僕たちの失敗

僕たちの失敗

Date: 2002/12/21

高校生の頃、僕らは救いようのないバカだった。

比較的フランクな校風だった我が母校。制服もなければバイク通学もOK、アルバイトもOKだったし、もしかしたら不純異性交遊もOKだったかもしれない。表向きはタバコや酒はダメだったが、別に見つかったとしても何も処罰はなく、事実的にはフリーダムだった。フランクというよりは無法地帯。

クラスの男子の大部分は喫煙者だったし、居酒屋で宴会とかマージャンとかもしょっちゅうだった。しかしまあ、表向きはご法度だったので堂々と吸うわけにもいかず、隠れてコソコソやっていた。たまに学校の廊下を咥えタバコで歩くこともあったが、基本的には隠れてコソコソ吸っていた。

学校の前には小さな商店があり、そこでタバコやらジュースやらお菓子を売ってるものだから、タバコ好きの生徒は休憩時間度に商店の前でたむろしタバコを吸っていた。

その光景は地元でも有名で、お昼ともなると100人以上の高校生どもが小さな商店の前で白い煙を吐いていると怖れられたものだ。あの学校の生徒には近づいちゃいけません、ってのが地元では常識だった。

僕らだって例に漏れず、休憩時間ともなると喜び勇んで商店へと向かった。なけなしの小遣いでタバコを買い、ジュースを買う。タバコを一本貸しただの貸さないだのの下らない理由で口論し、次の授業が始まるまでの短時間で一気にタバコを吸っていた。

当然、「大量の高校生が商店の前でタバコを吸っている」という話は有名なものだったので、学校側も感知していたはずである。けれども何も言ってこない。体躯のいい体育教師やら生活指導の先生が見廻りに来て取り締まっても良さそうなものなのだが、全然来ない。

たまに昼飯なんかを先生が買いに来ることがあったが、その商店の前で平気でボカボカタバコを吸いまくる生徒を見ても見ない振りだった。たぶん、心底腐っている学校だったのだと思う。

タバコは売ってるわ、フリーダムに吸いまくりだわ、ジュースは売ってるわ、吸殻を散らかさないように店側が灰皿を用意してあるわと居心地の良いパラダイスだったのだが、段々と居心地が悪くなってくる。

それは先輩の存在だ。先輩だってこんなタバコパラダイスの商店を見逃すわけがない。怖いお兄さんたちが大量にやって来てタバコを吸いまくっていた。そこで生意気にもタバコを吸っている僕たち一年坊を見つける。そりゃあ先輩としては面白くない。あいつら一年の癖に生意気だよな、となってもおかしくはないのだ。

だから僕らは、最初こそは商店にたむろしてタバコを吸っていたものの、その後は先輩の目を気にして別な場所で吸っていた。他の一年生どもは相変わらず商店でタバコを吸っていて、先輩に目をつけられたりしていたのだから、僕らの行動は正解だったといえる。

さてさて、そのようにして先輩の目を避けてタバコを吸っていた僕ら、商店では吸えないので別の場所で吸うことになる。やはり学校で吸うわけにもいかないので別な場所で。

僕らは色々と試行錯誤した結果、もう一つの素晴らしいタバコ吸いポイントを発見したのだ。タバコパラダイスである商店に劣らない素敵な場所だった。

学校の近くには、意味不明なんだけど酒造所というか酒蔵みたいな工場があった。ホント、学校から歩いてすぐの場所にあった。ホント、何であんな場所に酒造所があったのだろうかというぐらいに不自然な場所に。

で、その工場の敷地内に勝手に入り込んで、工場の裏手に座り込んでガッポンガッポンとタバコを吸っていた。ここにはウザイ先輩もいなければ先生が来ることもない、誰も僕らのタバコを邪魔することはできないといった感じでとても居心地が良かった。たまに酒造所の社員の人とかが出てきて目撃されたりするのだけれども「お前ら火事にはするなよ」と注意するくらいで問題なしだった。

