オーエス

オーエス

Date: 2003/03/11

「オーエス、オーエス!ホラ、しっかり持たないか!」

上司の怒号がオフィスビルの一角、階段の吹き抜けに響く。僕は上司と共に、3メートル四方、重量50キロはあるだろうかという大きな荷物を運んでいた。

どうしてこういうことになったかというと、なにやら嫌がらせかと思われるほど大きな荷物が我が部署宛に届いたのだけど、運送会社が上階に位置する我がオフィスまで運んでくれない。

仕方ないので自分たちで運び上げようかとも思ったのだけど、あいにく同僚たちは席を外していて僕と上司しかオフィスに居ない。エレベーターで運び上げようとも思ったのだけど、大きすぎてドアを通らない。

このような様々な悪条件が重なり、僕と上司が協力して荷物を運ぶという異様な光景が完成した。上司と力を合わせて力仕事なんて、普通で考えたらありえない。

そこで冒頭の上司の叫び声だ。

上司は、久しぶりの力仕事に異様に盛り上がってしまったのか、部下である僕と共同作業をするのが嬉しかったのか、やけに張り切り満点。見ているこっちがこっぱずかしくなるほど張り切っていた。

「ホレホレ、右に曲がるぞ。オーエス!オーエス!」

階段の踊り場を右に曲がりながら、器用に荷物も傾けていく。

それにしても、さっきから上司が気合を入れるためだか何だか知らないけど多用している「オーエス」とかいう単語。コレは一体なんなんだろうか。「オーエス」なんて単語、久々に聞いた。

なんか、運動会なんかで綱引きをするときなんか、「オーエス、オーエス」と声を出して綱を引っ張ったりする。多分、力を入れるときに発する言葉なのだと思うのだけど、皆目意味が分からない。

「オーエスってなんだろう?」

そう考えながら荷物を運んでる物だから、どうも集中できない。なんだろうなんだろうと気になって気になって満足に運べない。心なしか、一緒に持っている荷物の僕サイドが沈み込んでいる。

「ホレ、ちゃんと持て。オーエス!オーエス!」そんな僕に上司の怒号が浴びせかけられる。もうやめて!頼むからそのオーエスという掛け声をやめて。集中して荷物を持てないじゃない。オーエスってなんやねん、Windowsか?なんて気になって仕方ない。やめて、やめて。

オーエス、オーエス、オーエス、オーエス

そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、いや多分知らないんだろうけど、さらに悪魔の単語「オーエス」を連呼する上司。彼は僕を殺す気に違いない。

でもね気が付いたのですよ。オウムのようにバカの一つ覚えで「オーエス」を連呼する上司。その言葉を聴いて物凄いことに気が付いたのです。多分、上司がバカみたいに連呼しなきゃ気が付かなかったんじゃないかな。

このオーエスという掛け声。力を入れるときに発する気合の掛け声なんかじゃなくて、実は助けを求める情けない掛け声なんじゃないかって気が付いたのです。

オーエス、オーエス、オーエス、オーエス

続けざまに連呼されると初めて気が付くことがある。そう、言葉を切る場所を変えてみると、

オー、エスオーエス、オー、エスオーエス

と聞こえるではないですか。そう、「Oh !SOS !」とか連呼しているように聞こえるのですよ。「助けて!助けて!ああああ」とか叫んでいるように聞こえる。

上司は気合を入れて、「よーし、この荷物運んじゃうぞー!」と掛け声を発しているのに、それが実は「助けて!助けて!」という掛け声だったなんて。もう笑いが止まらない。

「オーエス!オーエス!頑張れー、もうちょいだぞー!」

やめて、笑いが止まらない。頼むからそのオーエスっていう掛け声をやめて。僕を笑い殺す気ですか。

それでまあ、上司の「オーエス」という名の「助けて」という掛け声に笑わされそうになりながらも必死で我慢して荷物を運んだのだけど、もう荷物なんかマトモに運べたもんじゃなかった。ヘロヘロになりながら運んでたもんな。で、そのヘロヘロ受けて上司が気合入れようとさらに「オーエス」と発する悪循環。もう勘弁して。

やっとこさ荷物をオフィスまで運び終えた時には、笑いを堪えすぎて腹筋が痛くなってたもん。ヘロヘロになりながら死にそうになってた。

そんな僕の必死の笑い我慢を知ってか知らずか、荷物を運び終えた上司は

「どうしたー?あんな荷物ぐらいでフラフラじゃないか。ちゃんとご飯食べてるか?」

黙れ!ウンコ上司!荷物が重くてヘロヘロじゃないわ。貴様のオーエスという掛け声が面白すぎてヘロヘロになってたんだわ。と盛大に反論したいところですが、チキンな僕は

「はい、最近ちょっといいもの食べてなくて」

と頭を掻きながら愛想笑い。ビバ!サラリーマン!ビバ!上司の犬。

でまあ、それを受けてウンコ上司

「しょうがないヤツだ。じゃあ今日は良いもの食わせちゃる」

とか言うではありませんか。コイツもたまには良いことを言います。普段良い物を食べていない僕に良い物を食べさてやる。つまりは焼肉やら高級料亭やら回っていない寿司をご馳走してくれるということです。なんて素敵な上司なんだ。

