MM1

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Date: 2003/08/07

人は誰しも、少なからず選民思想を持っているものではないだろうか。「選民思想」なんて言ってしまうと大きな誤解を招くし、誤用も甚だしいので別の言葉に言い換える。つまり、人は誰も少なからず「自分だけは特別」と思い込んでいるのではないだろうか。

年間何万人もガンでこの世を去っているというのに、心のどこかで自分はガンにならないんじゃないか。って思っている。

年間何万人も交通事故でこの世を去っているのに、自分だけは交通事故なんかあわないんじゃないか、って心のどこかで思っている。

多くの男性が、通勤電車内の痴漢冤罪の被害に遭っていると言うのに、自分だけは大丈夫だと思っている。

確かに、健康診断を受けたり安全運転を心がけたりしてそれらに警戒はしているものの、心の奥底では「自分は大丈夫だろ」って思っている自分がいる。そんな気がする。

本当は、明日にでも末期ガンを患っていることが判明してもおかしくないし、2秒後にブレーキの壊れたダンプカーに轢き殺されていてもおかしくない。「この人痴漢です!」と気の強そうな姉ちゃんに満員電車で右腕を掴まれていてもおかしくない。

なのにやっぱり心のどこかで、「多分大丈夫だろうなあ」って思っている自分がいる。自分だけはそんな不幸な目にあわない、選ばれた民であるって思ってるみたい。

こういった、ちょっとだけ自分は特別っていう意味での選民思想は少なからず誰もが持っているものと予想するが、僕の場合は特にそれが顕著に現われている。

場面場面において、「俺様は特別、他の連中はクズ」という思想が如実に現われてしまう。本当に良くない、驕り高ぶったバカみたいな思想だって分かっているけど、そう思ってしまうことはやめられない。

一般的な場面においては、謙虚で自分の分をわきまえた人間ではあると思うのだけど、こと車の運転に関しては驕り高ぶった思想が見え隠れしてしまう。さっきも交通事故の話が出たけど、まさにソレで、車の運転に関しては「自分だけは特別」なんていう途方もない思想が随所に現われる。

例えば、道路における速度制限。日本国内の道路全てが速度制限を設けており、一般道路で法定速度60 km/h、高速道路で100 km/hの制限となっている。後は道路状況に応じてその都度、それ以下の制限が設けられている。

「自分だけは特別」なんていうバカげた思想を持つ僕は、この速度制限が納得いかない。

どういうわけか知らないけど、僕は自分の運転テクニックを過信しすぎてしまっている感があり、60km/hなんていうトロい速度制限がなんとも納得行かないのだ。

きっと、この速度制限はトロい愚民どもに合わせて設けられているに違いない。僕ほどの運転スキルを持ち合わせる人間なら、たとえ一般道を80 km/hで走行しようともさして危険ではないんじゃないだろうか。高速道路を100 km/hなんていわず、140 km/hで走ってもそんなに危険ではないんじゃないだろうか。

いやいや、確かに危険であることは確かなんだろうけど、愚民どもに対して60 km/hの制限なら、僕だけ80 km/hの制限でも危険度はそんなに変わらないんじゃないだろうか。それだけ僕は運転スキルが高いような気がする。

なんて危険極まりない思想を心のどこかに抱いていたりする。運動神経の鈍い愚民は60km/h、運転スキルの高い僕は 80km/h。ホント、自分だけ特別って思うのにも程がある。こんな驕り高ぶった思想を持ってるといつか大怪我するぞ、危惧していたのだが、それでもやっぱり「自分は特別」という思いは止められなかった。

そして事件は起こった。

この間の日曜日。片側二車線の広い広い4車線国道を午後8時ごろに走行している時だった。なにか、先のほうで花火大会が催されているらしく、遠くの方で綺麗な花火が空を焦がしているのが見えていた。

「綺麗だな」

などと思ったのはいいものの、花火大会に向かう人々の車だろうか、いつもはガラガラの道路がいつになく混み合っていた。

渋滞とまでは行かないものの、なんとなく車の流れが悪く、普段は物凄いスピードを出せる直線も車が詰まっていて思うように進めない状態だった。

「ちっ、愚民どもが」

早く目的地に到着したかった僕は焦っていた。それよりなにより、運転スキルの低い愚民どもに阻まれ、自分が思うようにスピードを出せないことに苛立っていた。

普通、片側二車線の道路というのは、遅い車が左側を走行し、早い車が右車線を使って抜いていく、そうやって流れが良くなるように出来ているものと思うのだが、なぜだかトロい車ほど右車線を走りたがりやがる。右と左に遅い車が並んで走り、後続の車の行く手を阻む死のブロックが形成されることも多々ある。

この時も、左車線をファニーな軽自動車がトロトロ走り、その真横の右車線をネギを積んだ軽トラックがトロトロと走っていた。60km/h制限の道路をその二台が40 km/hほどで車線を塞ぎながら走ってるものだから、その後ろには何台か車が詰まっていた。