もう、休憩時間ごとに工場裏に来てタバコ吸ってたものな。

それでもまあ、この工場裏のパラダイス喫煙所にも不便な点はある。まず、タバコが売ってないということ。そりゃあただの酒造所、それも裏手な訳だ。タバコなぞ売っているはずもない。タバコがなくなったときは商店に買いに行かざるをえない。この辺は随分と不便だ。

もう一つに、ジュースが売ってないという点が挙げられる。やはり僕らだって、タバコだけをプカプカとふかしていれば満足というわけではない。吸いながらジュースだって飲みたいし、軽いお菓子とかも食べたい。けれどもココは酒造所。酒は狂ったように造ってるのだが、ジュースなどあるはずもない。

と思ったのだが、この問題は容易く解決した。今までは裏手でばかり吸っていたので気がつかなかったが、実は酒造所の表側の玄関にはジュースの自動販売機があったのだ。

たぶん、酒造メーカーとは言っても、酒だけ造っていてはやっていけない。それでまあジュースなんかも造っているのだと思う。そのような酒造所産の怪しげなジュースが自動販売機では売られていた。

一体いつの自動販売機だよ、と突っ込みたくなるほどの古めかしい自販機。ちょうど、8月に行った旅日記の過去ログにあるような朽ち果てた販売機を想像してもらえれば良い。そこに、どこで売ってるんだよと突っ込みたくなるようなマイナーなジュースどもが並べられていた。

変なお茶やら変なコーヒー、インチキ臭いドリンク剤もどきと、一瞬にして購買意欲を失うほどの怪しげなラインナップだった。それでも、ジュースに飢えている僕らタバコキッズ。商店まで買いに行くのも面倒だし、先輩に目をつけられるのも嫌だしで、仕方なくその怪しげなジュースを買っていた。

それに、当時はちょうどジュースの値段が110円に値上げされた時代だったのだが、この自販機だけはいつまでも値段設定が100円だった。お小遣いのない僕らにとって、それはかなり嬉しい事実ではあった。

来る日も来る日も怪しげなお茶やらコーヒーを100円で購入し、裏でタバコを吸う生活が続いた。酒造所の裏手で怪しくタバコを吸う高校生たち。そんなある日、友人の一人が凄まじい大発見をするのだった。僕らを興奮へと誘う世紀の大発見だった。

ある日、いつものように酒造所裏手でプカプカとタバコを吸っていると、友人が真っ赤か顔をして興奮気味に走り寄ってきた。一見して異常事態が発生したことを察する。学校側の手入れがあったかと思ったほどだ。

見ると、友人は手に2本のジュースを持っている。おそらく表の朽ち果てた販売機で買ったであろうマイナーなジュースを持っていた。よくよく見てみると、そのジュースはマイナーなラインナップの中でも際立ってマイナーなクリームサイダーとかいうジュースだった。

余りにもマイナーすぎるため、不味そうなパッケージのために誰も手を出さなかった品物だ。色のセンスが悪い水色のストライプ模様にポップな字体で「クリームサイダー」とか書かれたその缶は昭和30年代を彷彿させるデザインだった。1本50円でも誰も買わないほど不味そうなデザインだった。

そんな誰も手を出さないジュースを、しかも2本も手にしている友人にいたく驚いた僕は

「どうした?そんなマニヤックなジュースなんか2本も買って」

と声をかけた。それを受けて友人は興奮気味に言う

「ちょちょちょちょ、来てくれ、すげえ大発見だ」

そう言って僕の手を引っ張ると、問答無用で件の朽ち果てた自販機の前に連れて行かれた。

興奮気味に100円を自販機へと入れる友人。そしてお金を入れるとおもむろに自販機を揺さぶり始める。そして、クリームサイダーのボタンを押す。

普段ならガチャーンという音がしてジュースが出てくるのだが、この時のジュース排出の音はチュドーンだった。勢い良くクリームサイダーが排出される。取り出し口には2本のクリームサイダー。

「な?な?すげえだろ?ウラワザを発見しちまった」

確かに素晴らしいウラワザだった。普段なら一本100円のクリームサイダー。それが上記のようにお金を入れた後に販売機を揺さぶると2本出てくるのだ。クリームサイダーだけ半額。これはお小遣いのない僕らにとってかなり心強い味方だ。

