ヒッチハイク

ヒッチハイク

Date: 2005/01/18

一年位前からなのですが、おしっこが二本になるんです。

いや、のっけからそんなこと言っても意味不明なこと山の如しだと思いますが、やっぱりおしっこが二本なんですよ。もうこれは揺るがしようのない真実。

どうにもこうにも理由がわからないのですが、おしっこをすると、普通はジャーっと一本の絹のような筋が形成されますよね。これは男女共通だと思いますけど、生殖器から一本の線で尿が放出されるはずです。

しかしながら、どうにもこうにもここ一年ほどの僕はそうはいかない。なんか、思いっきり尿ラインが二本になって排出されるんですよね。何が原因なのか知りませんけど、僕はコレを「双頭の蛇」だとか「ダブルヘッドスネーク」だとか勝手に呼んでるわけなんですが、これがもういちいち凄い。

今や、尿ラインが二本なんてのには慣れっこになってしまってて驚きもしないのですが、最近ではその二本具合で体調の良し悪しとか分かるんですよね。排出された瞬間から尿が二本に分かれるV字型の時は体調良好。最初は一本だけどそのうちジワッと二本に分かれる尿の時はY字型、これはやや元気がない時です。極上に体調が悪い時は、どういう仕組みか知らないけど二本のラインが交差するX字型なんてのも見られます。

このように、尿が二本になるってのはそれだけで他の人にはないスキルな訳です。普通の人が1本の尿なのに僕は二本、言うなれば二刀流ですから、もうその時点でカッコイイ。

おまけに立ちションで電柱に向かって放尿したって、スパーっと尿が二本に分かれて電柱を避けるようにして大地に降り立ちますからね。すごく電柱に優しい。なにも電柱だって好きで尿を受け止めてるわけじゃないですからね。

これが発展していくと、そのうち二本どころか尿がシャワーみたいになるんじゃないかとか、それだったらスプリンクラーみたいに出てもらってトイレを地獄にしたいとか、いっそのこと尿だけじゃなくてチンコも二本になってねじったりしたいとか、そういうことばかり考えてるわけです。

家から職場まで片道1時間、往復で2時間かかる通勤地獄。もうあまりにも暇で暇でしょうがなくて、いっつもそんなことを考えながら車を運転してるわけなんです。もう、おしっこのこととか考えないと暇でしょうがないんですよ。

でまあ、基本は上記のような妄想、通勤時の暇つぶしはこれに限るんですが、まれにもっと刺激的な暇つぶしに遭遇することがあるんですよね。そういつもいつも遭遇するわけじゃないですけど、極稀に。

それがいわゆるヒッチハイクってやつなんですけど、僕の通勤ルートってのが都市から都市を繋ぐ国道で、山岳地帯を抜けるルート、おまけに道中に観光施設みたいなのが山盛りであるんです。で、夏場なんかは沿道にアホの子のように親指立てたり、行き先を表示した紙みたいなのを持ってる若者が立ってたりするんです。

こういったヒッチハイクの人を乗せて通勤するってのが極上の暇つぶしで、話し相手になってもらったり、大塚愛の素晴らしさをみっちり説いたりするわけなんですが、中にはやっぱり変わった人というか、ちょっと狂った人というか、早い話がキチガイみたいな人がいるんです。

ある時乗せたヒッチハイクの青年は、ホント今にも死にそうなヒョロヒョロの青年で、物凄い負のオーラを背中に背負ってました。親戚の家に行くためにヒッチハイクしてるって言ってたけど、僕には死に場所を求めてさ迷ってるとしか思えなかった。

また、あるときに乗せた青年は、玄武岩みたいな顔してたんですけど、車に乗せるや否や一言も喋らず、何をトチ狂ったのかガシャガシャと空き缶を握り潰し始めたんですよ。どういった意図のマッスルアピールなのか全然分からんのですけど、なんかバラエティ番組に出てきたプロレスラーのごとく己のパワーをアピールすることしかできない人だった。

とまあ、他にも挙げるときりがなくて、腕に注射跡がいっぱいついたヘビメタギャルを、ロードウォリアーズみたいなトゲトゲのプロテクターつけたギャルを乗せたこととかあるのですけど、これは別の機会に。今日は最も思い出深いヒッチハイクの話をしたいと思います。

あれは昨年3月のことでした。ちょうどNumeriキャラバン2004と題して日本全国北海道から沖縄までを自費出版の本片手に車で走り回っていた僕は、今のように通勤時ではありませんが運転中の暇さに苦しんでいました。

青森でのキャラバン開催が終わり、夜のうちにフェリーで函館に渡って朝までには札幌に行き、翌日の開催に備えようとしていた僕の前に一人の青年が現れました。

「函館に住んでるんですけど、函館開催がないんでフェリーで青森に来ちゃいました」

と、トチ狂ってるとしか思えないことを言っていたキャラバン青森の参加者の青年二人と、じゃあ一緒に函館まで行きましょ、ってことでフェリーに乗り込んだのですが、どうも降りる段になると、二人だった青年が三人に増えてるんですよ。

