあいなるわけなんですが、このチンギスが頑なにドライビングをやめない。この時期のモンゴルは日没が夜の9時ぐらいなんですけど、完全に日が落ちても執拗に前へと進むんですよ。

「そろそろ寝た方がいいんじゃないかしら?」

みたいな、微妙にホモの誘いみたいになってますが、そういったニュアンスのことを伝えるんですが、もちろんながら意思の疎通などできません。というか、最初にウランバートルで行き先を決めて以来、彼と会話らしい会話をしたことがありません。

これまでずっと車内に重苦しくて沈痛なムードが流れているのですが、日が暮れるとさらに沈痛に。というか、前述のように舗装された道路なんかじゃなく、それどころか道なんかじゃない、天使なんかじゃないといった状態、アップダウンの激しい平原をライトだけで走るのって非常に危険なわけなんですよ。

「あのそろそろ眠りたいな…」

いよいよ、ハッテン場にてホモがホモを誘ってるような状況なのですが、なんとか、そろそろ今日は終わりにしようよと伝えるのですが、やっぱり伝わらない。コミュニケーション断絶状態となった二人に予想外の事態が巻き起こったのです。

「おまえ、こんなことして仕事は何してるんだ?」

みたいなことをチンギスが英語で話しかけてくるんですよ。

「なんだよ、お前英語できるじゃん」

みたいな会話を交わし、お互いに片言の英語でやっとこさコミュニケーション。なんでも雇われドライバーってのは全員最低でも英語が出来ないといけないらしく、そういった国家試験をパスしないと外国人を案内するドライバーにはなれないそうです。

「俺は日本で窓際族やってるぜ」

「なんだそれは」

「イジメだよ」

みたいな会話を英語で交わしつつ、いい加減そろそろ車を止めてキャンプしようよと意思表示すると、

「俺は今はドライバーやってるけど、本当はハンターなんだ」

と、英語で会話できるようになったのに相変わらず意思の疎通が図れない。というか、コイツ、人の話を全然聞いてない。

「ただ、ハンターだけじゃ食っていけないから外国人相手にドライバーしてる」

「家族を食わせるために必死さ」

「この車だってやっとの思いで買ったんだぜ」

「外国人相手のドライバーは信じられないほど儲かるからな」

急に饒舌になって喋りだすチンギス。そんな身の上話はいいから早く寝ようよ、と思った瞬間、事件は起こったのです。

キキーーーーーッ!

草原の真ん中で急ブレーキを踏むチンギス。何事かと前を見るとヘッドライトに照らされた小鹿みたいなのが暗闇にポツンと立っていました。

「うおービックリした。野生の鹿かな。危うく轢き殺すところだったな!ちょうど止まったことだしここらでキャンプでも…」

と安堵しつつチンギスのほうを見ると、そこには野生を取り戻した一人のハンターの姿が。

「フオオオオオオオオオオオ!」

だか何だか知りませんが、アフリカ奥地の民族が村長に成人として認められるための儀式みたいな猛り声を上げるチンギス。その刹那、ガクンと車が揺れてホイルスピンをするほどの急発進。

「おい、どうし…」

と言ったんだか言わなかったんだか分からないくらいの短い時間。急発進して小鹿を追走する僕らの車。

「おい、鹿なんてどうでもいいって!はやくキャンプしようよ!」

と叫ぶんですけど、もちろんチンギスには聞こえない。もうハンターの血が沸騰しちゃってますから、ピョンピョンと器用に逃げる小鹿を自慢のドラテクで追いかけてるんですよ。

小鹿が左右に逃げるたびにドリフト気味に追いかけるもんですから積んでた荷物は後ろでゴロゴロ音を立てて崩れるわ、僕自身も左右に振られて車から落ちそうになるわで大騒ぎ。

最終的には目が血走ってて人を2,3人殺したみたいな状態になってるチンギスが運転しながら後部座席から火縄銃みたいなの取り出しましてね、それを僕に渡して

「お前撃て」

みたいなニュアンスのこと言ってくるんですよ。さすがハンター、とか言ってる場合じゃない。もうムチャクチャ。撃ても何も撃ち方がわからない。

熱烈に断わって、鹿じゃなくて僕をハントされたら目も当てられない、それこそ死体も出ない状態になりますので、なんとか彼を刺激しないように車から身を乗り出して鹿を狙う格好するんですけど、当然撃てるわけがない。

「撃て!」(多分そう言ってる)

「撃て!」(多分そう言ってる)

と鹿を追い詰めてチャンスが来るたびに叫んでるんですけど

「無理です!」

「撃て!」(多分そう言ってる)

「無理です!」

「ええい貸せ、俺が撃つ。お前ハンドルやれ」(多分そう言ってる)

「あー!岩にぶつかる!」

と訳の分からない二人のハンティングは終わったのでした。僕がハンドル操作をミスって鹿を見失うという結果にチンギスはご立腹。微妙にギクシャクしながら初日のキャンプとなったのでした。

もう帰りたい、アカギ20巻とか本気でどうでもいい。早く日本に帰って「セックス中に彼氏に電話させる」エロビデオを借りたい。満天の星空を眺めながら泣いたのでした。まだ、目的の国境は遠い。

つづく

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