カサンドラ

カサンドラ

Date: 2003/11/17

学生時代、僕はあるパチンコ屋でアルバイトをしていました。

駅前の小さな小さなボッタクリ店、店も汚く、置いてある台も汚く古い、もちろん出るはずもなく、客の尻の毛まで抜き取るほどにボッタくる途方もない店でした。

そこにはスキンヘッドの鬼のような店長がおり、僕らバイトの仕事ぶりが悪いと狂ったように暴力をふるってきました。バイトなんて使い捨ての駒でしかなく、とにかくクレイジーにこき使われました。圧倒的な恐怖支配で、とにかく店長が怖かった。

そんな鬼店長でしたが、本当にごく稀に酒を飲みに連れて行ってくれることがありました。店の近くにある居酒屋にバイト店員全員を連れて行ってくれて、

「好きな物喰え、俺の奢りだ」

などと大盤振る舞いしてくれたりしたものです。オマケにほろ酔い気分で機嫌がいいのか、

「お前らバイトだって店をしょって立ってるんだ。店を良くするために気がついたことなんかあったら気兼ねなく言ってくれ」

などと、普段の鬼無双ぶりからは考えられない理解ある発言をしていました。で、それを真に受けちゃったバイトの一人が本当に気兼ねなく

「やっぱクレーンつけなきゃダメっすよ、今時シャコシャコと手で球を入れてるのなんてウチだけですもん」

(クレーンというのは、球貸し器と台とを繋ぐものです。今でこそ台横の球貸し器にお金を入れれば自動で台に球が供給されますが、当時はかシャコシャコと両手で球を受け止めて自分で台に入れていました。)

と発言したところ、

「テメエ!バイトの分際で偉そうに何言ってんだ!全台にクレーンつけるだけで何百万円かかると思ってんだ!若造がさえずるな!」

などと、スキンヘッドを真っ赤に紅潮させて怒り狂ってました。発言したバイトの頭部をビール瓶で殴打しかねない勢いで怒り狂ってました。さっきまで「気兼ねなく何でも言ってくれや」と言っていた人と同一人物とは思えない、そんな豹変ぶりでした。

とにかくこのスキンヘッド店長は途方もないお方で、普通の店なら「お客様第一」「お客様は神様です」「礼儀正しくお客様に接しましょう」といった客商売なら当たり前の営業方針だと思うのですが、ウチの店長だけは異なっていました。

「喧嘩上等!やったるで」「客なんてカス」「客ともめたらネクタイ外して表に連れ出せ」。頑固な親父がやってる小料理屋じゃあるまいし、今時こんな営業方針でやってるパチンコ屋なんてないはずです。

それでまあ、やっぱりこう言ってはなんですけど、パチンコ屋のお客さんって気性が荒い人が多いではないですか。日々ギャンブルにのめり込み、表情までもが地獄の番人みたいになっている人が多いではないですか。パチンコ屋の客ってすごく気性が荒いんですよね。

で、そういう人がちょっと出ないだとか、ウンともスンとも言わずに数万円負けたとかになってくると、狂ったように台を叩き始めるんですよ。自分の思い通りにならないと台に当り散らす。大当たりを出すならいいのですが、台に当たるのは頂けません。

そうういえば、僕が小学生の頃なんですが、友人の竹下君はマリオが死ぬたびにファミコン本体に当り散らしてました。思い通りに行かないと本体に当り散らし、コントローラーのコードを持ってちぎっては投げちぎっては投げ。ファミコンが亡き者になるまでヒステリックに当り散らしてました。

結局、思い通りにならずに台に当り散らす人って小学生レベルなんですよね。台を叩いたって出るようになるわけでもないし、カッとなる感情のままに行動するなんて愚かなことです。

でまあ、上記のような鬼の営業方針を掲げている店長でしたから、そんな風にしえ台に当り散らしている客を見つけたときのスキンヘッド店長の対応はすごかった。

「全然でねえじゃねえか!」バシン!バシン!

怒りに身を任せ、台を殴打する客を捕まえては、首根っこをキャプチャーして店の裏へ。スキンヘッドに血管を浮き出させて怒り狂い、頭部全体がチンポみたいになりながら店の裏へ。で、客が叩いていた台以上にボッコンボッコンにしてましたからね。もう見るも無残な、再起不能一歩手前くらいまで客のことぶん殴っていましたからね。どういう客商売ですか、ここは。

しかも、店全体でそういう営業方針なもんですから、「マナーの悪い客をしばき倒したヤツは5000円ボーナス」とかいう訳の分からない功労賞みたいな給料が設定されたもんですから、功名心に駆られた若いバイトなどはこぞってマナーの悪い客を店の裏に連れて行ってました。

まあ、たまにボクサー崩れみたいなストロングな客がいたりなんかして、バイトのほうが返り討ちにあったりすることもあるのですが、そういう時は数人のバイトで手分けして客を殴打し、報酬の5000円は山分け、なんてこともやってました。どういう客商売ですか、ここは。

そんなこんなで、僕は未だにパチンコやスロットを嗜み、暇な時はパチンコ屋に行ったりします。けれども、バイト時代の修羅場経験が脳裏をよぎるのか、どうしてもパチンコ屋ではマナー良くなってしまうのです。下手したら裏に連れて行かれてボコボコにされるんじゃないか。無礼な振る舞いは店員の怒りに火をつけるんじゃないか、そう思うと怖くて怖くて、ついつい低姿勢で非常にマナーの良い客になってしまうのです。うん、子犬みたいに小さくなりながらパチンコやってるからな。

