ミイラ取り

ミイラ取り

Date: 2004/04/17

ミイラ取りがミイラになる。

なんて言葉がある。誰かを説得しに行った人が逆に説得されちゃって、最終的には別の誰かに説得される立場になっちゃうとか、そういった本末転倒な場面で使われるのだけど、これってば実に良く出来たコトワザだと思う。

このコトワザの起源を推察するに、たぶん、古の時代にミイラを取りに行く人かなんかがいて、その人が取りに行ったっきり帰ってこない。で、何で帰ってこないんだろーなーって思ってたら、その人が見事にミイラになってた。きっと、こんなエジプト人もビックリの事があったかなんかでこの言葉が出来たのだと思います。

でまあ、この言葉について色々と思いを馳せてみるんですけど、やっぱりこの言葉は良く出来てるなーって思うんです。本末転倒な事を表す言葉やら、こういったミイラ取りミイラになる的な事柄を表す言葉って何でもできると思うんです。

新興宗教のインチキを暴きにいったら入信していた。

暴走族を捕まえようとしたら、いつの間にか自分が暴走していた。

痴漢を捕まえに行ったら自分が痴漢になってた。

下着ドロを捕まえようとしたら右手にパンティエを握っていた。

山菜取りに行ったら三歳になってた。

最後のヤツ以外意味合いは同じで、何でも表せると思うんですけど、やっぱ「ミイラ取りがミイラになる」には勝てない。ミイラって言うと妙に生々しくて悲劇的、こういった本末転倒な出来事を表すのに微妙にマッチしてる。ミイラを取ろうと意気込んでいったら自分がミイラになってる、これほど悲劇的なことがあるか。

それに、この言葉、なんていうか語呂がいい。ミイラ取りがミイラ、ラップとかに出てきそうなほどビビッとに富んだ語呂の良さがあるような気がする。うん、とにかく「ミイラ取りがミイラになる」この言葉ってヤツは良く出来てると思う。

小学生の頃、僕のクラスでは今考えると信じられないトンデモなイベントがあった。「励まし会」というセンスのカケラもないネーミングのこの会、とにかく訳の分からないものだった。

放課後、「励まし会」の時間がやってくる、すると会の名前の通り、クラス中の子供がお互いを励ましあう。向かい合ったクラスメイトの良い場所を無理矢理探し、「メガネかけるようになったんですね、すごく勉強できそうですよ」などと意味不明に誉めたりして励ます。そんな会だった。

誉めるべき場所がある人間が対面に来るのなら良かったのだけど、どうしようもないチンカスみたいなクラスメイトが来た場合は大変で、「今日は忘れ物しなかったですね、偉いですね」などと、誉めてんだか皮肉言ってんだかわかんない状態になってた。で、そうやってギクシャクしながら互いに励ましあう児童の様子を「ウンウン、青春だわ」と言いたげな微笑で眺めるクソババア教師、なんていう異様な空間が出来上がっていた。

しかしまあ、こんな励まし合う儀式なんてのはカワイイもので、子供心ながらに「こんなクソみたいなことやって意味あるのか」と思いつつも、黒ミサみたいなものだと割り切ってしまえば何てことなかった。励ます会の恐怖は別な場所にあったのだった。

一通り励まし合う儀式が終了すると、大部分の児童は無罪放免、そのまま帰宅することを許された。しかしながら、当番制で2人だけその後も継続して任務を遂行することになっていた。

不登校の児童を2人で励ましに行く。

なんとも信じられないことだけど、選ばれた当番の2人は何ヶ月も登校して来ない不登校児童を励ましに行くことになっていた。プリントやら給食で余ったコッペパンとヨーグルトを手に、不登校児童の家を訪問し、その子に学校であった事などを話さなければならなかった。

僕がもし不登校児童の立場なら。そんなことしなくていいから、ほっといてくれ、などと思うものだが、そんなことお構い無しに月一くらいで催され、不幸にも励まし当番になった児童が不登校児童の家を訪問していた。

