一生懸命

一生懸命

Date: 2005/12/08

深夜にNHKを見ていると、ロボコンなる大会の地方予選の様子を日替わりで放送している。僕は普段あまりテレビを見ない人間なのだけど、これが実に面白い。

このロボコンなるイベントは、どうやら理系の学生がロボットを製作してその機能を競う大会で、理系の甲子園とまで言われているらしい。頑張って製作したロボットで平均台やらハードルやらを越え、壁を登ってゴールにバトンを入れる。栄光のゴール、そして国技館で行われる全国大会を目指して理系の学生が頑張っているのだ。

確かちょうど東北地区予選と関東地区予選の様子を見ていたのだけど、ロボットに情熱を賭ける理系の学生らしく、出てくる人々が怒涛の如くオタっぽい。日本のオタクを海外で紹介する場合、この人の写真を使えば一発、といった力強い面々が次々と登場してくる。

最も手に汗握った対戦として僕が一押ししたいのは、確か東北地区予選だったと思うのだけど、どっかの学校とどっかの学校が対戦するカードだった。この競技はロボットを操縦して障害物をクリアする前半部分と自動で動くロボットにバトンタッチしてゴールを目指す後半部部に分けられるのだけど、スタート時点から手に汗握る展開。

なんと、スタートの号砲と同時に両方のロボットが微動だにしないのだ。もうウンともスンとも言わない。1ミリも動かない。ロボットを競わせる競技なのに肝心のロボット様が微動だにせずスタート地点に鎮座、臨界を突破していると言わざる得ないハラハラドキドキの展開。

「さあ、両校ともスタートに手間取ってる!」

と言い続けるしかない実況の人が可哀想になる展開なのだけど、それでも学生たちの表情は真剣そのもの、こちらも熱くなって手に汗握ってしまう。応援する部員とか関係者も真剣で、たとえ微動だにしないロボットであっても全員が真剣に思いを乗せていた。

結果、敗れてしまった学校の部員たちはガックリする。長い月日をロボット製作に費やしたことを思い出し、インタビューに答えながら徐々に感情が高まってしまい、そのうち泣き出してしまう。

「ぐ、ぐやじいです・・・スタート前にギヤが外れてしまって・・・うぐ・・・ひっく」

これがエロゲに感動しての涙だとちょっとどうかと思ってしまうが、ブラウン管に映し出されたオタの涙は間違いなく美しいものだった。暑苦しい汗だったらどうかと思うが、その涙は確かに美しかった。

負けて悔しい。泣くほど悔しい。

その想いから遠く離れてしまって長い年月が経ってしまったように感じてしまう。いつの間にか僕は負けても悔しくなくなっていたし、ましてやそれで涙を流すなんてことがなくなってしまったように思う。

これは別に感情が冷めてしまっただとか、血も涙もない氷の心の持ち主だとそういったことではなくて、単純に泣くほど一生懸命に物事に取り組んでないということだと思う。

負けて悔しくないやつはダメだ。泣くほど悔しいならきっと強くなる。

そんな言葉以前に僕らはいつの間にか勝負という場から逃げることばかり考えるようになってしまったと思う。自分を追い詰めて戦うこともなければ、負けて悔しい思いをするなら最初から戦わない、それがいつの間にか大人としての生き方に取って代わったようにすら感じる。

あまり本気でやってないからね、だから負けても悔しくないよ。

これはただの逃げのポーズで、一見するとクールでドライでカッコイイように思えるかもしれないが、実はこれが一番かっこ悪い。

無様なくらいに一生懸命やればいい。
負けて悔しがるくらい一生懸命やればいい。
泣くくらい一生懸命やればいい。

そんな基本的なことをブラウン管を通してオタ学生から再確認してしまった。彼の泣き顔はそれはそれは物凄かったけど、そこまで一生懸命になれる彼を羨ましいとすら思ってしまった。オタの涙は美しい。それには様々な想いが詰まってるのだから。

深夜にNHKを見て、動かないロボットを見て、オタの涙を見て己の生き様を省みる羽目になるとは夢にも思わなかったのだけど、とりあえず僕も一生懸命になれるものはないかと必死で自問自答してみた。泣くくらい一生懸命になれることはないかと。どう考えても仕事で一生懸命になれるはずもないし、今からプロ野球選手を目指すといっても鉄格子のついた病院に入れられるのがオチだ。

いろいろと考えた結果、どうも非常に不本意なのだけど一生懸命やれるのがサイト運営しかないことに気がついて途方にくれてしまった。このようなクソな文章を書き綴るサイトでも4年もやってきたのだから、これをもっと一生懸命やって悔し涙を流すほどにしたらいいのじゃなかとすら思えてきてしまった。

具体的に言うと、死ぬほど頑張って更新とかして、感想メールで「つまらないです」と忌憚のない意見が送られてきたら号泣する。モンゴルでオフ会をやって誰も来なかったら号泣する。ネットカフェで隣のカップルブースのアベックが「おい、このサイト見てみろって」「なにNumeri?ちょーきもーい」と会話してたら号泣する(実話)。そんな姿勢が大切なのかもしれない。

