オナッセイ大賞ノミネートNo.2「兄貴」

オナッセイ大賞ノミネートNo.2「兄貴」

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「ヨシオ、お前のはオナニーなんかじゃない」

僕が兄貴に初めてオナニーを見せた時、兄貴はそう言った。
兄貴は僕の憧れだった。
兄貴と僕は、歳が1つしか違わなかったからかもしれないが、いつも比べられた。兄貴は勉強もスポーツも人一倍できて、真面目すぎず遊びもなんでもこなした。当然、誰からも好かれる人気者で、僕の自慢の兄貴だった。何より兄貴のオナニーは見事で、力強さ、テクニック、表情、声、どこを取っても完璧と言っていいほどたくましかった。僕も兄貴のようなオナニーができる男になりたかったし、いつも兄貴のオナニーを観察し勉強していた。そして僕なりに研究し、納得のいくオナニーができるようになったと思った中学2年生の夏、初めて見せた僕に兄貴がそう言ったのだった。

「な、なんでだよ!確かに兄貴ほどの飛距離も出せてないし、血管もあまり浮き出ていないかもしれない!声も表情もまだまださ!だけどオナニーじゃないなんて言わなくたっていいじゃないか!僕は一生懸命練習したんだ!」

ムキになって兄貴に食らいついた。そんな僕を横目で見ながら兄貴は僕に言った。

「いつかヨシオにもわかる時が来る。オナニーとはなんなのかを」

僕は納得できずに自分の家を飛び出し、その日は友達の家でずっとオナニーの練習に励んだんだ。
まさか、兄貴の元気な姿を見るのがそれで最後になるとは思いもせずに。

友達とオナニー談義に花を咲かせ、見せ合いなどをしているとすっかり外は暗くなってしまっていた。

「しごきすぎてちょっとヒリヒリするな」

そんなことを呟きながら家に帰ると、いつもなら両親も兄貴もいるはずの時間なのに誰もいなかった。
テーブルの上には母が書いたであろう置手紙があり、帰ったら携帯に電話しなさいとのことだった。
電話に出た母から兄貴が塾に行く途中に車に撥ねられたということを知らされ、僕は血の気が引いた。
僕以上に母は取り乱していて、病院に向かい着いた僕を見るなり抱きしめたっけな。
本当に兄貴は愛されていたんだなぁと思う。

あれから10年余り経ち、僕は24歳になった。 兄貴は相変わらず意識が戻らない。10年以上もずっと寝たきりで、僕も父も母も、兄貴が明日にも目を覚ますことを信じて今日まで生きている。辛いこともたくさんあったし、正直いっそ死んでいたらもっと楽だったのかもしれないって思ったこともある。それは誰にも言ったことがないけれど。兄貴のことで苦しんでいる父や母を見るのが嫌だったんだ。

今の僕はというと、去年結婚して子供もいる。はっきり言って幸せだ。兄貴はずっと寝ているのに、僕だけが幸せになっていいのだろうかと思う時もある。だけど、僕は生きている。生きている以上は幸せにならなければならないんだ。そう思っている。

半年ぶりくらいに実家に帰ると、母は少しシワが増えたように感じた。きっと本当はそんなことなくて、僕の気のせいなんだと思う。
兄貴はもう随分前から実家にいる。病院に入院させ続けることはできなかった。いつ目を覚ますかもわからない兄貴をずっと入院させ続けることは、あまりに僕らの家庭には重荷過ぎるほど治療費がかかる。兄貴は、当時のままにしてある兄貴の自室で今も眠っている。

「兄貴、久しぶりに会いに来たよ」

点滴と酸素注入のチューブをつけた兄貴に右手をあげ挨拶する。
兄貴がほんの少しだけ笑ったように感じたのは、またいつもの僕の気のせいだ。

「兄貴、今日は話があって来たんだ。一杯つきあってよ」

夕日がオレンジ色の光を部屋一面に広げる中、僕は買ってきたビールを2つのグラスに注いだ。

「乾杯」

そんな言葉をこぼしながら、宙に浮かせた2つのグラスをカチンと鳴らせる。片方のグラスをテーブルに置き、もう1つのグラスに注がれたビールを飲み干した。そしてまたビールを注ぐ。

