最狂親父列伝~クリスマス編~

最狂親父列伝~クリスマス編~

Date: 2002/12/24

ヌメリークリスマス。

右を見ても左を見てもクリスマスです。クリスマスミュージックが鳴り響き、クリスマスイルミネーションが瞬く。もう日本全体でクリスマスに浮かれているような状態です。どいつもこいつもトチ狂いやがって。

そんな中、近所のセブンイレムンは、店の軒先でケーキやシャンパンを売り出すという暴挙に。店の前の駐車場スペースに臨時の売り場を設け、寒い中関口やら山下が声を震わせて「ケーキいかがっすかあ」とか言うてるんです。なんか、鳥の足みたいなものまで売ってた。店の外でケーキを売るぐらいに狂ってるんですよ、セブンイレブンは。

車でセブンイレムンに乗り付けてですね、店内に入店しようとしたら物乞いのように店員が立ってるんですよ。何かを訴えかけるかのようですね「ケーキいいかがっすか」とか言うてるんですよ。買いそうになるわ、ボケ。可哀想で買いそうになるわ。

それをなんとかくぐりぬけて店内に入ってですね、買い物とかするんですけど、家に帰ろうとまた外に出たら、またもや店外で「ケーキ買ってください」ですからね。捨て猫のようなすがる目で買ってくださいですよ。それらを無視してテコテコと家路につく僕が悪者のようではないですか。

ホント、どうしようもないよな、どいつもこいつもクリスマス、クリスマス言いやがって。カップルはロマンティックにクリスマスか、夜景を見て彼女に胸キュン。ホテルに行って変な棒出したり入れたり。チンポがキャンドルライトか。そいでもって独り身は、淋しくクリスマスか。ケーキ買って鳥の足食って、クリスマス特番を見る。ありがち過ぎるほどありがちなんだよな。ワンパターンなんだよ、ワンパターン。

君達はね、いいかげんにそういったワンパターンな旧体制下のクリスマスを過ごすのはやめた方がいい。もっとトリッキーであり得ない角度のクリスマスを過ごしたほうがいい。21世紀のスタンダードになると思うよ。「今年のクリスマスはあり得ないことして過ごします」とか普通になると思う。

というわけで、今日はクリスマスイブということもありますし、毎年あり得ないクリスマスを過ごしているキングオブキチガイことマイ親父のクリスマスについてお話しようと思います。最初に言っておくけど、マジであり得ないから。本気であり得ないから。

数年前のクリスマス。我が親父は一人淋しく過ごしていた。

母を亡くしてから初めて迎えるクリスマスだったろうか、息子たちも家にはいない。弟はどこぞのアバズレとデートだし、長男(僕)は広島に住んでいて帰省してこない。まだ再婚もしてなかったから本当に親父は一人だった。一人ぼっちでクリスマスを過ごしていた。

僕らが幼い頃、まだ母は生きていて、貧しいながらも楽しいクリスマスだった。子供たちはチープなクリスマスディナーに喜び、安っぽいプレゼントで大喜び。母さんだっていつもよりちょっと頑張ってクリスマスらしい料理を作っていた。なんか、ほのかな家族という温かみがあった。そんな中、クリスマスとは無関係という感じでいつものように焼酎を飲む親父。

そんな光景も今はもう見ることはできない。家族はバラバラになってしまい、クリスマスだから家族で過ごそうという風習もいつしかなくなってしまったのだ。ホント、親父は淋しかったのだと思う。

そんな親父がものすごく可哀想に思えて、そんな親父をクリスマスに一人ぼっちにさせておくことが心苦しく、僕はなんとか帰省できないものかと考えていた。広島での仕事を必死で片付け、車に飛び乗り、なんとかクリスマスイブの夜に帰省することができた。