他にも、お茶やらコーヒーやらで同様の手順を試したのだが、やはりこれらは一本しか排出されなかった。ウラワザが通用するのはクリームサイダーのみ。

そこで僕らは様々な考察をする。まず、クリームサイダーは他のジュースに比べて缶が細い。基準値以下とも思えるほどに缶が細かった。そして、お金を入れた後に揺さぶることによって複数の缶が排出される。

おそらく、お金を入れた時点で販売機側ではジュースを排出する準備をするのではないだろうか。そして、揺さぶられることにより、他の缶より細いクリームサイダーは、ストッパーが効かない状態かなんかになり、複数が準備される。そこで購入すると2本のジュースが排出されるといったところではないだろうか。

僕らの仲間内では、これを「クリームサイダーハイパー購入法」と名づけ、様々な技術改良が行われた。その後の研究で揺さぶりが大きければ大きいほど排出されるジュースの量が増えることが分かった。大きく揺さぶれば3本排出されるのだ。

しかし、この方法が通用するのはクリームサイダーのみ。いくら100円で複数本購入でき単価が下がろうとも、1本50円でも誰も飲みたがらないほど不味いジュースだ。全然お得感はなかった。

ただ、ウラワザを駆使してジュースを大量に買うという行為に興奮を覚えていただけだった。誰もクリームサイダーなど求めちゃいなかった。

そんなある日、またもや友人が提案する。

「なあ、クリームサイダーって上手にやれば1本30円ぐらいでかえるわけやん」

確かに、上手にウラワザを駆使すれば100円で3本とか出てくるのだから、単価は非常に安い。でも、不味すぎて不味すぎてそんな出してもお得な気がしないのだ。

「それをさ、ずっとストックしておいて、文化祭で1本100円で売るんだよ。すごく安く仕入れて高く売る。1本あたり70円は儲けられるぜ」

なんて天才的な発想かと思った。コイツは天才だと思った。確かに、不味すぎるクリームサイダーではあるが、アホのように安く仕入れることができるのは間違いない。ならば、それを高値で知らないやつに売りつければいいのだ。元々は100円で売っているジュースだ。100円で売っても誰も不審には思うまい。その絶好の舞台が文化祭。とんでもない名案だ。

早速、僕らは文化祭に向けて商品の仕入れを始めた。大量の100円玉を手にし、朽ち果てた販売機でクリームサイダーを買う。今はこの100円の消費が死ぬほど痛いのだが、文化祭になれば何倍にもなって帰ってくるのだ。

出てきたクリームサイダーは、学校に持ち帰りロッカーにしまっておいた。何本も何本もロッカーが満杯になるまでストックした。

そのうち、購入方法がどんどんとエスカレートしていった。最初に言ったように揺さぶりが大きければ大きいほど排出されるクリームサイダーの本数が増える。それに伴って1本あたりの単価が下がるのだ。

これまでの最高記録は、100円で4本排出である。このときは自販機に蹴りなど入れて大量排出を獲得した。そのうち、どんどんと行為がエスカレートし、助走をつけて蹴りを入れる輩や、ハンマーで殴る輩が続出した。

そんなある日、僕が朽ち果てた自転車で衝撃を与えるという新手法を開発した。捨ててあった自転車に乗り、猛スピードで販売機に突進する。その衝撃を自販機の揺さぶりに利用するのだ。

物凄い鈍い音と共にかなりの衝撃が自販機に与えられ、排出されたクリームサイダーは7本。100円で7本。ハッキリ言ってこれは新記録だ。仲間全員が沸き立った。これで単価がまた下がり、儲けも格段に上がると喜んだ。それと同時に、仲間内のライバル心にも火がついたのだ。

僕が7本という新記録を出したことで、他の連中はちょっとしたライバル心を燃やす。自分も新記録を出したい。7本以上出したい。ハイスコアを出したい。その想いが行為をエスカレートさせた。