「あれ、なんか人数増えてない?」

って僕が話しかけると、その中の一人が

「patoさん、こいつさっき船の中で知り合ったんですけど、札幌まで行きたいらしいんですよ、できれば乗せていってくれませんか?ダメだったらウチに泊めますけど」

とか言うんですよ。船の中という限られた時間の中で知らない人とそこまで仲良くなれる社交性、その親切心に対人スキルの低い僕は恐れおののくしかないんですけど、別に断る理由もないので普通に承諾しました。

こうして、キャラバン中なのに全く見ず知らずの青年を乗せて札幌を目指すことになった僕、当時は見ず知らずのヒッチハイカーを乗せた経験などなかったですから、それはそれは物凄く緊張しました。

乗せた彼は山形在住の大学生。見た感じは真面目でガンダムとかに異常に詳しそうでした。ザクとガンキャノンを間違えたら死ぬほど怒るに違いない。なんでも、札幌に住む高校時代の友人のところに青春18切符で遊びに行く予定だったのですが、青森で青函トンネルを渡れず足止め。仕方なくフェリーに乗って函館に渡り、後はどうするか、電車もないしなー、などと考えていたようです。見た目の真面目さに似合わず結構無計画な人みたいです。

「いやー、ホント助かりましたよ。函館から札幌までどうやって行こうかと考えてましたから。最悪歩いていこうかと思いましたよ」

「いやーこの時期に歩いては無謀だよー。札幌まで300キロくらいあるんだよ。絶対に途中で熊に襲われるか凍死するって」

とか無難なのか危険なのか分からない会話をこなしつつ札幌を目指す僕と見知らぬ青年ヒッチハイカー。そして、急に青年の会話が核心に迫ります。

「どうしてpatoさんは札幌を目指してるんですか?」

ちょっと言葉に詰まった僕は、正直に旅の目的を話します。

「いやー、実はインターネットでサイトをやっててね、そこで文章を書いてるんだよ。で、それをまとめて自費出版した本を全国中売り歩いてるわけ。守銭奴みたいに。で、今から札幌に売りに行くってわけね」

普通の人にとって「サイトやってる」ってだけで奇異の目で見られ、3歩くらい後ずさりされても仕方ないのですが、おまけに自費出版までしてそれを全国で手売りするという暴挙、クスリやってると思われても反論できません。完全に引かれるかなーと思ったのですが、ヒッチハイク青年の反応は意外や意外。

「すごい!素晴らしい!そんな浪漫があることできるなんて!僕も憧れる!やってみたい!」

と、物凄い賞賛を浴びせる始末。まあ、車に乗せてもらってる手前、青年的にも「ふーん、バカですね」とか冷ややかな対応を取るわけにも行かず、仕方無しに賞賛してるんでしょうけど、いくらなんでもオーバーリアクションすぎ。

最初はお互いに勢い良くトークをかましていたのですが、やはり数時間前まで見ず知らずの中だった二人、おまけに二人に共通する話題源みたいなのが見当もつきませんので、次第と車内は沈痛なムードに。最初の饒舌トーク合戦が嘘のように静かになりました。

「えっとさ、中学の時、部活何してたの」

「帰宅部っす」

「へえー」

という、宇宙の大きさよりもどうでもいい会話を交わしつつ、極寒の大地、漆黒の闇を走り抜けていく無口な二人を乗せた車。夜の北海道の国道っのは恐ろしいものがありまして、ビックリするくらい街灯とかないんですよ。もう、ホント真っ暗。おまけに雪は降ってくるわ、道路は凍ってくるわの大騒ぎ。

やべーなーこわいなー、というか、このヒッチハイク青年が殺人鬼とかだったらもっと怖いなー、こんな何もない国道で殺されたら見つからないもんなー、とか比較的どうでもいいことをまたも考えていました。すると、

「あれ?ガソリンやばくないですか?」

と、ヒッチハイク青年のお言葉。もう、助手席の人に言われないと気がつかないってのもどうかと思うんですけど、見てみるとマジでガソリンがエンプティ間近。

「ありゃりゃ、ホントだねー、でもまあ、国道沿いだし次にガソリンスタンド見つければ大丈夫でしょ」

とか、僕も能天気な事言ってました。そう、ここまでは能天気だったのです。この第一次ガソリン危機が訪れたのが苫小牧という場所。たぶん、北海道のくびれみたいな所です。まあ、さすがにここから室蘭に向かって国道を走らせていけば、ガソリンスタンドなんてモリモリとあるだろう。そんな考えから室蘭に向かって走り出しました。

「あー、結構寂れた国道だね、ガソリンスタンド少ないかも」

「ですねえ」

と最初は余裕をぶっこいてた発言をしていたご両人ですが、次第に雲行きが怪しくなってきます。いや、マジで深夜の北海道を舐めてた。本気で舐めてた。いやね、ガソリンスタンドが少ないどころか、ほとんどないんですよ。