ある日のこと、いつものように励まし会を迎え、ギクシャクしながら励まし合いの儀式を執り行い、針のむしろのような時間を存分に満喫していた僕。相変わらず気が重かったのだけど、それ以上に気を重たくさせていたのが「不登校児訪問」の当番が自分に回ってきてるという事実だった。ハッキリ言って死ぬほど面倒くさい。

しかも、一緒に行くパートナーが粗暴で暴力的で自己中心的なことで有名な典型的なガキ大将タイプの岡村君、考えうる限り最悪のパートナーを伴って行かねばならにことが憂鬱だった。

「あーあ、面倒だなあ、行かなくてもバレないんじゃねえ」

不登校児童、松本君の家を訪問する道すがら岡村君が気だるそうに言う。さすがガキ大将、行かなくてもいいんじゃねえ?とは大胆すぎる発言だ。

「さすがに行かないとバレるでしょ」

余り気が進まない僕は控えめに言うのだけど、それでも岡村君は止まらない。

「もうさ、行かずに帰らねえ?ヤツに持っていくプリンも俺達で食っちゃってさ、プリントなんて捨てちゃえば分かんねえよ」

とにかく「行きたくない」「面倒くさい」を連呼する岡村君だったけど、僕は知っていた。これから向かう先の松本君が不登校になった理由は、岡村君の度重なるイジメだった。岡村君が執拗に彼を虐めたことにより松本君は学校に来なくなり、不登校になったのだ。そりゃあ、虐めて不登校にした張本人だ、励ますもクソもないし、どのツラ下げて会おうっていうんだ。

「でもさ、行かなかったことがバレるとさ、またあのクソババア(先生)に怒られるしさ。行くだけ行こうよ。」

何とかなだめすかし、嫌がる岡村君を引き連れて松本君の家に行く。実は僕には少しばかりの勝算があった。それがあったから彼を引き連れて悠々とお宅訪問をしたのだった。

これまでに何度か励まし当番が松本君の家を訪問したのだが、誰一人家の人に会えた事はなかったのだ。いつも不在で、多分松本君は家にいたのだろうけど居留守を使っているらしく、いつだって不在だった。だからプリントなどを玄関に置くくらいの軽度な任務だったのだ。

「多分さ、松本君も居留守使うしさ、プリントとプリンを玄関に置くだけだよ、だから行こうよ」

どうせ誰もいないんだろ、そんな期待を抱きつつ、僕ら2人は松本君の家へと向かった。

「こんにちはー、誰かいますかー?」

インターホンという文明の利器を知らない僕らは玄関の扉を開け、大声で叫ぶ。やはりというかなんというか、家内には僕らの声がこだまするだけで誰も出てくる気配は無い。

「な、誰も出てこない。さ、プリント置いて帰ろうよ」

そう岡村君に言い、帰ろうとしたその瞬間だった。

「・・・・・上がってよ」

廊下の奥の方、遥か彼方にヌボーッと突っ立っている松本君の姿があった。元々弱々しくてか細い彼だったけど、不登校による日陰生活と相まってか陰鬱な雰囲気を鬱蒼と醸し出していた。

「よ・・・よう・・・久しぶり・・・元気?」

予想だにしてなかった松本君の登場に動揺を隠し切れず、無難な挨拶をしながら取り繕った。松本君の家に訪ねていって松本君が出てきたら驚くってのも変な話なんだけどな。

(ちくしょう、なんだって今日に限って出てくるんだ。いっつも居留守なくせに今日に限って)

ホント、正直言ってそう思ってた。でもまあ、「上がれよ」って言われてるのに上がらないわけにはいかないので、僕と岡村君は大人しく靴を脱いで上がった。

自分が虐めて虐め抜き、不登校にまで追いやった相手を目の前にし、岡村君は少しバツが悪そうな顔をしてたけど、それでも上がらないわけには行かなかった。

でまあ、岡村君と2人で廊下を歩きながら松本君の部屋を目指すのだけど、ここで異常事態発生。なんかな、部屋に続く途中の階段の踊り場みたいな場所があるんだけど、そこに竹刀持ったモヒカンのお兄さんが座ってるんだよ。メジャーリーガーみたいにクチャクチャとガムを噛んでな、ウンコ座りしてるんだよ。