泣くほど悔しいこと、何も打ち込めることがない日々というのは実に味気ないもので、誰しもが打ち込める何かを持ってるはずだ。それが仕事だったりスポーツだったり趣味のボトルシップ製作だと渋いのだが、サイト運営というのはちょっとアレだが致し方ない。僕は泣いて悔しがるくらいサイト運営を頑張りたいと思う。

そういえば以前に、といってもつい最近の話だが、僕はサイト運営に関連して涙を流したことがあった。あの時の情熱を思い出し、「サイト運営?別に本気でやってないし」と逃げ道を作らない姿勢を心がければいいのではないだろうか。

サイト運営で涙したあの日、僕は「今日こそは日記をアップしなければならない」という熱き使命感に燃えていた。随分とNumeriの更新頻度が下がってしまい、このままではいけないという気持ちと葛藤しつつも、まあ、明日書けばいいか、今日は仏滅だし、とズルズルと引き伸ばしてしまう矛盾のラビリンス。そんな負の連鎖を断ち切るべく、僕はこの日に日記をアップロードすると堅く心に決めていた。

具体的に言うと仕事をサボって日記を書き、さらには家に帰ってすらも日記を書くというスタイル。書ききれなかったのならば睡眠時間を削ることも辞さない構えだった。

ちょうど、確か11月12日付の「魔の郵便受け」というタイトルの日記をアップした日のことだった。想いのほか早く文章を書き上げることができ、あとはネタ画像、主に詐欺的な裏ビデオ通販のチラシ画像をスキャナーで取り込めば作業は終了だった。

なんだ、やればできるじゃないか。今日アップする!と決めたらちゃんとその日にアップできるじゃないか、と少しだけ一生懸命になった自分に少なからず満足していた。

しかし、ここで問題が発生した。

裏ビデオ通販のチラシの取り込みは終わったのだけど、肝となるネット代40円の請求書を職場のデスクの上に忘れてきてしまったのだ。あのクソみたいな請求書はこの日記の核をなす重要な存在、出だしとオチに使っているのだ。これがないとなると構成自体を全て変えなければいけなくなってしまう。

これまでの自分なら、画像が用意できないなら明日でいいや、明日で、とズルズルと引き伸ばし、結果、「早く更新しないと構造計算書を偽造するぞ」と読者の方から意味不明な更新督促メールを賜ることになってしまうのだが、あいにく決意した僕は一味違う。

今日、絶対にこの日記をアップする。

時間は深夜の1時過ぎ。すでに日付が変わっていて「今日アップする」の意味がないのだが、朝を迎えてからアップでは自分的に負けな気がする。絶対に寝るまでにアップする。職場までは車で飛ばして1時間、往復を考えると2時間だ。

僕は迷うことなく車のハンドルを握り職場まで愛車を走らせた。40円未納の請求書を取りに帰るためだけに往復2時間の田舎道を爆走する。1日1往復の通勤ですら体と精神に来るものがあるのに、2往復となるとなかなかキツい。それでも僕は「今頑張ってる!」となんだか見当違いに誇らしい気持ちだった。

真夜中の職場に到着したのは良いものの、電気もつかず漆黒の闇の中にそびえ立っている大きな建物は非常に怖い。時間も丑三つ時、非業の死を遂げた社員の霊とか出てもおかしくない雰囲気。

一瞬怯むものの、それでも奮起する僕。僕はあの40円請求書を職場か奪還しなくてはならない。怖がってなんかいられない。今日中に日記をアップすると決めたのだ。わ、今の僕、すごい一生懸命頑張ってる。

自画自賛で自分に酔いしれたのはいいものの、ここで大問題が発覚。なんと、あまりに急いで職場に来てしまったものだから、職場の鍵を全て家に忘れてきてしまったのだ。忘れた請求書を取りに職場に戻ったら鍵を忘れる。本当にどうしようもないんですけど、まさかまた家に鍵を取りに帰るわけにもいきません。それこそもう1往復追加されてしまって地獄を見ることになる。

こいつは職場に侵入するしかないな。

急遽課せられた職場潜入ミッション。何が悲しくて自分の職場に侵入しなきゃならないのか理解不能なのですけど、今日中に日記をアップロードするためには致し方ないこと。僕は意を決して進入を開始しました。

冷酷に門を閉じ、外部からの侵入者を堅守している門があります。手始めにこれをクリアしないといけないのですが、これは簡単でした。端的に言うと、押したら開いた。ホント、こんなセキュリティで良いのかよ、と言いたくなるほど簡単。

次に建物に到着したら内部に侵入しなくてはなりません。こちらは門と違って堅固に入り口ドアが閉ざされています。しかし僕はいつも1階トイレの窓が開いていることを知っています。残業で遅くなりすぎると入り口ドアが開かなくて帰れなくなることがあるのですが、その場合に使うトイレ窓を今回も有効利用させていただきます。

