死国

死国

Date: 2003/08/21

この間、近所のレンタルビデオ店にエロビデオを借りに行ったんですよ。昼間っから。

東証平均株価が1万円の大台を突破し、日本国の経済人どもは活発な経済活動をしているというのに、皆は一生懸命働いているというのに、ウィークディの昼間っからエロビデオですからね。親が見たらさぞかし嘆くだろうと思います。

やっぱ僕としては生粋のエロビデオマニアじゃないですか。三度の飯よりエロビデオ、若い女性従業員がエロビデオのバーコード読み込んでるだけで興奮する性質ではないですか。将来はマイホームの一室にエロビデオコーナーを設けたいと思ってるじゃないですか。

だからもう、我慢しきれなくなって大車輪の勢いでエロビデオコーナーへと足を運んだのです。

僕としては、自分はこのビデオ店のエロビコーナーのヌシであるという確信がありますから、それはもう至極当然、呼吸よりも当たり前にエロビコーナーに一直線だったのです。

いつもの経験からいきますと、昼間という時間帯は大抵はエロビデオコーナーに人などおりません。やっぱ昼間からエロビデオってちょっと背徳感、借りられないわっていう心理が働くみたいです。お日様が見ている時間帯に猥褻なビデオなんて借りられないという、クズ人間どもの一欠けらの良心が見え隠れするようで面白い。

そんなこんなで、昼間の時間帯のエロビデオコーナーってのは実は穴場でして、誰もいない空間で気兼ねすることなくエロビデオを選定できたりするんです。気分はさながら貸し切り状態。この数千本のエロビデオが全てオレのもの、AV女優はオレの女、と錯覚させてくれるのです。

特に、僕のようなプロエロビプレーヤーともなりますと、やはり他のプレーヤーのマークが厳しい。深夜の時間帯など多数のサムライがエロビデオコーナーにひしめいている状態では、なかなか思うように選定できないのが現状なのですよ。

やっぱ、どのプレイヤーでも、最初にスキルの高いプレーヤーを妨害しようという心理が働きますから、みながこぞって僕の妨害にはしるわけ。それはもう見るも無残なマークに苦しめられるんですよ。

僕が選定しているエロビデオ棚の前にワザと立って、僕が選定するのを邪魔する「死のカーテン」をはじめ、借りるつもりもないのに目ぼしい作品を一気にキープしてしまう「ゾーンディフェンス」。反則すれすれのタックルで僕がキープしたビデオを奪うやつまでいますからね。ホント、気分はエース級のピッチャーばかりぶつけられる巨人軍のような感じです。

でもまあ、そういった厳しいマークをかいくぐり、皆に狙われるというハンディキャップを背負ってでも満足いくエロビを借りる、それが僕がプロプレイヤーと言われる所以なのですけどね。でもやっぱ、そういう骨肉の争いって疲れるじゃないですか。他のプレイヤーを信じられず、人間不信にもなるじゃないですか。

そうなってくると、僕はこうして昼間のエロビコーナーに足を運ぶんですよ。群雄割拠、人の足を引っ張ることしか考えられないエロビデオ争奪戦に疲れ、誰もいない昼間のエロビデオコーナーに自らを癒しに行くのです。自分はプロプレイヤーで他のプレイヤーに負けるわけにはいかない、っていうプレッシャーから開放される瞬間でもありますね。

そんなこんなで、己を癒すため、また明日から険しいエロビ争奪戦に臨むための活力を手に入れるため、その日も僕は誰もいないエロビデオコーナーに足を運んだのです。

さあ、誰もいない俺だけのエロビデオコーナー。まさに俺だけの性の解放区。命の洗濯と言わんばかりに、思う存分ゆっくりとエロビデオを選ぼうじゃないか。満面の笑みでエロビデオコーナーに一歩足を踏み入れた、その瞬間でした。そこには衝撃的光景が。

いや、すげえでけえ外人さんがいるの。

このエロビデオコーナー、入り口付近には洋物ポルノを集めた洋物コーナーがあるのだけど、その棚の前にすげえナイスミドルな外人さんがいるの。外人さんって体でかいのな、僕の二倍はありそうな大男が棚のすげえ下のほうをしゃがみ込んで物色してるの。

誰もいないと思っていた僕は、人がいたというだけでもビックリなのに、それが外人さんだったということで二重のビックリ。驚きのあまり「Wow!」とか少し外人風に言ってたものな。

やっぱナイスミドルの外国人といえどもエロビデオを見たくなんるんだろうな。遠く離れた異国、日本に来てもエロだけは忘れられないんだろうな。しかも、見てるのは洋物ポルノ。やっぱ外国人だから、見るエロビは洋物がいいんだろうな。

と妙に納得しつつその外国人を観察しておりましたところ、その外国人、パッケージの裏を熟読して選定を始めやがったのですよ。それも数本のエロビデオを手に取り、見比べるようにしてパッケージ裏を熟読してるの。たぶんこの外国人、本国ではさぞかし名のあるエロビプレイヤーなのだと思います。

こりゃあ、俺も日本代表として負けてられないな。普段の戦いを忘れ、自分を癒すために昼間のエロビデオコーナーに来たというのに、ひょんなことから世界を相手に戦うことになった僕。エロビデオの神様はどうあっても僕を戦わせるつもりなのかもしれません。

