自殺名所に花束を

自殺名所に花束を

Date: 2004/12/02

警視庁が発表した昨年の自殺者数は34427人。これは過去最高で、6年ほど前から3万人以上の水準で推移している。これは実に交通事故死者の5倍くらいの人数が自らの死を選んだことになる。遺体の見つからない行方不明者の数も含めるとかなりの数になりそうだ。

単純に考えて、1日に約94人、1時間に約4人、15分に1人が自らの死を選択したことになる。今こうやって文章を書いている間にも誰かが自殺しているかもしれないし、あまりの寂しさに職場内で一人加藤鷹のモノマネ練習をしている間にも誰かが自殺している。

よく、自殺しようとしている人を「死んでなんになる」だとか「生きてればきっといいことある」だとか言って引き留める人がいるけど、ハッキリ言って僕は自殺者を目の前にしてもそんなこといえないと思う。

「死んでなんになる」と言って「遺体になる」と返されたら反論する術はないし、「生きていればきっといいことある」なんて嘘8000な保証は絶対に出来ない。ただ、自殺者を目の前にして言えることは「おいおい、列に横入りするな!ちゃんと並べ!」としか言えない。

生きている僕らの時間が死へと続く壮大な待ち時間とするならば、決められたように順番に死んでいくべきだと思う。待ち時間ってのは退屈で苦痛で誰だって嫌なものなんだけど、それでも皆は生という待ち時間を生きている。苦痛と退屈に耐えながら。

自殺ってのはそういった待ち時間を一気にすっ飛ばして自分だけ先に死んじゃうことに他ならず、言うなれば行列への横入り、列への割り込み。たまにどんな行列にでも厚顔無恥、大胆不敵にモロンと割り込みするオッサンオバサンヤンキーがいるけど、自殺ってのはそれと同じ事だ。アンフェアだしマナー違反もいいところ。

だから、僕はたとえ自殺者を見つけたとしても、「死んでなんになる」とか「生きていればいいことがある」なんて心にもないこと言わない。ただただ、「みんな順番待ってるんだよ!割り込みすんなよ!」とだけ一喝、マナーを正したい、そう思う。

実は僕は自殺者を止めようとしてとんでもない目にあったことがある。今日はちょっとその話をしてみようと思う。

大学生の頃、僕らグループは金はないけど時間だけはある、という救いようのない状態で、時間が余るたびに仲間数人で行くあてもなくドライブをしていた。

いつものように仲間5人で暇を持て余していた時、誰が言い出すでもなく車に乗り込んでドライブに行く事になった。で、若気の至りなのかオナニーのし過ぎなのか知らないけど、その中の誰かが

「自殺の名所に行こう!」

と言い出した。別に目的地なんてなくてもフラフラしてるだけで良かったのだけど、たまには目的を持って行こうって流れになったように記憶している。それで「自殺の名所に行こう」っていうんだから、僕らグループの知能の低さが窺い知れる。

ハンドルを握るは熱狂的アイドルオタクで知られる山崎君。助手席に座るは同じくアイドルオタクの後藤君。後部座席には「ときメモ」なら誰にも負けない大石君、パソコンオタクの山本君、そして僕。完全無欠のオタク5人衆を乗せた車は真っ直ぐに自殺名所に向けて走っていった。

その自殺の名所というのが、車で1時間くらい走っていった場所にある山間のダムにかかる吊り橋で、そこは不思議なくらい人がポンポン飛び降りる場所として有名だった。

「やべえよな!霊とか見たらどうする?」

嬉しそうにそう言う後藤君の顔はやっぱり容赦なくオタクで、ルームミラー越しに眩いばかりの100万ドルの笑顔が飛び込んできたもんだった。ジュース買う金もないくらい貧乏学生だったけど、それでもやっぱり楽しかった。

問題の自殺名所である吊り橋に到着する頃になると、出発した時間が遅かったためか辺りはすっかり薄暗くなっていた。全く人気のない雰囲気の中にオドロオドロしく佇む吊り橋はやっぱり不気味で、それこそ霊とか普通に出てきそうな雰囲気だった。

この吊り橋から何人の人が飛び降りたのだろう。生きる事がどうしようもなくなって、自らの死を選択してしまった人が、どうして最後の場所にココを選ぶのだろう。吊り橋を眺めていると奇妙な気分にさえなった。

「なんかでてきそうだよな!渡ってみようぜ!」

そう言う大石君の顔はやっぱり容赦ないレベルでオタクで、ある意味救いようがなかった。

で、吊り橋を歩いて渡るべく、僕らは吊り橋横にあるパーキングエリアみたいな場所に車を滑り込ませた。建前上はこの吊り橋とダムは立派な観光地で、昼間なんかは見学に来る人がいる。そんな人々が車を駐車したり休憩したりするためパーキングエリアが用意されていた。もちろん既に閉店していたが掘っ立て小屋みたいな売店もついていた。

駐車場に車を停め、オタク5人衆は吊り橋に向かって歩き出す。すると、暗闇で何かを見たのか山本君が目を丸くし口をパクパクさせながらこう言った。

「おい、だ、誰かいる」

今まさに向かおうとしている吊り橋の上に人がいた。それも見た感じ髪の長い女の人のようだった。外灯もない山の中、それも自殺の名所、そして辺りは真っ暗、なにをどう好意的に考えても吊り橋の上に女の人が一人でいる理由がない。