「はい!お供します!」

と一も二もなく承諾し、仕事を終えると早速上司と共にオフィスを出ました。

それでまあ、上司と共に僕の車に乗り込み移動します。

「えっと、どこに向かったらいいですかね?」ハンドルを握り、運転しながら上司に訊ねます。さあ、連れて行ってくれるのはどこ?高級料亭?高級寿司?それともカニ料理屋さんかしら?などとワクワクしながら待ち構えていると、助手席の上司は

「ワシの行きつけのラーメン屋に連れていってやる」

死ね!ウンコ上司死ね!何が「良い物食わせてやる」だ。ラーメン屋じゃねえかコノヤロウ!死ね死ね!七回死ね!と憤るのですが、そこは上司の犬である僕。

「あ、いいっすね。楽しみだなー」

なんて言っちゃったりして上司指定のラーメン屋に車を走らせます。

ラーメン屋に到着すると、そこは上司行きつけのラーメン屋です。なんとなく古めかしくて味のありそうな店構え。知る人ぞ知る名店といった趣でした。

その重厚な古めかしい引き戸を開けて店内に入ると、ムワッと熱気が襲いかかり

「へいらっしゃい!」

という威勢の良い店主の声。

コレはなかなか期待が持てるぞ、と上司と共にカウンターに座ります。

上司は、さすが行きつけだけあってかラーメン屋の店主とかなりの顔見知りのよう。

「今日はウチの部下に美味いラーメン食わせてやろうと思ってな」

「おう!兄ちゃん!うちはダシが違うよ!ダシが!」

なんていう会話を経て、いよいよラーメンが出されます。

「ヘイ!お待ち」

と出されたラーメンを上司はもうそれはそれは凄い勢いで食べていました。「うまうま」と言いたげな勢いで食べていました。

こ・・・これは・・・上司がここまで必死に食べるラーメン。さぞかし美味いのだろうと期待して僕もラーメンに箸をつけました。

ジュリュジュルジュル

・・・・・・うん、まずい!

マズイとか口に合わないとかいうのを超越していて、下手したら命に関わるんじゃねえの?というほどにマズイ。しょうゆとソースを間違えてもここまでマズくはならない。それほどにマズイ。

どどどどどどどどういうことだ、このマズさは

と疑問に思うのだけど、横で上司は必死にうまうまと食べてるし、店主は自信満々といった表情で「おいしいっすね」という僕の感想を待っている。

というか、このマズさ有り得ない。上司が美味そうにマズいってまさに気まずいなとか、店主が自信満々なのにマズいって気まずいなっていう思いを既に超越していて、こんなラーメンを食わせた上司に対して怒りすら覚えていた。

気分的には上司に向かって

画像

とやりたい気分。

でもまあ、そんなことやりたくてもできないので、「どうだ、うまいだろ?」という上司の問いに対して

「はい!美味いっす!ダシが違いますよね!」

と満身創痍の作り笑顔で言う始末。つくづく気の弱い自分が憎い。

しかもまあ、「美味い」なんて血迷ったこと言っちゃたものだから、この悪魔のように不味いラーメンを最後まで完食しなければいけないところまで追い込まれてしまいました。許されるのならば鼻をつまんで食べたい。そんな気分。

でまあ、死にそうな思いをしながらなんとか地獄ラーメンを完食。変な脂汗とか全身から出しながらも食いきった自分自身を褒めてやりたい、そんな 気分でした。

「そろそろ帰るか」

という上司の言葉を受けて、レジへと向かいました。

死ぬほど不味いラーメンだったけど、上司もご馳走してくれようとしてくれたことには変わりありません。上司の好意なのにマズイとか言っちゃったらバチが当たるよな、うんうん、奢りだから文句言っちゃアカン。とか思ってたら上司がレジで

「勘定は別々で」

とか言ってやがります。

死ね死ね!ケチ!死ね!何が「ご馳走してやる」だ!連れてきただけじゃねえか!70回死ね!

とか怒りながらも不味いラーメンの代金を支払い店の外に出ます。

もうゼッタイにこの人と食事をするのはやめよう。命がいくつあっても足りない。それどころかもうゼッタイにこのラーメン屋には来ない。などと決意を新たに車に乗り込むと、ウンコ上司のヤツが

「また、ちょくちょくここのラーメン食べにこような」

とか言ってやがりました。有り得ない。嫌過ぎる。

おおおお、オーエス。

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