そんなこんなで、片田舎の片隅で、こんな場末のビデオ屋の、さらに隠すようにして設置されているエロビデオコーナーでワールドクラスの戦いが展開されている。激しい火花散らして僕が世界と戦っていたとは誰も夢に思うまい。

で、僕はその外国人プレイヤーの動きをマークしつつ、「奥さんアナルです」シリーズだとか「義母が超巨乳で我慢できない!7」だとかを物色していたのですが、ちょっと目を離した隙に外国人の姿が見当たらない。忽然と、煙のように洋物コーナーから姿を消しているんです。

まずい。これは新手のフォーメーションの前兆か。油断も隙もない。やっぱ世界はでかいぜ!どんな攻撃が繰り出されるんだ。などと警戒心をたかめておりましたところ。

「vdnuirfnvinvdir fuck dfjilneivip ?」(なんて言ってるのかわからない)

僕の真横に外国人が立ち、なにやら英語で話しかけてきてるんですよ。洋物のエロビデオ片手に、それを指差しながら意味不明のことを喋っているんです。

僕は英語とか全然分からないのですが、かろうじて「fuck」だけは聞き取れ、さらに語尾が上がっていて疑問文っぽかったので、「これにはfuckが収録されているのか?」と質問しているのだろうと判断。そのビデオに収録されている内容は良く分からないのですが

「Yes!Yes! Many fucks! a lot of fucks!」

とか、ものすごく怪しげな英語で答えておきました。すげえ焦った。

これまでに数多くのエロビプレイヤーと対戦してきましたが、それは無言の戦いです。無言のまま激しい火花を散らしあう、それがエロビバトルなんです。戦いながら言葉をかわすなんてこと、普通は有り得ない。

けれども、この外国人は話しかけてきた。それも英語で。やっぱワールドクラスの実力はすごいぜ、日本では考えもつかないような攻撃を繰り出してくる。ホント、世界の力はあなどれない。

僕の中学生より怪しい英語が通じたのか分かりませんが、外国人プレイヤーは

「サンキュー」

とだけ言うと、そのビデオを片手に去っていきました。

そこで思ったのですよ。僕は彼のことを、本国ではさぞかし名のあるエロビプレイヤーであるなんて断定していたけど、単に彼はエロビ素人だったのじゃないかと。じゃなきゃ戦場で敵に話しかけるなんて考えられない。

遠い異国、日本に来て日々の生活を営む中で、彼は寂しかったのですよ。自国の女性が全くいない中、彼は孤独感にさいなまれていたのでしょう。そして、洋物エロビデオに手を出そうと考えた。

自分はそんなポルノを借りたことなんてなかった。幼い頃から生真面目ボブとして周囲の尊敬の対象とされていた、ポルノを借りるなんて考えられなかった。

けれども、もう限界だった。自国の女性の裸を見たい。ブロンドを振り乱し、必死でまぐわう女性を見たい。死にたいほど屈辱的だけど、もうこれはエロビデオを借りに行くしかない。

お、初めて来たけど、日本のビデオ屋にも洋物ポルノは山ほどあるじゃないか。これを借りれば心行くまで本国の女性を、エロスなパツキンを見ることができる。エクセレントじゃないか。

まてよ・・・?でもこれって、本当にfuckが収録されているのか?パッケージを見てもよくわからないじゃないか。落ち着け落ち着けボブ。ここまできてfuckが収録されていないビデオを借りるほどバカなことはない。よし、あそこでビデオを見ている詳しそうなジャップに聞いてみようじゃないか。死にたいほど恥ずかしいけど、エロスには変えられん。黄色い猿に屈するほど屈辱的なことはないけど、エロスには変えられん。

そんなこんなで、必死に勇気を振り絞って話しかけてきたのではないでしょうか。エロビデオ片手に去り行く外人さんの後姿がものすごく寂しそうだったもの。

遠い異国、いくらエロスに飢えていたとはいえ、逆の立場だったら僕は同じように出来る自信がありません。敵ながらアッパレ。もっと優しく協力してあげるべきだった。と思ったのでした。

エロスに国境はない。人種も肌の色も関係ない。戦勝国も敗戦国も関係ない。そう、僕らはエロスに魅せられる一人間として同列なのだ。争いごとなんてやめて、もっと協力し合ってエロビを選定する、そうするべきじゃないだろうか。

エロビを巡る日々の戦いに疲れていた僕は、この外人さんにかけがえのない大切なことを教えてもらった、そんな気がした。争ってばかりでは何も生まれない、明日からは協力して、助け合ってエロビを選んでいこう、そう決心するのだった。

ちなみに外人さんが大切な宝物のように手に持って去っていったエロビデオ、「チャーリーズ・マンジェル」(18歳未満クリック禁止)という洋物パロディだった。

洋物パロディ作品にも確かにファックは収録されているのだけど、抜ける作品は数少ない。やはりパロディ物の宿命か、作品のクオリティは一様に低いのが現状だ。

去り行く外国人プレイヤーに

「それにはファックは収録されてるけど、あまり抜ける作品ではないよ」

と協力心いっぱいに忠告しようと考えたのだが、英語で「抜ける」ってなんていうのか分からないので忠告できなかった。

何にせよ、も少し英語を勉強しようと思った。

町の片隅のビデオショップ。その片隅のエロビデオコーナーに少しだけメジャーの香りがしていた。

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