片言の肩こり

片言の肩こり

Date: 2004/01/16

朝、目覚めると激しい肩こりに襲われました。

目覚めたら肩こりが酷かったと言うよりは、むしろ肩こりが酷すぎて目が覚めてしまったと言う方が正確で、とにかく尋常ならざる肩こりに悲鳴を上げながら目が覚めたのでした。

これは肩こりを患っているか方しか分からないと思いますが、許容範囲を超えた尋常じゃないレベルの肩こりってやつは酷いものでございまして、とにかく酷い激痛が襲い、挙句の果てには頭痛までしてきたりするのです。

「カタイタイ キョウ シゴト ヤスム」

寝ぼけ眼の僕は、何故か片言の日本語でそう呟くと、またもや深い深い眠りにつくのでした。いくら酷い肩こりとはいえ、別に仕事を休むほどのものではないのですが、まあ、肩こりを口実に二度寝したかっただけだと思います。

僕は元々、肩こりが酷く、マックス時には肩こりの苦しさでゲロを吐いてしまうこともあるのですが、肩こりとは不思議なものです、何も意識していない良好な時は肩こりであることすら忘れてしまうのです。そして、何かのキッカケで再発すると身悶えるほど苦しくなる。ホント、肩こりってのは不思議なものです。

最近までは、肩こり?なにそれ?といった構えも辞さないほど肩の状態も良好で、自分が肩に爆弾を抱えていることすら忘れていたのですが、先日の散髪でマッチョ見習いに肩の骨が外れるほどのマッサージを受けたからでしょうか、あるいは日頃の不摂生が祟ったのでしょうか、急激に再発したのですよね。

当然、二度寝しながらも肩はビキビキと痛み、なんか肩に別の人格(美貴子:女の子17歳、シンナー中毒、けっこうおてんば)が住み着き、所狭しと大暴れして肩が痛んで死にそうになるという悪夢を見ていました。

でまあ、もう二度寝どころの騒ぎではございませんので、なんとかノッソリと布団から這い出し、肩をグルグルと回しながら携帯電話を確認したのです。

するとそこには「11:30」という絶望的な時刻表示。もうお昼やん、遅刻どころの騒ぎじゃないやん、という絶望的な時刻表示。そして世紀末的な着信履歴、

着信アリ 6件
職場 10:05
職場 10:28
職場 11:08
職場 11:09
職場 11:10
職場 11:11

血の気が引いた。明らかに引いた。間違いなく震撼したね。全米が震撼した。よくわからんけど。とにかく最後の1分おきの着信が恐ろしすぎる。明らかに職場では僕が来ないことで大騒ぎになってるに違いない。

うおー、寝坊したー、なんで二度寝しちゃったんだー、とか独りで叫びながら、もはや肩こりなぞどうでもいいわと言わんばかりに出勤の準備を整え、大車輪の勢いで出かけたのですよ。

で、出かける際に着ていく服を選んだのですけど、見るからに服がないのな。どうも最近、夏休み中の中学生の如く洗濯をサボってたもんだから、ついに投入する服がなくなっちゃったのな。

洗濯済みの服が無い、しょうがない、ここは2ターン目にいくか、などと思いながら脱ぎ散らかした汚れ物の中からマトモそうなのを選抜してたのですけど、そこで思ったのですよね。またこういう2巡目の服を着ていこうものなら、職場で「くさい」だとか「くささい」だとか陰口を叩かれるんじゃないか、って。

でね、なんとか2巡目の服だけは避けようと思って、どうせ遅刻だし今更同じだしって開き直っちゃって、押入れの中を大捜索したんですよ。何か着る服ねーかなー、古い服でもいいから出てこねーかなー、って。

そしたらね、押入れの奥底から出てきたんですよ。もう何年前に着ていたんだかも分からないような、見るからにボロボロの古いダサい服が出てきたんですよ。

僕はね、ファッションだとかメンズノンノだとか、そんなのはどうでもいい人種なんですよ。服なんてチンコと乳首を隠せればいいと思ってますから、ダサかろうがボロかろうがどうでもいいんですよね。臭いと陰口さえ叩かれなければどうでもいい。そんな気持ちからその服を着て出勤したんですよ。

で、職場に到着すると、「また遅刻かよ、このカスが」と言わんばかりの冷ややかな眼差しで注目の的でした。いやはや、何度経験してもあの遅刻した時の皆の冷ややかな視線ってのは耐え難いものがあるね。

僕も僕で止めておけばいいのに、変に言い訳がましくなっちゃって、「いやー朝起きたら肩こりが酷くてさあ、来る気はあったのに立てなくて遅刻しちゃったよ、てへ」とか見るも無残な言い訳をかましてました。立てないほどの肩こり、肩こりで遅刻、自分で言ってても数箇所は間違っていること確実なのですが、自分の遅刻を正当化するため、さも当然の顔をして言い放ってました。

でまあ、誰もピクリとも反応せず、「またチンカスが何か言ってるぜ、誰か相手してやれよ」的なムードが蔓延したのですが、僕だって負けていません。誰かが反応してくれるまでしきりに「肩コリが酷くてさあ」と連呼していました。

で、いよいよ可哀想に思ったのか、それともあまりにウザイと思ったのか、業を煮やした大崎君が

「そんなに肩こりが酷いならさ、僕が肩揉んであげるよ。得意なんだぜ」

と言ってきました。

こう言ってしまっては何なんですが、大崎はかなりのマッスルです。溢れんばかりの筋肉を誇り、日々己の肉体美を眺めてはウットリするような男です。当然ながらパワーも物凄く、瓶ビールの栓などは割り箸であけるなんていう悟空のような力を見せ付けているのです。

