モンゴル放浪記Vol.6

モンゴル放浪記Vol.6

Date: 2005/10/26

モンゴルに自費出版の本を売りに行きました。誰も来ませんでした。仕方ないので現地人ドライバーを雇って奥地まで売りに行きました。雨が凄くて泣きそうでした。渓谷は綺麗でした。そんなこんなでいよいよゴビ砂漠に突入。果たして本は売れるのか!詳しくは放浪記1-5を読むべし。


砂漠の昼は死ぬほど暑いが、砂漠の夜は死ぬほど寒い。この温度差は筆舌に尽くしがたいものがあり、言うなれば温度差の魔拳。その圧倒的な破壊力にただただ泣くばかりだ。

これまではモンゴル北部のステップ気候的草原を旅していたわけで、辺りには緑があったりして、すると夜もそんなに寒くないんですよね。けれども、旅の進行に伴って徐々に南下、辺りが砂漠的になってくると周辺が砂ばかり。太陽が沈むとガクーンと温度が下がるんですよ。昼間はクソ暑いわ、夜はクソ寒いわ、で大騒ぎで。

一日の旅が終わり、夜になると現地人ドライバーサムソンからぶっきらぼうにテントセットを渡され、サムソンは車でどこか遠くに、ここではないどこかに行ってしまって朝まで帰ってこないわけなんですが、そうなると死ぬほど寒くて明かりも何もなくて、もちろん周囲は砂漠で砂しかない、ついでに意味不明な猛獣と思わしき生物の遠吠え付き、なんていう、刑務所より劣悪な住環境と言わざるを得ないのですが、他のは我慢できても寒いのだけはどうしても我慢できないんです。

賢明な閲覧者の皆さんなら覚えているかと思いますが、僕はこのモンゴルに来るにあたって、「この時期のモンゴルは死ぬほど暑いですよ!暑さ対策を」という読者さんの丸特情報を本気で真に受けてTシャツ10枚しか持ってこないという大暴挙に出たわけなんですが、そんな僕の装備品をせせら笑うかのように夜の砂漠は冷えるんですよ。

死体置き場みたいな貧相なテントは、その布地が爺さんが着る薄手のジャンパーみたいなものですから、全然寒さをシャットアウトしない。おまけに服はTシャツのみ。これは凍死しない方がおかしいシチュエーションですよ。寝たら死ぬぞ!とかそういう世界ですよ。

「うおー寒いーー!」

と誰も聞いてないのに一人で砂漠のど真ん中で叫んでる僕。少しでも寒さを防御しようと持ってきたTシャツを全部着てみた、つまり10枚重ね着してみたのですが、所詮は半袖Tシャツ、何も改善しない。それどころか急激に強風が吹きやがりまして、砂地に杭を打ってテントを固定していたものですから吹っ飛ばされそうになる始末。

Tシャツを10枚重ね着して微妙に動きにくくて鎧を着た人みたいになってる僕が泣きながらテントが飛ばないように押さえつけるという、ものすごいシュールな絵図が出来上がってました。

このままでは絶対に死ぬ。凍死、もしくは風に飛ばされて死ぬ。何か、何か暖を取れるものはないのか。ただ本を売りに来ただけなのに生死に関わる危機に直面し、こんなはずじゃなかったと思うのですが、そこでピーンと閃きましたよ。火をおこせばいいじゃないか!と。

人間の文明は火と共に発展してきました。遠い祖先が火を利用することを発見して以来、様々な形で我々の生活に関わってきたのです。高度な発展を遂げてその形が変わろうとも、全ての文明の基本は火の利用に他ならないのです。

危機に直面し、そんな文明の本質に気付いてしまった僕は、早速火を起こそうと躍起になります。幸い、タバコを吸うのでライターは持っている。あとは何かその辺の物を燃やして暖を取らねば・・・と暗闇を見渡すのですが、よくよく考えたらここは砂漠のど真ん中。砂と動物の死骸の骨しかない。どう考えても燃えませんよ、これは。

恐ろしいことに燃やすものが何もない。いっそのことテントでも燃やしてやろうかとも思ったのですが、それだと砂の上で寝ることになって死体なのか寝てるのか立ち位置が曖昧になるので避けたい。考えに考えた僕は今着ているTシャツを燃やすことにしたのです。10枚あるんだから2枚くらい燃やしてもどうってことない。

そんなこんなで、10枚着ているTシャツの2枚を脱いでライターで火をつけると、それはそれは勢い良く燃えましてね、強風なんてものともしない勢いで燃え上がったんですよ。燃えろよ燃えろ、とか砂漠のど真ん中で一人で歌ってたら悲しかったんですけど、とにかく焚き火に成功。