もうこのお兄さんが凄くてな、明らかに薬物とかやってそうな目しててモヒカン頭、しかも毛の部分が真っ赤ときてる。なんかな、マサイ族かどっかの「部族最強の戦士」みたいないでたちしてるんだよ。それが竹刀持ってウンコ座り。ハッキリ言って殺されるかと思った。

「おい、お前らか?義人を虐めたのお前らだろ」

そのマサイの戦士は松本君の実兄だったらしく、言うわけですよ。「お前らが弟を虐めて不登校に追いやったのか」と。

冗談じゃないですよ。「お前ら」とか括られても困るわけで、虐めてたのは明らかに岡村君のスタンドプレーで、僕は全然関係ないわけ。誤解されちゃかなわないから首がねじ切れそうな勢いでブルンブルンと横に振るんだけど、マサイの戦士にそんなのは通用しない。

結局な、僕と岡村君、彼の家の台所で正座させられてマサイの戦士に説教されたよ。場所が台所だけにマサイの戦士が凄い勢いで狂っててな。包丁片手に舞ったりとか皿を割ったりとか、とにかく薬物依存症としか思えない暴れっぷりで説教されたわけよ。人間ってここまで狂えるんだなって感心したもの。虐められた弟を思ってトチ狂う、麗しき兄弟愛だなって思うけどさ、さすがに包丁持ってってのはやりすぎ狂いすぎ。

な、何で僕はこんな他所の家の台所で正座させられてるんだろう・・・。

そこはかとない理不尽な想いが込み上げてくるんですけど、横で青い顔になりながらブルブル震えて正座している岡村君を見たら、そんな気持ちは吹っ飛んでしまいました。そりゃそうだ、弟が虐められてトチ狂ってる兄の目の前に虐めた張本人が座ってるんだから。

結局、その日は僕らも頑なに口を割らず、マサイの戦士に刺されることなく帰れたのですけど、帰りの道中岡村君はずっと

「やばいよ、やばいよ。俺、殺られるよ」

と青い顔して言ってました。それで次の日から学校に来なくなった。うん、なんていうか、岡村君まで不登校になっちゃったんだよね。

不登校児童、松本君を励ましに行って岡村君が不登校になる。

正に「ミイラ取りがミイラになる」だなーって思っていたのですけど、もっと感心したことがありまして。数ヵ月後に不登校を克服した岡村君が登校して来たのですけど、以前のガキ大将のような豪胆な彼の面影は見られず、やせ細って陰鬱で、目の下にデーゲームの近鉄の選手みたいなクマがある状態になってました。

うわ、これじゃあミイラじゃん。

本当にミイラみたいな状態になった岡村君を見て、やっぱ「ミイラ取りがミイラになる」って言葉はすごいなあ・・・本当にミイラになりやがった。などと思った次第であります。

結局、何が言いたかったのかといいますと、戦地の困ってる人を助けに行くボランティアってのは確かに立派なことだと思うけど、助けに行った人が助けられる立場になってしまって大騒ぎってのは本末転倒で、ミイラにならなくて良かったね、ってことが言いたかったのです。

ちなみにエロビデオを返却しに行ってまたエロビデオを借りてしまう、これも「ミイラ取りがミイラになる」。本末転倒だから。ホントよ、ビデオも無いのに何で借りてくるかな。DVDも借りたとはいえ何でかな(DVDはPCで見ることが出来る)。マジでミイラになりそうだぜ。

自分の愚かさを呪い、小学生時代の意味不明な「励ます会」、あれでもいいから誰かに僕を励まして欲しい気持ちでイッパイです。今日は開き直って高遠さんで抜くわ。

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