いやいや、僕ってば散髪屋でマッスル店員に力の限りマッサージされて肩こりが再発したじゃないですか、ここでまたマッスル大崎にマッサージされようものなら、下手したら肩が外れかねません。良くても苦痛で身悶えるのは確実です。できれば丁重にお断りしたい。

けれども、やっとこさ反応が返ってきて嬉しかった僕に、その申し出を断る理由などなく、満面の笑みで

「よろしくおねがいします。ホントに肩こりが酷いんで」

と言ってました。

そんなこんなで僕のデスクではビクビクしながら椅子に座る僕、あらん限りの力で肩を揉む大崎、なんていう世にも奇妙な光景が展開されていたわけですが、大崎のバカが肩を揉みながらすげえ嫌味を言いやがるんですよね。

「いや、pato君、お昼頃に出勤とは、なかなか良い身分ですなあ」

とか、

「pato様には敵いませんわ、僕より年下なのに重役出勤だなんて」

とか、まるで嫁をいびる姑みたいに言ってくるんですよ。しかもなんか言い方がエロいのな。もう、男樹よりエロい俺の空よりエロいって言い方で、肩を揉みながらイヤミ満開過積載、気の弱い人ならこれを苦に自殺しちゃうんじゃないかってことを言われ続けたのです。ホント、肩でも骨でもなんでもなく、僕の心が折れるかと思った。

しかもさ、最初こそは「心地よい」って感じのパワーで揉まれていたのに、イヤミを言いながらパワーだとか憎しみだとかがドンドンと込められていってさ、どこをどう考えてもマッサージとはいえないレベルで肩を締め上げられてるの。

でまあ、そういうのって明らかに異常な状態じゃないですか。子猫を失った母猫みたいな形相で力を込めるマッスル大崎に、それを脂汗流しながら必死に耐える僕。賢明なNumeri読者の皆さんなら分かってると思いますけど、そういった異常な状態の時って明らかに有り得ない大事件が起きるんですよね。

で、今回もご多分に漏れず大事件が起こったわけなんですけど、一体どんな事件が起こったのか。ちょっと皆さんで想像してみてくださいよ。

1.骨が折れた

ありえません、さすがにそうなったら僕は今頃は病院のベットの上です。

2.大崎が力を込めすぎたあまり、爪が肩肉に食い込んで大流血をした。

ノンノン、いくらなんでもそれは傷害事件です。

3.B子がやってきて大崎以上のパワーで肩を揉み、僕の肩をもぎ取った

ノンノン、さすがにそこまで猟奇的ではありません。

皆さんさまざまな展開を予想すると思いますが、ここらへんで展開予想を止め、正解を書いてみようと思います。

正解は、「服が破れた」です。

いやね、背に腹は代えられぬとボロい服を着ていったじゃないですか。明らかにボロボロな、朽ち果てる寸前の服を着ていったじゃないですか。そんな、ただでさえ弱ってる服に、大崎が有り得ない力を込めたものですから、両肩の縫い目の部分がブリベリブリベリとかコントみたいな音を立てて破れやがったのですよ。

もうね、肩の部分がベローンとなっちゃって、明らかに素肌がシースルーそんな、米国だったらセクハラで訴えられてもおかしくない状態になってたんですわ。

で、大崎のバカも「まさか破れるとは思わなかった、ごめんごめん」とか言ってるんですけど、僕は「どうせボロだったし、まいっか。捨てるキッカケができた」と何食わぬ顔をしていたのです。

そこにB子が登場ですよ、どっからやってきたか知りませんが、マッスル事務員B子が裁縫道具を手に飛んできましてね

「大変!縫わなきゃ!早く脱いでください!」

とか言って僕の服の肩の部分を縫い始めたんですよ。女らしさを見せつけようと思ったのか、妙にカマトトぶってるのか知らないですけど、あまりの勢いで縫い始めたもんですから、「それもう捨てるから」とは言い出すことができず、ただただ縫いあがるのを待ってました。

「はい、できましたよ。破れた場所以外にも肩のところの布地が限界でしたから布をあてておきました」

そういってB子に手渡された僕の服には、明らかにツギハギみたいな布が、色の違う布が、これでもかと両の肩に縫い付けてありました。なんか、肩に変な布がペコーンとついてて、安っぽい聖闘士聖矢のクロスみたいになってた。

でもまあ、せっかくB子が縫ってくれたんですし、僕もそれを大人しく着ていたのですが、そこにB子が一言

「肩こり酷いなら私が肩揉んで挙げましょうか?」

とか有り得ないことを言ってました。己の筋肉を震わせ、大気を振動させながらマッスルB子が言っておりました。コイツは普段から何食って生きてやがるんだ。大崎にやられただけでも服が破れたのに、B子にやられた日には肩の筋肉を破られかねん、肺胞とか破られるかもしれん。余りの恐怖に身悶えた僕は、

「イヤ イイデス モンデモ ナオラナイ デス」

と、なぜだか片言の日本語で答えてました。

それを聞いたB子がさらに有り得なくて

「肩こりには針が効くんですよーニヤリ」

と、さっきまで裁縫に使っていた針を持ちながら、肉食獣のように舌なめずりしながら不適に笑っておりました。またも血の気が引くのを感じた僕は

「モウ カタコリ ナオッタ」

と、何故だか片言の日本語で言うのでした。

肩が痛いせいで遅刻をし、遅刻したせいで職場の同僚にイジメられる。まさに肩に振り回されっぱなしの1日で、非常に肩身が狭い思いをするのでした。おしまい。

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