ケーキもシャンパンも鳥の足もない、プレゼントだってないけど親父とクリスマスを過ごすことができる。何もないけどまた昔のように焼酎を飲む親父とクリスマス特番を見ながら過ごすことができる。なんだか運転しながら妙にワクワクしていた。急に僕が帰省して、寂しがっていた親父がビックリする顔が見れるってドキドキしていた。

雪が降り積もる中国山脈の峠道を超え、なんとか実家へとたどり着く。オラオラ、親父よ、ガラにもなく淋しがってるんじゃねえよ、俺が一緒に過ごしてやるからさ、またいつものように焼酎飲みながら過ごそうや、と元気良く実家の玄関を開けた。

誰もいなかった。

家には誰もいなかった。親父も弟も、全くと言って良いほど姿を消していた。そう、煙のように。

弟はわかる。いないのは初めから分かっていた。どっかのアバズレと夜景でも見ながら「素敵」などと言っているに違いないのは分かっていた。けれども、親父は一体どこに行ったのだろうか。

漠然とした不安だけがよぎる。まさか・・・・・。淋しさのあまり自殺でも・・・・。何十年と夫婦で連れ立ってクリスマスを過ごしてきた親父。そこに初めて家族のいないクリスマスだ。淋しさが物凄く骨身に染みてしまったのだろうか・・・。なんてこったい・・、こんなことなら僕がもっと早く帰省していれば・・・・。

心配で気が気ではない僕。居間の中をうろつくことしかできなかった。そこに、けたたましく電話が鳴る。まさか・・・親父の遺体が発見されたと警察からの電話ではないだろうか。恐る恐る受話器を取った。

「よーーー!!なんだオマエ、帰ってきてたんか!?」

電話の主は、親父だった。心配していた自分をバカらしく思うほど底抜けにアッケラカンとした声。なんだかムカツクが、生きていたのはありがたい。

「ああ、ちょっとな、帰ってきたけど誰もいねえよ。どこにいるんよ?」

そう訊ねると、電話の向こうの親父は途方もないことを言い出した。

「韓国にいる」

あり得ない。クリスマスに韓国とかありえない。どこをどうしたらクリスマスに韓国になるのか徹底的に問い詰めたい気分だ。

なんでも、今年のクリスマスは独りかあ、と淋しく家で焼酎を飲んでたところに高校時代からの親友が訪ねてきたらしい。いつも休みのときは一緒に釣りに行ったり飲みに行ったりする親友だ。

その友人も年末年始は仕事がなく暇で、クリスマスも特に何もする予定がないという。仕事が休みで暇だった親父と意気投合し、「よし!韓国行こう!」ということになったらしい。

クリスマス何もすることがなくて暇だ→韓国に行く

という彼の思考回路が全く理解できない。誰もいない実家で受話器を握り締め、呆然としてしまった。

どうせパスポートも持ってたし、金もいくらかある。早速カバンに着替えやら何やらを詰め込み電車に飛び乗ったそうだ。そして、特急電車、新幹線と乗り継ぎ広島へ。韓国ソウルへの直行便が出ている広島空港に向かったらしいのだ。それが前日の話。

あのな、韓国に行く途中とはいえ、息子が住んでいる広島に来たわけだ。なんでヒトコト息子に連絡ができないものかと。ちょっとでも連絡してくれれば僕もいらぬ心配をして帰省してこなくて済んだものを。

それにしてもクリスマスだから韓国とはぶっ飛んでいる。これは後日談になるのだが、なんでも韓国に行ったはいいものの何もすることがなかったらしい。韓国に着いて自分らで取ったホテルに入り何もすることがなかったようだ。パックツアーとかで行ったわけではないので、言葉は通じないわ事前の下調べもしてないわで観光もままならなかったそうだ。オマエは何しに韓国に行ったのだと。クリスマスに何のために韓国に行ったのだと。ホント、あり得ない。

それでまあ、焼肉をガッツンガッツン食べ、キムチをボッコンボッコン食べてただけらしい。ニンニク料理とかが好きな人なので、そういった料理ばかり食ってたそうだ。ホント、あり得ない。

