オプティ

オプティ

Date: 2003/07/25

「pato君、免許取ったら車に乗せてね」

そう言った彼女の顔は確かに微笑んでいた。夏の眩しい太陽、燦燦と光り輝く太陽を背に浴びた彼女の顔は、逆光で見えないはずなのに確かに微笑んでいた。

当時18歳だった僕らにとって、車の免許は途方もない武器だった。車は走る凶器だとか言われるけど、青臭く若すぎる僕らにとって、車ではなく免許証自体がリーサルウェポンの如く力強い武器だった。

早生まれで、いち早く18歳となった友人は、速攻で自動車学校に通い、免許を取得していた。親父のディアマンテかなんかを乗り回し、女の子を乗せてデートやらカーセックスやら、まさに酒池肉林の大車輪だった。

自動車免許さえあれば、自動車免許という武器さえ手に入れれば、俺だってドライブデートやらカーセックスやらできるに違いない。18歳の少年という名の大人たちは、誰しもがそう思っていた。

自動車免許取得の境目であるこの年頃において、仲間内の明暗は免許証の有無によってクッキリと分かれていた。そう、まるでシマウマの縞模様のよう艶やかなコントラストを描いていたのだ。いち早く免許を取得した富める者と、免許を取得できない貧しき敗北者、その二つしかなかった。

免許不取得者であった貧しき僕も、当然のことながら奮い立った。僕だって免許さえあればカーセックスができるんだと。ロマンティックな夜景を見て、夜はまだ見ぬ女性器を拝顔できるんだと。そこに冒頭の女性のセリフである。

「pato君、免許取ったら車に乗せてね」

クラスメートの女の子。少しばかり男勝りなところがありながら、それでいて妙に女らしい、なんとも不思議な子だった。クラスのイケメン軍団とは違い、非モテな僕はクラスの女子と会話することすら少なかったが、それでも何故かこの子とはよく会話をし、時にはふざけあったりもしていた。

もしかして、僕らは互いに惹かれ合っていたのかもしれない。いや、少なくとも、僕のほうは間違いなく彼女に対して友人以上の特別な感情を抱いていた。そう、僕は彼女に恋をしていた。

そんな彼女に、「免許取ったら乗せてね」なんて言われたのだ。これはもう、十中八九カーセックスのお誘いであろう。夜景の綺麗な場所でカーセックスしようよ、なんていう遠まわしなセックスアピールに違いないのだ。

その言葉に僕はいきり立った。これはもう、親が死んでも車の免許を取るしかない。邪魔するヤツは2、3人殺してでも免許を取る。僕にはその義務があるんだ。

8月に誕生日を迎えて18歳になるというのに、7月の段階で自動車学校に通い始めるという猛烈な暴挙に出た僕。それほどまでに免許証を欲していた。ドライブデートを欲していた。カーセックスを欲していた。

自動車学校では、仮免検定を3回連続で落ちるというトリッキーな動きを見せたり、増田先生のステーキを死にもの狂いで食べて死にそうになったり(12/28 増田先生のステーキ)と、あり得ないような苦闘をかいくぐってなんとか卒業。

もちろん、免許センターでの試験にも一発で合格し、晴れて黄金色に輝く免許証を手中に収めたのだった。合格が決定した瞬間など、椅子の上に立ち上がってガッツポーズをし、「カーセックス!」と叫ぶほどに舞い上がっていた。

電車を乗り継いで免許センターから帰還した僕は、もう待ちきれずに件の彼女に連絡した。「免許取ったら乗せてね」、そういった彼女に連絡したのだった。約束どおり免許をとったぜ、さあドライブしようぜ、と我慢することを知らない子供みたいな無邪気さで連絡していた。

そんなこんなで、免許を取得したその日の夜に、無謀にも彼女との夜のドライブに出ることを決意する僕。君のために免許取ったんだ、見てごらん夜景が綺麗だよ、ムーディにシートを倒す。彼女は抵抗しない。そして、狂おしいほどにカーセックス!カーセックス!カーセックス!もっかい言うぞ、カーセックス!

「免許取った日に乗るなんて危ない!ダメよ!」

更年期障害の如く怒り狂う母親なぞスルーし、なんとか母親の車のキーを盗み出して深夜に走り出す僕。自由という翼を手に入れた僕は誰に求められない。そう、車に乗って風となり大地を駆け抜けるんだ。そいでもってカーセックス。漆黒の闇の街を免許という武器を手に入れた僕が駆け抜ける。

ちなみに、当時母親が乗っていた車が、ダイハツのオプティとかいう車。ちなみにこんなの。身長188センチの野武士な僕が、こんなファニーな車に乗ってるもんだから客観的に見たら相当面白い絵図だったと思う。なんか、座席を一番後ろに下げても太腿にステアリングが当たってたからな。

でまあ、そんな似合わないほど似合っていないオプティに乗って、約束の彼女を迎えに行く。今日まさに免許取立てで、自動車学校以外で公道を走るのは初めて。なんだか物凄くビクビクしながら安全運転をしたのを今でも覚えている。

