幸せ家族計画

幸せ家族計画

Date: 2003/12/11

「私たち、結婚しました」

結婚したことを報告する結婚報告ハガキが僕の元に届きました。

冒頭の文章と共に、披露宴の時の写真でしょうか、仲良く寄り添う二人の写真がハガキの裏に印刷されていました。

幸せそうな新婦に幸せそうな新郎の顔、少しドレスアップした2人は恥ずかしそうに、それでいて満面の笑みで写っていました。これから始まる結婚生活に対する期待、漠然とした不安、それでいて安らぐ何か、そういうのが詰まっている素敵な写真でした。

「私たち、これからずっと2人で歩いていくんです。苦しいことや悲しいこと、いっぱいあるだろうけど、それでも歩いていくんです、ずっと2人で。」そう声高らかに宣言するその写真は、なんだかとっても素敵なものに見えました。

「ははは、アイツら、結婚したのか。こりゃ目出度い目出度い。絶対に幸せになって欲しいな」

郵便受けの前でそのハガキを読み更けていた僕は、なんだかすごく優しい気持ちになれたような気がしました。

人が人を心の底から祝っている瞬間、それはこの世のどんな時間よりも優しい時間だと思います。何の打算もなく、駆け引きもなく、掛け値なしに諸手を挙げて誰かを祝う瞬間、それってすごく大切で、失くしてはいけない最後の優しさなのだと思います。

「ははは、俺にも誰かを祝う優しい心があったわけか」

自分の中の人間臭い心に気がつきつつ、少し照れ笑いしながら、そのハガキを眺め、アパートの階段を昇る僕。

「私たち、結婚しました。

        平成十五年十二月○○日
        広島県広島市○○区○○
           大田原 義文
               奈央子(旧姓 石川)」

写真の横には、綺麗にプリントされた活字で上のように書かれていました。そして、その横には頭の悪そうな手書きの丸文字で

「また新居に遊びに来てくださいね。二人で待ってます!」

と、書かれていました。

新婚夫婦の新居に遊びに行く。それは非常に甘美で魅惑の情事。なんというか、この言葉の響きだけでご飯三杯くらいはいけそうな気がしてきます。

2人だけの新生活、そこにはお揃いのスリッパやらコップがチョコンと並んでいるはずです。そして、家の中には2人で選んだ家具がシックなまでの装いで並んでいるはずです。

「わたし、結婚したら新居に部屋に観葉植物とか置きたいな」

「おいおい~大丈夫か~、奈央子はズボラだからな~。枯らすなよ~」

部屋の隅にはサンスベリアの鉢が置かれているはずです。

そんな2人だけの愛の巣にお邪魔虫と言わんばかりの勢いで遊びに行く僕。旦那とリビングで酒を酌み交わしながら結婚について取り留めの無い話を。新妻はキッチンでツマミを作りながらそんな僕らの話に耳を傾けているはずです。

「いやー、なかなかいい新居じゃないの」

「まあな、ほとんどローンだからこれからが大変なんだけど」

「これからもバリバリと稼がなきゃだな」

「おれ、家族のために頑張るよ」

「子供とかどうすんの?」

「うん、おいおい頑張っていくよ」

「金かかるぞー」

そんな話をしながら、ビールを注いでは飲み注いでは飲み。新妻の作るツマミが思いのほか美味しく、酒も進む進む。そのうち飲みすぎた旦那はそのままその場で寝込んでしまうのです。

「ありゃりゃ、寝ちゃった。コイツ昔から酒弱かったからなあ・・・。奥さん奥さん!旦那さん寝ちゃったよ!」

「あらら、普段はこんなに飲まないんですけどねぇ・・・」

新妻はエプロン姿で困った顔をしながら、寝込んだ旦那に布団をかけます。なかなか旦那思いの新妻でいいなあ・・・と思いながらその光景を眺めていると、新妻が僕の横にやってきて耳元で囁くのです。