友人の一人が7本の記録を打ち破るべく立ち上がった。デブなヤツで体重が100キロ以上あろうかという友人。それに数人の有志が協力する。まず、デブは突進する作戦を採用したのだが、デブゆえにスピードが足りない。そこで有志たちが協力してデブを後ろから押し、カタパルトのようなイメージで突進力をつけるといった作戦だ。デブの突進力がスピードによって増幅され、最高の衝撃を自販機に与えるに違いない。さすれば7本以上のクリームサイダーを獲得するのも夢ではないのだ。

挑戦の日、デブが自販機から距離をとった場所でスタンバイする。有志たちはデブの手やら背中やらに引っ付いている。いよいよ挑戦が始まった。力いっぱいデブを押しのける有志。そのエネルギーがデブに伝わる。

猛スピードで突進するデブ。うおおおおおおおおおおおおおおおおと叫んで自販機に突進するデブ。スピードに乗ったデブというのは見ていて異様で、高エネルギー体のように光って見えた。

徐々に自販機へと迫る猛スピードのデブ。全てはクリームサイダーのために。7本以上の新記録のためにデブは突進する。そしていよいよアタックの瞬間がやってきた。

デブはその全体重と全スピードを傾け、肩口辺りから自販機へとアタックした。物凄いスピード、物凄い重さ。誰しもが息を呑んで見守った。

ドシン!ズボ!

異様な音が響いた。ドシンという音はわかる。アタックしたのだから衝撃音ぐらいはするだろう。しかし、ズボという音が分からない。

見ると、猛スピードで突進したデブは、体の半分ぐらいが自販機に埋まっていた。デブが自販機の一部と化していた。

元々、朽ち果てていた自販機。ボディも錆付いて今にも壊れそうだった自販機。そこに今まで僕らが度重なるアタックを試みてきたのだ。かなり弱っていたのだと思う。そこにトドメとばかり猛スピードのデブのアタックだ。ついに自販機は本当に朽ち果ててしまった。

そしてデブの衝撃を受け止めきれず破壊。そのままデブをボディ内へと食い込ませてしまったのだろう。

呆気に見守る僕たち。デブの加速に協力した有志たちも、腰を落として口を開け、自販機に食い込んだデブを見ている。デブはデブで「助けてー」とか叫んでいる。

みんなで必死になって自販機からデブを引っ張り出していると。「こらーーーーー」という声がして酒造所の社員さんが出てきた。そしてそのまま全員捕獲。

学校側に連絡が行き、僕らは生活指導の先生にしことま怒られた。さすがにフランクな校風の我が高といえども、自販機破壊は重罪のようだ。反省文執筆に、自販機の弁償とかさせられた。あんなボロボロの自販機なのに、何十万円と請求され、僕らみんなの家庭で頭割りして弁償した。死ぬほど母ちゃんと親父に怒られたなあ。

その後、その金で酒造所の販売機は今風のナウい販売機に取り替えられていた。相変わらず売ってる商品はマニヤックで、あのクリームサイダーも売っていたのだが、ウラワザは通用しなくなっていた。

僕たちの失敗は、山ほどあったのだと思う。酒造所でタバコを吸うことを思いついたのも失敗だったし、クリームサイダーが複数出てくることを発見したのも失敗だった。そして、それを文化祭で売ろうということになり大量に出すための技術を磨き始めたのも失敗だったのだ。エスカレートする自分たちの行為を自分たちで止めることができなかった。

若さゆえの過ちと言ってしまえばそれまでなのだが、あそこで少しでも冷静になり、誰かが止めていたのなら、自販機破壊→弁償という最悪の結果を導かなかったのだと思う。若さゆえの失敗が、僕たちの心に大きな影を落としたのだ。

そして、その後に行われた文化祭。僕らは店を出し、それまでに仕入れていたクリームサイダーを1本100円で売りに出したのだが、その怪しげなパッケージが災いしてか、ほとんど売れなかった。ハッキリ言って大損だった。自販機破壊よりも、目論見どおり商品をさばけなかったことが最大の失敗だったのだ。

僕らは泣きながら、売れ残りの不味いクリームサイダーを飲み明かした。そんあほろ苦い思い出。

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