待ち合わせ場所で彼女を乗せてからは、なんとか強がって余裕の運転をしているかのように見せかけているのだけど、それでもやっぱり心の中ではビクビクのドライブ。夜の街をあてもなく駆け抜け、免許取たての僕が女の子乗せて秘密のランナウェイ。

「すごーい、なんかpato君が運転してるのって変な感じだね」

「そう?」

「うん、だって運転ってお父さんとかお母さんみたいな大人がするってイメージだもん」

「だよなー、自分で運転しながら自分でも信じられないよ」

「それにこの車、すっごくカワイイ」

「似合わないでしょ、母ちゃんの車をパクってきたから」

たわいもないお喋りをしながら車は進む。やっぱり、自動車学校なんかと違って、車内に音楽をかけ、女の子を乗せながら、好きなように走るドライブは楽しい。心の底から楽しい。

最初の緊張感なんかいつの間にか吹き飛んでしまい、今日免許を取得したばかりのホヤホヤ初心者ドライバーとは思えないほど余裕の運転っぷりだった。

どれくらい走っただろうか。フリーな運転なんて初めての経験で、道を全く知らないものだから、いつのまにかとんでもない場所に来ていた。僕らを乗せたオプティは、どこか遠くの、知らない漁村に辿り着いていた。

深夜の寂れた漁村は、街頭もなくほんのりと暗い。遥か遠く先の水平線上で漁火が勢い良く灯されているだけだった。なんとなく滅び行く小さな漁村のイメージがピッタリくるようなうら寂しい街だった。

「疲れたね、ちょっと休憩しようか」

慣れぬ運転。いきなり初めての運転で当てもなく2時間くらい走行したものだから、すっかり疲れ切っていた僕。やや明るめの場所に適当に停車すると、体を伸ばすために車から降りた。それに追随するように彼女もまた車から降りる。

「なんか涼しいね」

夏真っ盛りであるはずなのに、夜の帳が下りた漁村は心地よい温度で、車内でクーラーを効かせているよりも心地よい涼しさだった。

「なんか、こういうの楽しいよね」

薄明かりを浴びて彼女が微笑む。こんな真夜中に、こんな遠い場所に、全く知らない漁村に僕らはいる。車の免許を取っていなかったら考えられないことだ。好きな時間に、好きな場所に自由に行くことが出来る。気軽に行くことが出来る。やはり車の免許は武器だ。それも絶大で強力無比な最終兵器だ。

そんなことを考えながら、なんとなしにガサガサと駐車していた空き地の茂みを掻き分けて進み始める。なんか、彼女が綺麗な花があるだとかセンチメンタルジャーニーなこと言い出すもんだから、仕方なしに僕も茂みの中へと歩を進める。

「みてみてー、こっちにも綺麗な花があるよー」

月明かりだけしかないような闇夜の中、やぶ蚊などと格闘しつつ茂みを掻き分けていく。そして、背丈ほどあるんじゃなかろうかというほどの雑草を掻き分けて進んだその時だった。

キャーーーー!!

不意に響く彼女の悲鳴。何事かと急いで彼女の方に向かうと、そこでは見知らぬカップルが野外プレイを楽しんでいた。漁村の若者だろうか、やけにヤンキーくさいいでたちのカップルが、下半身だけ露出して必死のプレイ。マグワイヤみたいになってまぐわってた。うん、もう挿入とかされてた。

これにはさすがの僕も彼女もビックリ。それよりなにより、おセックスの現場を見られたヤンキーカップルはもっとビックリ。というか、殺されるかと思った。

「逃げろ!」

あまりに恐ろしげな表情で睨みつけるヤンキー彼氏が怖かったため、生命の危険を感じた僕は一目散に逃げ出した。彼女の手を取り、茂みを掻き分けて一気に車の場所まで戻り、自動車学校で習った安全確認など関係なしに物凄い勢いで走り出した。やはり車は便利だ。逃げるのにも便利に使える。

「すっごくビックリしたね」

そういった彼女はドキドキが止まらないといった、何ともいえない表情をしていた。そして、僕の方も別の意味でドキドキしながら車を運転していた。

逃げる際に握った彼女の白く柔らかい手、そしてヤンキーカップルのおセックスの生々しさ。それらが相まって、僕はとてつもなくドキドキしていた。そして、ドライブデートの楽しさ故に忘れていた、真の命題を思い出す。そう、それはカーセックス。さっきのカップル凄かったね、僕らもどうだい?と、ガクンとシートを倒す。そして、狂おしいほどにカーセックス!カーセックス!カーセックス!もっかい言うぞ、カーセックス!

カーセックスの文字だけが頭の中を躍り、ブツブツと「カーセックス、カーセックス」と呟きながら夜の国道をまた知らぬ方向に走り出す僕らのオプティ。カーラジオからは、江口洋介の「恋をした夜は」が流れていた。

性獣と化したpatoは、カーセックスに成功するのか。そして、patoの恋は実るのか。そして、ありえない事件が!!!。と言ったところで長くなりすぎたのでつづく。

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