「なあ、兄貴。結局教えてくれないままだったよな」

当然兄貴は無言だ。

「いつか僕にもわかるって言っただろ。今でもそれがなんだったのか、わからないんだよ」

「なんだ、オナニーの話か?ヨシオ」

「え?」

兄貴の声が聞こえた。兄貴の顔を見ても表情一つ変わっていないし、口も開いていない。

「兄貴!兄貴なのか!?」

「ヨシオ、いいオナニーができるようになったか?ほら、今ここでしてみせろよ」

「わ、わかったよ兄貴」

僕はズボンを下ろし、柔らかい性器をしごき始めた。

「それじゃ起たせられないだろ。机の上にある俺のエロ本使えよ」

「だ、だけど、あれはサオリ先輩の・・・」

僕の兄貴は中学3年生にしてアイコラ職人だった。グラビアアイドルのアイコラを作ることに飽き始めた僕の兄貴はリアルを追及し、僕らの中学校のアイドルであるサオリ先輩の写真を隠し撮りして、その写真を使ってサオリ先輩のアイコラ写真集を作成していた。その写真集は弟の僕でも使うことは許されず、兄貴が寝たきりになってからも僕は兄貴に悪い気がして使わなかった。

「いいんだ。使えよ」

僕は兄貴の机からアイコラ写真集を取り、ページを開いた。
そこにいたサオリ先輩は、もうアイコラとは思えないほどの完成度で、見た瞬間にたちまち僕の性器は硬直してそそり立った。
普段の僕のオナニーなら快感をコントロールし、射精直前で動きを止めてみたりなどをして時間を稼ぐのだが、サオリ先輩の前に僕はいつものオナニーよりも遥かに早くイキそうになった。

「ちょっと待っててね」

その言葉は、サオリ先輩が保健委員だった時に、僕が保健室に行くとサオリ先輩がいて、保健の先生はいないのかと尋ねた僕に返したサオリ先輩の言葉だ。後にも先にも僕はサオリ先輩と話したのはこれっきりだった。そんなサオリ先輩の言葉が脳裏に蘇り、すぐに果ててしまいそうな僕を勇気付けた。サオリ先輩が僕に、イクのを「ちょっと待っててね」と言っている。そう思えたんだ。
そのオナニーは確実に僕を中学2年生の頃に戻し、イキたいのだけどイッてしまいたくない不思議な気持ちに夢中になった。

「出して!中に出して!」

サオリ先輩がそう言ったのだけど、今のはただの僕の妄想だ。そう言う写真集の中のサオリ先輩の顔のあたりに思いっきり僕は精を放った。

「顔に出すよ!ほら、ちゃんと掃除して!」

その写真集は兄貴の宝物だってことすら忘れて。
オナニーを終わらせた僕は我に返り、なんてことをしてしまったんだという思いにさいなまれた。

「あ、兄貴・・・ごめん」

息切れしながら兄貴の顔を覗いた。

「いいんだ。それでいいんだよヨシオ」

やはり兄貴の顔は動いていない。それでも兄貴の声は止まらない。

「あの頃のお前は、俺のオナニーに近づこうとか、かっこいいオナニーをするんだとか、そんな風にオナニーをしてた。俺にはそれがわかってたし、なによりそれが残念でならなかった。だけどな、オナニーってのは元々理性を失くし、夢中になってするものなんだ。終わった後に残る罪悪感や虚無感すら、オナニーの醍醐味なんだよ」

僕は涙が止まらなかった。兄貴の言いたかったことはそういうことだったのか。なんて大きい兄貴なんだ。そう思った。

気がつくとオレンジだった部屋はもう暗くなってしまい、窓の外の街灯が部屋をブ
ルーに照らしていた。
ズボンを上げ、精の後始末をして、グラスに注がれたビールはそのままにして部屋を出ようとした。
ドアのノブに手をかけ、振り返り兄貴の顔を覗きこむと口元が歪みニヤリと笑った。

ように感じたことも、兄貴の声が聞こえたことも、きっと僕の気のせいだろう。そう
いうことにして、僕は軽く笑い部屋を後にした。

いつか兄貴が目覚めたら、きっと今日の話をしてやろう。そう決めた。

終わり

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