炎の記憶

炎の記憶

Date: 2003/12/18

人の記憶というのは面白いものでして、普段は何も気にすることなく忘れ、忘却の彼方にある記憶でもあるキッカケによって突如思い出されたりするものです。それをフラッシュバックと言うかどうか知りませんが、とにかく、人の記憶とは完全に消え去るわけではなく、どこかの片隅に単純に置き忘れているだけなのかもしれませんね。

記憶が鮮明に蘇る際のキッカケ、つまりトリガーと呼ばれるものは山ほどあります。それが、懐かしい時代の歌だったり、懐かしい顔だったり、なんでもない些細な人との会話だったり。

もしかしたら、思い出や記憶といったものは、焚き火の後で燻っている炎みたいなものなのかも知れませんね。一見すると消えているように見せかけて、実は中で燻っている。それでもって、風が吹くとか燃える物を投下するとか、そんな簡単なキッカケで再度燃え上がる。そういうものなのかも知れません。

かくいう僕にも、そんな燻っている炎のような記憶は山ほどあるわけで、ちょっとクソガキが転んで泣いてるとか、茂みにエロ本が落ちてて雨に濡れてグジョグジョになってるとか、そういうのを見るだけでバシバシと思い出がフラッシュバックするんですよね。もう、燻ってる燃えカスに軽油をぶっ掛けたような勢いでバシバシと燃え上がるのです。

そんな僕の中の思い出達の中にあって、ひときわ強烈な存在感を示す思い出、いわばキッツイ思い出があるのです。街の至る所に存在するそれらの思い出のトリガーを見た僕は、その強烈な思い出を蘇らせ、切なくなったり悲しくなったり、大変なことになるのです。

僕が小学生の頃でした。まだまだファミコンがリトルブームといった時代で、ガキどもの遊び場は近所の公園だとか空き地だとか、そういった場所でした。

もちろん、僕も数人の仲間達と空き地でチャンバラゴッコをしたりキックベースをしたり、もっぱらアウトドアで泥だらけになりながら遊んでいました。

そんな僕らの仲間の中に赤木君という男の子がいました。彼はマンガに出てくるほど典型的なもやしっ子で、ひ弱でヒョロヒョロ、しかも気の小さいヤツでした。見てるこっちが心配になるほどのもやしっ子っぷりでした。

そんな赤木君なのですが、彼は少し不登校気味でした。放課後などに僕らと遊ぶ時は元気に家から飛び出してくるのですが、学校自体にはほとんど来ませんでした。なんというか、現代では不登校とか引きこもりとか割と普通ですが、あの当時はとても奇異な目で見られていました。

どうして赤木君が不登校だったのかと言いますと、実は彼、学校で虐められていたんですよね。なんというか、見るも無残、語るも無残、そう思うほど豪快なイジメを受けていました。

では一体、誰がそこまで無残に赤木君を虐めていたのか?いえいえ、僕らクラスの男子ではありませんよ。僕らクラスの男子は赤木君と仲良く遊んでましたし、彼も放課後の遊びには喜んで参加していましたから。

じゃあ、一体誰が赤木君を虐めていたのか。虐めていたのはクラスのとある女子でした。その女子1人が徹底的に赤木君を虐め抜き、それこそ赤木君が不登校になるまで追い詰めたのです。

この年代の子供と言いますと、体の発育が早いため女子の方が精神的にも肉体的にも大人であることが多分にあります。ですから、まだまだ僕ら男子がチンゲもクソも生えてない時期にも関わらず、ワキゲがボウボウに生え揃ってる女子とかいました。そう、この時期の子供って女子の方が強いのですよね。精神的にも肉体的にも。

で、そんな僕らよりちょっと大人な女子の中でも、一際たんまりと発育した大人な女子がいました。もう、体とかムチャクチャでかくて、スポーツやってたから筋肉ムキムキ、明らかにステロイド剤とか注入してそうな女子がいたのです。