「patoさん、今日は泊まっていってくださいね、むふん」

少しだけ肩をはだけさせながら、濡れた瞳で迫り来る新妻。ふっと耳に息を吹きかけてきます。

「ちょ、ちょっと、奥さん。ダメですよ。アナタ新婚じゃないですか」

「旦那も寝てるし大丈夫よ。あの人のセックスじゃ物足りないの。それにわたし・・・前からpatoさんのこと・・・」

「奥さん!」ガバッ

理性という名の弦が事切れてしまった僕ら2人は、旦那が寝ているその横でまぐわうのです。新婚の新居で、旦那が寝ている横で、新妻を、エプロン姿の新妻を!徹底的に辱めるのです!

徹底的に乱れる2人、それでも起きない旦那。そのスリルが布袋以上に興奮を与え、テーブルの上のコップが倒れようが構わず絡み合う。部屋の隅のサンスベリアの葉だけが二人のリズムに合わせるように揺れているのです。

うおー、興奮するなあ。すげえなあ、新婚の新居に遊びに行くって。下手なエロマンガより興奮するじゃないか。と、妄想と性欲を大爆発させて興奮するのですが、ここで得も知れぬ漠然とした違和感に気がつくのです。

はて?新居に遊びに行く?

なんだか途方も無い違和感を感じました。なんというか、なんで今までこんなことに気がつかなかったのだろう、というくらいに自然すぎて気がつかなかったのですが、明らかにおかしいのです。

いやな、新居になぞ遊びに行ったことない。

よくよく考えてみると、僕はここ最近、誰かの新居に遊びに行ったという記憶はございません。しかも新婚さんの家とかにお邪魔した記憶など毛頭御座いません。なのに、ハガキには「また新居に遊びに来てくださいね」と書かれています。

おかしい、何かがおかしい。

漠然とした不安を感じつつ、もう一度送られてきた結婚報告ハガキを凝視します。そして、そこで僕は途方も無い事実に気がついてしまったのです。

結婚報告ハガキの裏面にプリントされた幸せそうな2人の写真。タキシードを着た新郎は少し固い表情をしながらも、それでも精一杯の微笑で笑いかけています。その新郎の顔を見て気がついてしまったのです。

・・・・・誰だコイツ?

落ち着いて新婦の方も見てみます。ドレスアップし、少しポッチャリしていますが、なかなかカワイイ顔した新婦。少しおすまし顔でブーケを持って写真に写っています。それを見ながら思います。

・・・・・誰だコイツ?

もうね、2人とも明らかに見知らぬ他人なの。どっからどう見ても僕のこれまでの人生で関わったこと無いような人がモロロンと写ってるの。おまけに、よくよく考えてみるとこんな名前した知り合いなんているはずが無い。間違いなく100%見知らぬ他人。

おいおい、なんで見知らぬ他人から結婚報告ハガキが来てるんだよ!とか震える手ではがきの表を見るのですが、そこには見知らぬ男性の名前が宛名として書かれていました。

住所だけは僕と同じなのですが、名前だけが見たこと無い男の名前になってました。きっと、僕の前にこの部屋に住んでいた人物宛に届いたのだろうと思います。僕がこの部屋に住んでもう7年になるのですが、それでも前の住人の手紙が届いたのだとお思います。というか、そう思いたい。

全く見ず知らずの人間の結婚報告ハガキを受け取り、「ははは、アイツら、結婚したのか。こりゃ目出度い目出度い。絶対に幸せになって欲しいな」とか呟いた自分のいい加減さを呪いました。さらに良からぬ妄想まで爆発していた自分を恥ずかしいと思いました。

とりあえず、「新居に遊びに来てくださいね」とか住所と共に記載されてましたので、ちょっと遊びに行ってみようかななどとおもう次第なのです。結婚祝いにサンスベリアの鉢でも持って。

ということで、これも何かの縁だと思います。とにかく結婚おめでとうございます。>見知らぬ2人

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