僕もその軽自動車と軽トラックのトロトロ運転に行く手を阻まれた一人で、なんともイライラしながら、「遅いんだよ、愚民どもが!」などと危ない人のように奇声を発しながら運転していた。ホント、なんで運転ともなるとここまで驕り高ぶってしまうのだろう。ハンドルを握ると人格が変わる人みたいだ。

なんとか先に進めないものか、こんな愚民どもに合わせて走るなんてやってられるか。僕はもっとスピードを出しても大丈夫なんだ。早く先に行かせろ、先に行かせろ。などとブツブツブツブツ。

その瞬間だった。

サッと、行く手を阻んでいた軽自動車と軽トラックの間隔があいたのだ。軽自動車がさらにスピードを落としたため、並行して走っていた二台の間が車一台分開いた。

チャンス!

選ばれた民であるところ僕は、この隙を一切見逃さず、猛然と車を加速させた。そして、二台の後ろでトロトロと走っていた車をビュンビュンと抜き去ると、そのトロかった二台の車も猛然と抜き去った。

「けっ、愚民どもトロトロと走ってるんじゃねえよ、俺様の運転を見たか」

驕り高ぶり、聞こえるわけもないのに抜き去った車どもに罵声を浴びせる僕。どれどれ、トロい愚民どもの姿でもこのバックミラーで見てやりましょうか、などとチラリとバックミラーを見た。

すると、先ほど抜いたはずの車。軽自動車と軽トラックに行く手を阻まれ、仕方なく後ろをトロトロと走っていた車が、猛スピードで僕に近づいてきている。アッサリとあの二台の車を抜き去り、猛然と僕の車に突進。

「こいつ!愚民のクセに俺に勝負を挑んでいるな。面白い、やったるわー!!」

と更に奇声をあげ、アクセルを踏み込む僕。しかし、後ろから突進して車も負けていない。更にスピードを上げて僕の車に近づくと、突如車の上部とフロント部分に赤いランプが煌きはじめる。攻撃態勢に入った要塞のように赤いランプが輝いている。さらによくよく見てみるとボディは白と黒のツートンカラー。

いや、パトカーやん。モロにパトカーやん。

なんか、「前の車、左側にユックリと停車しなさい」とか放送されちゃってるじゃん。いくら僕が選ばれた民とはいえ、パトカーにキャノンボールを挑むのはやりすぎ。

結局、観念した僕は大人しくお縄を頂戴し、パトカー内へと吸い込まれてお説教されるのでした。

「はい、89キロね。ここは60キロだから、29キロオーバー」

なにやら中央部に設置されたメーターに光り輝く89キロの文字。見紛う事なき89キロの文字。

「はあ、すいません」

「なんでそんなに急いでたの?」

「いや、急いでいたわけじゃ・・・」

「じゃあどうして?」

なんてやり取りがありまして、僕は言ってやったわけなんですよ。自分が選ばれた民であり、機敏で運転スキルを持っている自分は80キロで走っても大丈夫なんじゃないかって。

「60キロ制限ってトロい人用じゃないですか。僕のように運転スキルが高い人は80キロで走っても大丈夫だと思うのですよ!」

とか熱弁ドカベンで主張したら、警察官の人は

「ふーん、よかったね。はい、違反切符。ここに署名して」

と極めて冷徹に言われました。クールに言い放ちながら青い違反切符を渡してくれました。そして、その後はいかに僕の思想が驕り高ぶった危険な思想であるのか熱心に説教してくれまして、目頭の熱くなる涙の事情聴取でした。

やはり、どんな場面においても「自分だけは特別」なんて過信してはいけないことなんだと思います。僕の考えは大幅に間違っていたことを悟りました。特に車の運転なんてのは自分のスキルを過信していると、とんでもない大事故に発展するものです。

「自分は選ばれた民」、「自分だけは特別」なんていう思想は捨て、何においても常に細心の注意を払いたいものです。ガンにしても交通事故にしても痴漢冤罪にしてもです。

涙のお説教が終わり、改心した僕はやっとこさパトカーから解放されました。そして、去り行くパトカーを見ながら驚愕の事実に気がついたのです。

先日、2日間連続でシートベルト装着義務違反で捕まりました。そして、今回の29キロ速度超過は違反点3点。罰則金18000円。冷静に計算してみると

シートベルト装着義務違反2回

1点×2

2点

29キロ速度超過

3点

3点

計 5点



なんと、交通違反の累積点が5点に。6点溜まると晴れて30日間の免許証停止にご招待ですから、余裕はあと1点。またシートベルト違反で捕まろうものなら楽しい楽しい免停講習にご招待。「MajiでMenteiになる1点前」という驚愕の事実。

でもま、選ばれた民である僕は次も捕まって免停になるなんてヘマはしないだろうな。なんだかんだで踏みとどまるだろうな、何せ自分は特別だし。

去り行くパトカーを見つめながら、またもや驕り高ぶった選民思想が沸きあがっていました。

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