で、その子が顔もゴリラみたいで肉感的、しかも男勝りの勝気な性格でいつもゴリラのように大暴れしていました。ちょうど今の僕の職場にいるB子みたいな、彼女をまんま小学生にしたような女子でした。僕は彼女の外見や暴れっぷり、そういうのを目の当たりにしながら心の中でヒッソリと「ゴリ子」と彼女のことを呼んでいました。

で、そのゴリ子ですが、何が気に喰わないのか知らないけど徹底的にひ弱な赤木君を虐めていたのです。それも陰湿な精神的イジメだけではなく、殴る蹴る殴る蹴るぶん投げる、ゴリ子らしく豪放なイジメでした。

女子が男子をイジメる絵図ってのも物凄いものがありますが、僕らは僕らで「赤木君かわいそう」と思いつつも、超人強度が2000万はあろうかというゴリ子の暴威に成す術なく、ただただ震えるのみでした。

ある日のことでした。

僕らがいつものように近所の公園でフラフープ(当時我が小学校だけ局地的なブームだった)をして遊んでいた時のことです。ヘルニアになるんじゃねえの?という勢いでフラフープを回し、「楽しいな」などと笑顔でこの世の春を謳歌しているときでした。

シュゴオオオオオオオ!!

圧倒的勢いでゴリ子登場!どっからともなくゴリ子登場!ヨーロッパ辺りの牛に追いかけられる祭の牛みたいな勢いでゴリ子登場!もうね、ほんと空気を切り裂く勢いで登場してきたんですよ。

でまあ、当然の如くゴリ子は赤木君を捕縛しましてね。それこそ、フラフープがひん曲がる勢いで殴る蹴る殴る蹴る。何でそんなに赤木君のことが憎いんだろう、ってレベルでちぎっては投げちぎっては投げ。赤木君、スウィング・バイしそうな勢いで投げられてた。

当然僕らは、その光景を目の当たりにしながら、「赤木君を助けなきゃ、こんな横暴許されるはずがない」とか思うのですけど、ゴリ子の持つまるで大人と子供と言わんばかりの圧倒的パワー、ブルースリーと言わんばかりの格闘テクニック、悪の華と言わんばかりの横暴、そういうのを目の当たりにして心の底からブルってしまったのです。もう、フラフープもしてないというのに、フラフープでバランス取ってる時みたいに膝がプルプル震えてた。

で、一通り暴力を受けてボロ雑巾のようになった赤木君、いつもの如く当然のことながら泣いてしまうわけなんですが、ゴリ子はそんな赤木君の泣き顔を確認すると

「これで満足、ウッホ」

と言わんばかりの満足げな表情で僕らを一瞥し、またどこかへと去っていくのでした。一陣の風の如くやってきて、また風のように去っていく。さながら季節外れの台風とでも言いましょうか、とにかく猛威を奮い、赤木君に甚大な被害をもたらしてゴリ子は去っていきました。

でまあ、僕らも突如のゴリ子タイフーンの到来に心底震え、またココで遊んでたらヤツがやってくるかも、しかも今度は僕らが殺られるかも、と気が気じゃない状態に陥り、さらに楽しかったフラフープ遊びも白けてしまったことから「もう帰ろうか」となったのです。

地面にうずくまって泣きじゃくる赤木君を抱え起こし、「大丈夫だって、いつか勝てるさ」などと意味不明な励ましの言葉を投げかけます。そして夕暮れの街をトボトボと歩いて家路へと着いたのでした。

何気ない夕暮れの放課後。トボトボと家に帰る少年達。そして涙で瞼を腫らした赤木君。そんなありふれた思い出が僕らの記憶に残されるはずでした。別に思い出すこともない、何てことは無い少年時代の記憶の1ページ。そんな思い出が記憶されるはずだったのです、この後に物語があんな展開さえ見せなければ。