さて、いよいよ最後にして最大の難関。自分の個室がやってきました。このドアさえ突破すればデスクの上に40円の請求書があり、それをネタに日記をアップすることができません。しかしながら、当然、部屋の鍵も持っておらず、自分の仕事用の個室であるのに入れないという矛盾に苦しみました。

暗闇の中で必死に考えたのですが、どうにもこうにも通気ダクトを利用するしかないという結論に至ったのです。

僕の前任者、つまり僕が来る前にこの部屋を使っていた人は、何に追い詰められていたのか知りませんが、通常の換気扇だけでは物足りなかったらしく、わざわざ業者に工事をさせてでかい通気ダクトみたいなもので個室と廊下を繋いでいたのです。本当になぞなトマソンと化した、今や機器なども外されてダクトだけが残っている状態なのですが、これを伝って部屋に入るしかなかったのです。僕、すごい一生懸命。

廊下の端っこに放置されていた丸椅子を通気ダクトの排出口の下に持って行き、そこにつけられていた網みたいなものを物音を立てないように取り外します。丁度良い按配で取っ手みたいなのがついていたのでそれを握り締めていざダクト内へ。

体がギリギリ入るか入らないかの状態なのですが、なんとか移動できる様子。這うようにして前進して行きます。もう中の埃とか物凄くて、職場に巣くうヌシとかが隠れ住んでいてもおかしくないのですが、携帯電話の明かりを照らしながらゆっくりと進んで行きます。

これ、途中で詰まったら引き返せないし動けない。すごい情けない格好で痛いが発見されて謎が謎を呼んでワイドショーとか来るんじゃなかろうか、と思いつつ埃まみれになりながら前進。それとは別に、いかがわしい本の隠し場所に最適かもしれない、と思いつつ進んでいました。

本当に映画なんかで悪者から逃げる主人公みたいな気分でダクト内を移動し、一人で「クソ!テロリストは何人いやがるんだ!」と己の気持ちを高めつつ移動。なんとか個室内に到着し、個室側の網を蹴破って部屋の中に着地したのでした。

やっと40円の請求書を奪還することができる。日記をアップすることができる。後は家に帰ってこれをスキャニングしてアップロードするだけだ。ああ、僕の最後の果実よ!とデスクの上にあった請求書画像を手にしたその瞬間でした。

バッバッバッ!

まるでサプライズパーティーのように、まるで僕に隠れて誕生日会の準備がされてたみたいに個室内の電気が勢い良くついたのです。

で、個室入り口には懐中電灯を持った警備員さんの姿が。不審な物音を聞きつけてやってきたみたい。

「アンタ、何してんの!」

「いや、ちょっと忘れ物を・・・」

「忘れ物って何よ!どう見ても泥棒じゃない!」

「いや、違うんです。僕はこの部屋の主で、鍵を忘れたから」

「忘れ物を取りに来て鍵を忘れるってアンタねえ!ドロボーじゃない!警察!警察!」

烈火の如く怒ってる警備員さんはたぶんツンデレ。そんなことはどうでも良くて、かなりピンチな状態。あいにく僕は身元を証明するものを何も持ってきておらず、このままではコソ泥の類として検挙されてしまう。

警備員室みたいな場所に連れて行かれたのですが、そこでなんとか事情を説明。真夜中なのに上司に電話してなんとか疑いだけは晴れたのです。というか、うちの職場に夜中でも警備員がいるって知らなかったよ。

40円の請求書を取りに来ましたなんて言うこともできず、2名の警備員さんにサイドバイサイドで、他の人が見たら「彼、自殺するんじゃないの?」と心配されてもおかしくない勢いで説教され、電話口で上司にも死ぬほど怒られ、と僕はあまりの惨状に涙したのでした。あまりに辛辣な警備員さんの言葉に本当に泣いた。

何事も泣くほど一生懸命になれなければダメです。僕は警備員さんや上司に怒られたから泣いていたわけではありません。見つかって説教され日記がアップできなくて悔しくて泣いていたのです。そう、あの時僕は確かに泣くほどサイト運営に一生懸命だったのです。一生懸命やったからこそ、泣く権利があるのです。

一生懸命やるのはかっこ悪い。ムキになると「何熱くなってんの?」と揶揄される。そんなニヒルでクールな風潮が蔓延しているこの世の中。何にも一生懸命になれない人は可哀想な人なのです。きっと、子供の頃はみんな悔しくて泣いた経験があるはずなのに。

仕事でもスポーツでも趣味でも恋でも、不本意だけどサイト運営でも良い。何か一生懸命になって泣く経験をどんなオッサンやオバサンになってもできるようになったら素敵じゃないか、そうロボコンに賭けるオタの涙を見て感じたのでした。僕も自分のできる範囲で頑張ってみる。

今にして思うと、警備員室で説教される僕は埃だらけクモの巣だらけでガックリうなだれてピクリとも動かない、冒頭のスタートから1ミリも動かないロボコンのロボットよりもポンコツだった。そんなポンコツでも頑張って組み上げたのだから、一生懸命頑張るべきだ。

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