「そろそろやばいよね、早くスタンド見つけないと」

「まさかこんなにないとは」

極稀にガソリンスタンドがあったりするものの、当然のことながら深夜営業する気概なんて微塵もなくて、完全にクローズド。1ミリもガソリン入れられない。

「ねえ、そろそろやばいよね・・・こんな所でガス欠なんてなったら・・・」

「ガソリン・・・節約しましょう・・・」

何を思ったのか、暖房の風力を下げて必死なまでの抵抗。見ると、窓ガラスにはベチベチとみぞれとも雪ともとれる物体が吹き付けておりました。ここで止まったら間違いなく死ぬ。

しかし、そんな想いとは裏腹に、プスンプスンガクンガクンと見たこともないような悲鳴を上げて揺れ動く我が愛車。「がんばれーがんばれー」という二人で声をそろえ、ぎこちなかった二人が初めて協力する場面などが垣間見れたのですが、そのかけ声むなしく、我が愛車はそのまま動かぬ人となり天に召されていきました。ガス欠です。

室蘭市手前の国道、しかしながら微妙に山の中で辺りに街灯もなく、ちょっと離れた場所にある黄色い信号だけが点滅する、そんな場所でした。

「おいおい、やばいよ。こんな漆黒の闇の中でガス欠になってどうする」

「もうどうしようもないですね」

恐ろしいことに、ガス欠になった瞬間に当たり前ですが暖房まで止まりまして、雪がチラホラ見える3月の北海道の大地に放り出された形となりまして、急激に寒くなったんですよね。

もう車内なのに二人で寄り添ってないと凍えるくらい極寒ナイト。さっき出会ったばかりの二人なのに、ホモカップル並みの寄り添いっぷり。これがヒッチハイクの醍醐味だよね。

でまあ、本当に打ち解けあった二人は「寝たら死ぬぞー」とかベチベチやりあったり、急に何かを思い出したかのように青年が「あ、そういや僕チョコ持ってますよ」とアーモンドチョコを差し出してきて、「まるで遭難したみたいだな」とか言いながらそれを二人でつつましく食べたり。なんていうか古くからの友人のように打ち解けあったんですよ。

「patoさんのサイト、帰ったら絶対に見ますね。メールもします!」

そういった彼の言葉がなんともうれしかった。おまけに本まで買ってくれるとか言っちゃって、「いいよいいよ、お金要らない」とか言ってるのに、無理やり千円札を掴まされちゃって、まあ、その、ポッケにしまいこみました。こういう出会いがあるからこそヒッチハイクなんだよね。

しばらくして、青年が「JAFとかの救援を呼んだらどうですか」とか、至極真っ当なことを言い出しやがりまして、携帯からピポパポ、ピポパポ。30分くらい「寝たら死ぬぞ」ゴッコしてたら救援が来ました。

で、経済政策に失敗した国のハイパーインフレとしか思えない救援料を納めまして、5リットルだけガソリンを入れてもらって動き出しました。

「命拾いしたな!」

とか言ってたら、その5リットルを使い果たす間でもガソリンスタンドが見つからず、本気でもう一回JAFを呼ぶことも考えたのですが、なんとか深夜営業しているガソリンスタンドを発見。本当に命拾いしました。

万全に給油して、いざ札幌に向けて出発。もう最初が嘘だと思えるくらい打ち解けあった二人は、何か知らないけど初恋の話とかしてました。すげえ打ち解けすぎてる。

しかもなんと、すごいことに、これはマジで感動したんだけど、どっかのドライブインみたいな場所でジュース買った時に、もう親友みたいになってる二人は「男なら一緒に」を合言葉に一緒に立ちションしたんですけど、なんかね、彼のおしっこもダブルヘッドスネークなんですよ。しかもY型、やや疲れてます。

まさか、こんなところにもダブルヘッドスネークを持った男がいたとは!と感動しちゃいましてね、もうそれからはダブルヘッドスネークの話で持ちきりですよ。札幌までの数十分、ずっと、便器を外しやすいとかそんな話。さっきも打ち解け合えたと感じたけど、それの数十倍打ち解けられたと感じた。

いよいよ札幌に到着。二人のチグハグな旅の終着点です。ダブルヘッドスネークという同じ業を背負った二人の別れの時です。

「じゃあ、絶対に家に帰ったらサイト見てメールしますんで!」

「じゃあ」

ぬめり本を抱えて札幌駅へと消えて行く彼、ネカフェで寝ようと町並みに消えて行く僕。どんなに打ち解け合おうとも、一緒に旅をしようとも、お互い目的が違うのがヒッチハイク。かならず別れる時が来るのです。それが趣でもあり寂しさでもあるのです。そう、まるで二本のおしっこのように別方向に歩き出す二人、一期一会こそヒッチハイクの醍醐味なのです。

あの日あの時あの場所で、彼を乗せなければ出会えなかった。そんなダブルヘッドスネークに導かれた出会いを求めて、僕は出勤時でもヒッチハイカーを乗せるのです。暇つぶしと言う理由もありますが、素敵な出会いを求めて。

ちなみに、唯一気になることと言えば、兄弟の契りを交わさん勢いで打ち解けた件の彼ですが、もう少しで1年経過しようと言うのに、未だにメールが来ないということです。

今日はややY型ですので、こんな日記しか書けなくてすいません。

(追記)苫小牧じゃなくて長万部でした!

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