そんなpatoさんですが、最近はパチンコではなくてコインでプレイするスロットルにご執心でして、分からない人には全然分からないだろうけど「スパーブラックジャックST777」だとか「吉宗」あたりを狂ったように打ってるんです。

僕が通ってる店ってのが最近できたばかりの綺麗な店で、店員さんとかも礼儀正しくていつもニコニコ良い感じ、オマケに女店員がカワイイし、露出の多い制服だしってんで通ってるんですよ。ホント、僕がバイトしてた○○会館とかいうウンコみたいなバイオレンスパチンコ屋とは月とすっぽんみたいな好印象のパチンコ屋。

そんな店に待望の新台スロット「北斗の拳」が導入されたのです。

僕らが少年時代、週刊少年ジャンプに連載され、一世を風靡した漫画「北斗の拳」。それがスロット台にて完全に再現されたのです。

スロット台上部に設置された液晶画面によって多彩な演出が行われ、しかも「北斗の拳」原作を忠実に再現した内容ときてるもんですから、とにかく感動。

アタタタタタタタタタ!アタッ!と北斗百烈拳でケンシロウが敵を倒したらボーナス確定だとか、ラオウが出てきたらボーナスだとか、とにかく北斗の拳ファンを泣かせる演出の数々。

僕もまあ、北斗の拳ファンの端くれとして涙流しながらそれらの演出を見てたのです。そしたらアンタ、ボーナス絵柄みたいなのが揃っちゃってイキナリにジャラジャラとコインが出始めちゃったんですよ。

画面ではケンシロウとラオウの死闘が始まり、なんかボーナスがムチャクチャ連荘するんです。2連3連・・・・10連11連。12連荘目に突如音楽が変わり、アニメ版北斗の拳のオープニングテーマ「愛をとりもどせ」(クリスタルキング)が流れました。もう、感動して涙を流しながらスロットを打っておりました。

この店は「北斗の拳」を十数台ぐらい置いているんですが、そのスペースだけは少年時代に北斗の拳に燃えたサムライどもが狂ったように打ってるんですよね。それで、狂ったように金をつぎ込み、在りし日の名場面を見て涙する。そんな鉄火場みたいな雰囲気が流れて、鬼の哭く街カサンドラみたいになてるんです。

結局、僕の台は42連荘くらいして、7000枚(金に換算すると14万円くらいです)くらい出たんですけど、最後はケンシロウがラオウを倒して「我が生涯に一片の悔いなし!」(チュドーン)とか、漫画版と変わらないエンディングが流れました。これにもまた感動。スロット打ちながら震えてた。

でまあ、僕は山ほどコインが出て、これで自費出版する費用を捻出できたぜ!ありがとうケンシロウ!さらばラオウ!などとホクホク顔で喜んでいたのですが、なんか隣の台に座ってたお兄ちゃんの様子が変なんです。

お兄ちゃんは僕が出してる横で鬼のように出てなくて、狂ったように金をつぎ込み、狂ったように千円札を突っ込み、夏目漱石の大量虐殺みたいな状態になってました。なんだかんだで8万円くらい負けてたみたいなんですが、あまりに出ない台に何かが壊れてしまったのか、心が折れてしまったのか、あるいは隣の台が狂ったように出してて気が触れたのか、突如大声で叫びだしたのです。

「グルアアアアアア!全然でねえじゃねえかあああああああ!」

と、大声で叫びだしたかと思うと、彼がちょっとだけ持ってたなけなしのコインを周囲にぶちまけ、狂ったように台を殴打。普通は店員にバレないように一発だけ強く殴打するのですが、そのお兄ちゃんはとにかく連打。よほど腹がたったのか狂ったように台を殴打。

僕はその光景を真横で見ながら、「ほ・・・北斗百烈拳や・・・」と、ポカーンと口を開けながら見てました。

結局、その異様な光景を察知した店員数名が大車輪の勢いで飛んできて、お兄ちゃんは羽交い絞めにされて店の奥へと連行されていきました。いつもは優しそうな店員さんたちが鬼のような形相になってた。やっぱ台を叩くのってどこのパチンコ屋でもご法度なんだよな。

連行されたお兄ちゃんがどんな仕打ちを受けたのか知りませんが、一時間後ぐらいに開放されて帰ってきたお兄ちゃんは顔をボコボコに腫らしてました。しかも半泣きになりながらさっきまで百烈拳叩き込んでいた台を綺麗に磨かされてました。涙と鼻水を垂らしながら。

ニコニコした店員ばかりですごく感じのいい店なのに、やっぱマナーが悪いと途方もない仕打ちにあうんだな。きっと、店の裏には世紀末覇者みたいな武闘派の店員が待ち構えていて、ボッコンボッコンにやられるに違いない。

最近は、パチンコ屋などは綺麗でファッショナブルになりつつあり、ケバケバしいネオンを掲げたパチンコ屋は少なくなりつつあります。女性や若い人が入りやすいようなイメージを作り上げ、敷居が低くなっているような気もしますが、パチンコなんてのはどう転んでもギャンブルです。博打なんです。

どんなに着飾ってみても根底にあるものは変わりません。どんなに感じの良い店でも裏には世紀末覇者が控えているのです。そこには徹底したバイオレンスな雰囲気が流れている、マナーから逸脱すればきっと殺られる。そんな物なのです。

やっぱパチンコ屋は怖い場所だ、これからもマナーを守って控えめに、小さくなりながらプレイしよう。泣きながら台を磨く青年を見てそう感じました。

ちなみに打ってた「北斗の拳」の液晶画面で、押し順予告で出てくるモヒカンの敵がいるんですけど、それの第二停止のヤツがバイト時代のスキンヘッド店長に似てて、懐かしいやら怖いやら複雑な気分でした。

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