トボトボと帰る僕ら、泣き止まない赤木君。そんな僕らの前に大きな問題が立ちはだかりました。僕らがフラフープをして遊んでいた場所と家との間にゴリ子の家があったのですけど、どうにも、ゴリ子の家の前を通らないと家に帰れなかったのですよね。ゴリ子の家の前を避けるとすげえ遠回りして帰ることになる、そんな状態だったのです。

おいおい、やべえんじゃないの。家の前なんか通ろうものなら猛り狂ったゴリ子が出てくるんじゃねえの。それで家の中まで引きずり込まれて殴る蹴る殴る蹴る。僕らでそれ何だから赤木君なんか僕らの目の前で殺されるんじゃないか。そんな風に心の底からブルってゴリ子の家の前を通過したのです。

刺激せぬよう、なるべく物音をたてぬよう。まるでフリーダムに扉が開放された猛獣の檻の前を通るように細心の注意を払い、口から心臓が飛び出しそうな勢いでドキドキしながら通過したのです。

その時でした。

僕らはすごくビビっちゃって、全員が小さな一団になりながらコソコソと通過していたのに、ずっと涙に暮れていた赤木君が突如リミットブレイクしやがりやがったのです。

もうね、「ウキー!」とか罵声なのかそういう鳴き声なのか分からない音声を発しながら半狂乱になっちゃって、道端に転がってた石をゴリ子の家に向かって投げる投げる。

「なんで俺ばっかりイジメるんだよ!このゴリラ!」

憎しみと悲しみと悔しさと、そういうのを込めて渾身の力で投げる投げる。涙ながらに投げる投げる。でも悲しいかな、そこはさすがにもやしっ子、泣けるほどに威力なのい石は全く家屋に届いてませんでした。

届かない石、こだまする渾身の負け惜しみ。それでも赤木は石を投げる手を止めなかった。

「いつも俺ばっかりイジメやがって!お前の家なんか燃えちまえ!」

ゴリ子のイジメに対し、今まで全く反抗すらしなかった赤木君。この投石が初めての意思表示でした。「燃えてしまえ」はいささか過激すぎるセリフだとは思いますが、ゴリ子の家の前でそのセリフを言えるのはアッパレ。何もできずに震えていた僕らに比べれば何倍も勇気ある行動だと思います。

でもまあ、それに触発されて本当に猛獣が檻から出てきても困りますので、荒れ狂う赤木君を制止し、まるで彼を引きずるようにしてその場を離れるのでした。

そして、その日の夜。

僕は家の二階で弟と一緒に寝ていたのですが、けたたましく鳴るサイレンの音で目が覚めました。ウーウーと少し離れた場所で鳴るサイレン、それで目が覚めたのです。

なんだろう?と窓の外を見ると、何やら離れた場所の空が紅く燃えていました。

まさか・・・・。

「火事だ!近所が火事だ!うひょーーー」

なぜだか知らないけど異様に興奮している親父の自転車の後ろにパジャマ姿で乗せられ、火事現場を見に行くと、ゴリ子の家がメラメラと音をたてて燃え盛ってました。

音を立てて崩れるゴリ子の家、焼け焦げた匂い、何台も連なる消防車、そして焼け出されたパジャマ姿のゴリ子ファミリー。その呆然とした顔がなんとも印象的でした。

赤木君が悔し紛れに言った「オマエの家なんか燃えてしまえ!」の捨て台詞。そして本当にその日の夜に燃えてしまったゴリ子の家。僕でなくても誰でも「赤木のヤツ、やりやがったな・・・」と思うはずです。

結局、次の日に学校に行くと、当たり前のことですが、「オマエ、ゴリ子の家に火をつけただろう」と赤木君は皆に詰め寄られていました。不登校だったのに、こういうタイミングの悪い時だけ登校してくる、それが赤木君でした。

それでまあ、どんなに赤木君が弁明しても皆の追及の手は緩みませんでした。

「てめえが火をつけたんだろ!」

「そんなことしないよ!だって僕・・・ゴリ子のこと好きだもん」

とか、赤木君のとんでもないカミングアウトが飛び出し、もうみんな「赤木が火をつけたのか」とかいう議題よりも、「あんなに虐められてるのにゴリ子のことが好きなのか、ありえない」というスキャンダラスな方面に話題がシフトしていきました。