心と体が温まる。とかなんとか思いながら本気で火のありがたさを実感しつつTシャツ焚き火にあたっていたのですが、やっぱすぐに火の勢いが弱まっていくんですよね。おまけに装備が10枚から8枚に減ったことで微妙に肌寒い。

ここで童話とかだったらバカな主人公が、もっと火を!もっと火を!とどんどん衣服を燃やしていって最終的には一糸纏わぬ姿に。で、火も消えちゃって、朝にはお星様になっていたりするんでしょうが、あいにくと僕は違いますよ。

もうこれ以上衣服を燃やすわけにはいかない。周囲には燃やせるような木々もない。テントを燃やすのも言語道断。しかし、火は欲しい。このような状況から導き出された答えは・・・

ぬめり本を燃やす。

なんと、灯台下暗しとはまさにこのこと。ここに燃えやすい紙が大量にあるじゃないか。まさかこんなことにも気がつかなかったとは、こりゃあ一本取られましたな!と一冊のぬめり本を燃やしたのです。

そしたらアンタ、むちゃくちゃ燃えるっての。もうTシャツなんてクソとも思えるくらい燃えるのな。ブワーってきてボワーってなる感じ。もう、とにかく燃える。

満天の星空、冷たい空気、あたり一面の闇。そのなかで燃えるぬめり本の炎を見つめながら、大学生の時に友達だったスーパーオタッキー島田君の「萌えー!」ってセリフを思い出していました。島田君いまごろどうしてるかな。

で、一通り燃えた後に、自分はこの本を売りにモンゴルに来たのになんで燃やしてるんだろう、とひどく根本的なことに気がついてしまい、なんてバカなんだーと砂の上で頭を抱えて悶々としているうちに夜が明けたのでした。また砂漠の灼熱が始まる。

サバイバルツアー4日目

日の出と共にどこからともなくサムソンの車が帰ってきて、ホント、夜の間どこにいってるんだか不思議でしょうがないんですけど、原料が何だったのかよく分からない朝飯を食って移動スタート。

この旅もいよいよ4日目。そろそろ本が売れないとヤバイことになるのだけど、日本から持ってきた10冊のうち、減ったのは 路上の本屋のオッサンに1冊売って2冊燃やしたのみ。これじゃあ何をしにモンゴルに来たのか分からないってもんですよ。

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それにしても、進んでも進んでも砂漠なわけですが、さすがに4日も旅をしてるといい加減、飽きてくるものです。最初こそはラクダなどに興奮して

「サムソン、すげー!野生のラクダだ、ラクダだ!」

と大興奮だったのですが、風景がずっと一緒だわ、砂しかないわで瞬く間に飽きちゃいましてね、暇つぶしにサムソンとシリトリでもして遊ぼうと思ったのですが、あいにくと言葉がほとんど通じないのでできない。

「サムソン、しりとりしようぜ。俺からな!じゃあ、未亡人!終わった!」

一人でこんなことして遊んでました。それを言葉が通じないながらもサムソンが察したのか、暇そうな僕を気遣って、「日本語では愛してるって言う時にどういうんだい?」みたいな事を聞いてきたんです。なんかアイラブユーとかインジャパンとか言ってたんでそうだと思う。

異国の言葉で異性を口説くってのは魅力的なもので、日本人から見て異国の言葉である英語で「I Love You」とか言えばアッパーパーな姉ちゃんイチコロ。そういうものだと思います。その応用でサムソンも日本の言葉で愛を囁いてモンゴルのお姉ちゃんを口説こうとしてるんですかね。このエロ!

仕方なく僕も、サムソンが日本の言葉でお姉ちゃんを口説けるよう、

「I Love Youは日本では、”アナルをペロリですわい”っていうんだぜ」

と嘘8000を教えておきました。それ受けてサムソンも、

「アナルヲ ペローリ デス Y」

みたいな感じで艶かしく反復してました。偶然にしても妙に艶っぽかった。モンゴルにあるのか知りませんが、洒落たBARとかで女を口説く時に是非とも言って欲しいものです。

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そんな感じで暇を潰しつつ砂漠を走行していたら、前方が妙に視界が悪いと言うか、砂が巻き上がってるというか、砂漠初心者の僕が見ても分かる砂嵐みたいなものが迫ってるんですよ。