「霊?いいやまさか!あれは自殺者だ!やばいって!止めなきゃ!」

一目散に駆けて行ったのは山崎君だった。ターボでもかかったんじゃないかという勢いで猛烈に吊り橋に向かって走っていった。それに続けと言わんばかりの僕らは吊り橋に向かって走っていった。

「なにしてるんですか!こんなところで!」

明らかに最強に運動不足な僕が女性のところに到着したのは一番最後で、その時には山崎君が彼女に食ってかかっていた。

見ると、女性は20代前半であろうか、やや派手な格好にケバい化粧、それでいて少し憂いを含んだような表情をしていた。

「まさか自殺しようってんじゃないでしょうね!」

女性は山崎君の魂のこもった呼びかけにも応じず、ただ黙って下を見てるだけだった。もう完全に自殺者だと決め付けているところがすごい。で、ここからはオタク軍団大暴走としか思えない引き留め工作が。

「生きてればいいことありますって!」

「一人で悩まないでください!」

「死んで何になるんですか!」

とかなんとか。特に後藤君の「生きてればいいことありますって!」は、彼女に語りかけているというよりは自分の中の何か大切な部分に言い聞かせているかのようだった。必死の形相の後藤君を今でも忘れない。

女性は僕らの訴えが効いたのか何なのか分からないが、相変わらず終始無反応だったが、俯いたまま歩き出した。僕らが来た方とは反対側、吊り橋の向こう岸に向かって歩き出したのだ。

女性が自殺を思い留まってくれた。

僕ら五人の中に安堵の空気が流れた。そして、誰彼となく彼女について歩き出すと、。山本君が

「どうですか、これから僕らと食事でも」

と誘いだした。これだから暴走したオタクは恐ろしい。自殺を引き止めたその勢いでデートに誘うとは、本当に恐ろしい。それよりなのより、一緒に食事に行くなら彼女を車に乗せなければならない。僕らが乗ってきた車は僕らオタク5人で満杯。つまり、誰か一人をこの自殺の名所に置き去りにして食事に行くという事だろうか。それこそ、残されたやつが自殺しかねない。本当に恐ろしい。

彼女は相変わらず無反応で、僕らになんか一瞥もくれずテクテクと歩いている。無表情で無反応、その様子は自殺者みたいなのだけど、なんていうか反応がおかしすぎる。なんか漠然とした不安みたいなものが僕を襲った。

彼女について歩き、岸の反対側に到着すると反対側にも同じように駐車場と売店があった。僕らが来たほうのパーキングとほとんど同じ、変わらないものが反対岸にもあったのだ。

しかしながら、何か様子が違う。

僕らが来た岸の駐車場は閑散としていて、僕らの車くらいしかなかったのだけど、こっちの岸はやけに賑やか。いや、賑やかというかお下劣なシャコタンブギみたいな車が所狭しと駐車してあり、ウオンウオンと地鳴りのような唸りを上げていた。

おいおい、ここ地元のヤンキーの溜まり場じゃん。

やばい、危険だって思った時には既に遅く、か弱きオタク五人は地元のヤンキーからロックオン。北斗の拳にに出てくるモヒカンの屈強なザコキャラみたいなのが何人も取り囲んできた。

悪い事に、さっきまで自殺しようとしていた女性は実はそんなことなくて、ただ群れから離れたヤンキー仲間。一目散にリーダー格のシンナー中毒みたいなヤロウに駆け寄ると。

「どうした、アケミ」。

「さっきからあのブタどもがウザくてしかたないんだけど。やっちゃって」

なんて会話が漏れ聞こえてくるかのよう。会話は聞こえないけど、もう話の内容が分かりすぎて泣けてくる。

「てめーら何なのよ!」

だとか

「いいから金出せ」

だとか、恐怖のあまり良く覚えてませんけどどう好意的に解釈してもカツアゲとしか思えないセリフを吐かれてました。

やばい、このままでは狩られる。ええと、向こうの人数は5人、女を戦力外とすると5人。なんだなんだ、あの武器みたいなものは。あれで何をするつもりだ。でも、大人しく狩られるわけにはいかない、こちらも戦わねば。なあに、人数は同じ5人だ、なんとかやれるさ。

と、状況を振り返ると、向こうはシンナー中毒とはいえバリバリに武闘派の5人衆。喧嘩強そう。対するこちらはアイドルオタにトキメモオタ、パソコンオタ、そして僕。泣けるくらいに頼りにならない。ハッキリ言って勝負にならん。

まあ、結局、僕らは自殺を思い留まらせようとしてカツアゲされたわけなんですが、5人合わせて所持金が125円という体たらくぶり。大学生にもなってカツアゲされるってのもが小学生みたいで屈辱的だったけど、その額まで小学生みたいで屈辱的。山本君なんて「これは教科書買うお金で」とか小学生みたいなこと言ってたからな。

勘違いして自殺を止めようとして地元のヤンキーにカツアゲされる。その屈辱に僕ら五人は今にも自殺しそうな顔になっていた。

冒頭で、生きるってのは順番待ちの行列だ、自殺はその順番を無視する割り込みみたいなもんだ、って言ったけど、その時ばかりは自殺しそうな僕ら五人が自殺の順番待ちの行列を作ってるようだった。

「生きてればいいことありますって!」

後藤君のあのセリフが、誰もいない吊り橋を見るたびに思い出される。

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