それで、年が開けてから帰国してきたらしいのだが、広島行きの飛行機がなかったらしく福岡空港に降り立ったらしい。で、福岡から新幹線に乗って帰ってきたようなのだが、悪いことにお正月の帰省ラッシュにストライク。乗車率100%を超えるギュウギュウ詰めの新幹線に乗ってきたらしいのだ。韓国で食したニンニクやらキムチの匂いをムワンムワンと漂わせて。

それに困ったのは周りの乗客たち。キチガイ親父があり得ないほどの悪臭をさせている。満員の新幹線内は熱気ムンムンで、さらに臭いが立ち込める。身動きできないほど混んでいるのでにげることもできない。なんか、親父の前に立っていた女の子なんか匂いで気絶したらしい。

悪臭に絶えかねて倒れる乙女。車内が騒然とする。親父の臭いが原因で倒れた少女、けれども当の親父は自分の臭いに気づいていない。

「ありゃりゃ、大丈夫ですか?」(むわん)

必死で介護する親父だが、さらに臭いが乙女を直撃。

「大丈夫ですか?」(むわん)

匂いに耐えかねて倒れた乙女を、さらに親父の悪臭が襲う。ホント、あり得ない。結局、意識を取り戻した乙女に

「大丈夫です、ちょっと口臭がきつくて」

とか言われた親父は、ほのかにブロークンハートしたらしい。

結局、この人はキチガイでクリスマスとか寂しさとか無縁な人なのだと思う。クリスマスだからと突発的な思いつきで韓国に行き、キムチやらニンニクをアホのように食す。そいでもって帰りの道中には口臭で少女をノックアウト。これ以上にトリッキーなクリスマスの過ごし方があるだろうか。

メディアに踊らされて、必死にトレンディスポットでラバーズと過ごそうと考えている人は考えて欲しい。一人身で淋しく定番のように幸せな人を恨みながら過ごそうとしている人は考えて欲しい。そんなありきたりなクリスマスでいいのかと。

もっとトリッキーであり得ない、キチガイのようなクリスマスを過ごすのもいいものじゃないだろうか。ウチのキチガイ親父のように。ありきたりのクリスマスを過ごす時代はもう終わったのだよ。

余談になるのだが、
韓国からの親父の国際電話を受け、呆然としていた僕だが、電話を切った後に無性に寂しくなってきた。親父が寂しいだろうと無理して帰ってきたのに、当の本人はトリッキーに韓国へ。結局、自分が一番淋しいのじゃないだろうか。一軒家に一人ぼっちのクリスマス、ちょっと泣きそうになった。

いつも親父が座っていた席に座り、飲みなれぬ焼酎を飲みながらクリスマス特番を見てみた。なんとなく、まだ家族が揃っていた頃のクリスマスに想いを馳せながら、焼酎グラスを傾ける。

一人ぼっちのメリークリスマス。ちょっと泣きそうだった。

その深夜、弟がギャル系の娘っ子を連れて帰宅してきて「うわっ、何でアニキが帰ってきてるんだよ、おセックスしようと思ったのに邪魔じゃんか、出てってくれ」と言いたげな表情で睨んでいた。うん、すごく自分が情けなくて泣きそうだった。物凄く泣きそうだった。

結局、「お前らにおセックスはさせないぜ」とばかりに邪魔をした僕は、幸せだった家族のクリスマスが存在したあの居間でパーティーをすることにした。大人になった僕と弟、意味不明なギャルっ子でクリスマスパーティーだ。焼酎飲んでクリスマスパーティー。

「やだー!お兄さんキモいー!」

「こいつ変態だから、注意しろよ」

「ミニスカサンタを着てくれ」

いつまでもいつまでも笑い声が絶えることなく、あの日の家族のように幸せな光景がそこにはあった。

人から人へメリークリスマス。時代から時代へメリークリスマス。そう、いつだってクリスマスは全ての人に優しいのだから。

メリークリスマス

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