さすがにあんなものに直撃されたらひとたまりもない、と

「サムソン、なんか前方に砂嵐みたいなのがあるぞ」

と身振り手振りで注意を促すのですが、当のサムソンは満面のグッドスマイルで「OK, OK」というのみ。サムソンくらいの砂漠フリークになると砂嵐もへっちゃらなのかもしれません。

しかし、いくらサムソンがフリークでも窓を開けっ放しは危ないだろうと思い

「サムソン、危ないから窓閉めたほうがいい」

とか忠告するのですが、サムソンは「OK、OK」と満面のグッドスマイル。そういうもんなのか、案外砂嵐ってたいしたことないのかも、そのまま突入するし窓も閉めないし、結構普通なのかもね、と思いつつ車は砂嵐に突入ですよ。

ブボボボボボボボボ ビチチチチチチ

嵐に飛び込んだ瞬間、物凄い轟音が車内に飛び込んできましてね。一気に洗濯機の中みたいな状態ですよ。風やら砂やら車内にドバドバ入ってくるの。こりゃあ全然大丈夫じゃない。僕はまだサングラスをしていたので被害が少なかったのですが、あれだけグッドスマイルだったサムソンのほうを見ると

「目が!目が!」

みたいな感じで、砂で目をやられたみたいでハンドルから手を離して目潰しを食らった人みたいになってました。だから言ったのに。サムソンはバカじゃなかろうか。

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そんなこんなで砂嵐を抜けてゴビ砂漠を横断していると、小さな集落が目の前に。なんか世帯数30くらいしかなさそうな村みたいな場所でした。どうも、砂漠の中でも水が出る場所があるらしく、そういった場所には何人かの人々が集まって住んでいるようです。

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こういった小さな集落の子供ってのは、他所から人が来るというのが大変珍しいらしく、おまけに日本人である僕は外国人ですよ。車が到着した瞬間からワッとガキどもが集まってくるんですよね。すげえ人懐っこい。

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こういった、興味なさ気な幼女も、日本から持ってきた飴玉とかあげたら簡単に手なずけることができます。

僕のような怪しげなオッサンが幼女に飴をあげて手なずける。まあ、日本だったら間違いなく通報されて逮捕、実刑判決でしょうが、ここはモンゴルです。

子供に飴をあげたりして村の人と触れ合いつつ、ぬめり本の強烈セールスを開始したのですが、これがまた、変な羽毛布団を売りつけるより難しいぞ、といったレベルで売れそうにない。しまいには本を売るのを諦めて子供たちとモンゴル相撲を楽しんでました。

村の中央の広場みたいな場所で、鼻水たらしたガキどもをちぎっては投げちぎっては投げ、このこわっぱどもがー!と言わんばかりの相撲テクで子供たちを投げてました。

すると、村中の人が総出に近いんじゃないかって勢いで広場に集まってきまして、相撲をしてる僕をマジで取り囲むように人垣ができてるんですよ。気分的には暴走族のリンチみたいな絵図ですよ。

で、その中から村の横綱みたいな若者がでてきましてね、羊の肉ばっかり食ってるのか物凄い肉付きがよくて強そうな現役が出てくるんですよ。

で、周りの人垣どもは「アサショーリュー!アサショーリュー!」と盛大な朝青龍コールですよ。こんな奥地の村でもモンゴルの英雄朝青龍は英雄らしく、まるで僕らが松井の活躍を楽しむかのように朝青龍に期待しているらしく、大人気なんですよ。

で、日本人みたいなのが子供相手に相撲をとってる。相撲の本場日本から来たんだ、いうなればメジャーリーガー、村の横綱と戦わせてみようぜって流れがビシビシ伝わってくるんですよ。

どう考えても体格的スペックが見合ってなく、真剣に勝負したら骨の2,3本はもっていかれそうなので避けたいところなのですが、雰囲気的に戦わなければいけない感じ。なにこの流れ。

こんなモンゴルの奥地の村に来て相撲をとるとか僕は何やってるんだ。本も売らずに何をやってるんだ、助けてくれ、サムソン!現地の言葉で、彼は虚弱体質とか相撲はできない体だとか説明してくれ!とサムソンのほうに何かを訴えかける眼差しを投げつけたところ。

「アナルヲ ペローリ デス Y」

と、強い日差しを避けるために軒先の日陰に入り、僕の教えた日本の愛の言葉を何度も反復して練習してました。

終わったー!サムソン使えねー!

どう考えても実力が違いすぎる村の横綱と組み合い(モンゴルの相撲は組み合った状態から始めるらしい)周りの絶望的な「アサショーリュー」コールの中、僕は日本を代表して戦うのでした。

長いので続く

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