結局、その後の調査で火事の原因はゴリ子のお母さんが夜中なのにテンプラ揚げようとして燃え上がったということが分かり、赤木君放火魔説は否定されたわけですが、オーディエンスにとってそんなことはどうでもいい話題に成り下がってました。

赤木が「燃えろ」と言ったその夜に本当に家が燃えた、なんていう天文学的な確率の下で成り立っている奇跡の偶然なんかどうでもよく、

「赤木とゴリ子はデキている」

そんな噂だけが子供達の間を駆け巡ったのです。

僕は未だに、ゴリ子のようなムキムキな女性(B子)を見ると思い出します。燃え盛る我が家を呆然と見つめるゴリ子の顔を。パジャマ姿で立ちつくし、ゴリ子のススだらけで煌々と炎に照らされた赤黒い顔を思い出すのです。そして、少しだけ心が締め付けられるような、なんとも切ない気持ちになるのです。そして、本気で赤木が放火したと疑っていたあの夜の自分を恥ずかしく思うのです。

毎朝、B子に会うたび、ゴリ子を思い出し、そしてあの日の炎の思い出が蘇ります。

思い出は燻っている焚き火の炎。ちょっとしたキッカケでまたメラメラと燃え上がるのです。毎朝B子を見て、炎の思い出が炎のように蘇るのです。

ちなみにその後、児童会の呼びかけかなんかで「家が燃えたゴリ子さんに募金をしよう!不要な物も寄付しよう」という、僕がその立場だったら「気持ちは嬉しいんだけどちょっとやめてくれないかな、そういうのは」と言いたくなるような途方もない企画が持ち上がり、皆がこぞって不要な品物や小銭を寄付する光景が見られました。

毎朝、下足場のところでゴリ子が箱を持って児童会の面々と立っていました。そこに混じってゴリ子募金を手伝う赤木君の姿が見られ、なんとかまあ、その後は2人仲良くやっていたみたいです。

今頃2人はどうしてるのか。今もどこかで2人仲良く愛の炎を燃やしていたら素敵だね、そんな思いも毎朝繰り返されるのです。B子の顔を見て。


といったことで、このネタはサイトを開設して3週間ぐらいの2001年11月15日に「ゴリ子さん」というタイトルで書かれたネタです。それをもう一度書き直してみました。ええ、大幅に加筆しました。

当時はサイトで思い出話を書くことが初めてで、短い日記を書くことを心がけていたこともあて、今日の日記の1/4くらいの分量でこの事件を書き綴りました。すげえつまらないものに出来上がってて、自分で読んで唖然としました(僕は自分のログを滅多に読みません)。

家庭教師は見たもそうなのですが、この開設当初の時期は僕の思い出話の中でもセンセーショナルさで上位にくるものが登場するのですが、まだまだ文章書きたてで力量不足、全くと言っていいほど魅力を伝えきれていないのです。

でまあ、今でも力量がついたとは思いませんが、それでもさすがに2年以上やってればそれなりに進歩があるだろう、ということで、今のスタイルで書き直してみたわけなのです。

自費出版するNumeri本「ぬめり」ですが、この本では、こういった過去に書いたログを全て書き直しといったレベルで大幅に書き直して収録しています。あと、後日談もついていたりしますので、お暇でしたら是非とも読んで欲しいなあと思うのです。

で原稿は大体出来てたりするのですが、実際のところ何冊刷ればいいのか見当もつきません。おまけにどこで印刷するとかも分かりません。できましたら、「○○冊くらい刷っても大丈夫だと思いますよ」とか「ここの印刷所が安いよ」とか教えていただけると有難いです。よろしくおねがいします。

まあ、勢いに乗ってすげえ印刷して、すっごく売れ残るってのもアリと言えばアリですが。

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