Let's get together now

Let's get together now

Date: 2002/07/01

実は僕はシンガーなんです。いつもいつだって歌を歌ってる。なんていうか、街を歩きながら鼻歌交じりに「桃色片想い」。車を運転しながら「恋愛レボリューション21」。風呂に入りながら「ラブナントカゲリコ」と。

もちろん、本気で歌ってるわけでなく、ほとんどが鼻歌交じりですね。たまに訳分からん歌とか歌ってるし。あ、もちろん、歩きながら「恋はランバダ」歌ってることもありますよ。

もちろん、なかなか大きな声で歌うこともあります。その場合は、もう街中を歩いてようが何しようが、そこがマイステージ。人目なんか気にせず歌っているんです。もう狂ってるとしか思えない。傍目には頭がかわいそうな人にしか見えない。しかも下手だしよー。まあ、下手の横好きってヤツですな。

で、今日も歌を歌いながら繁華街を歩いてたんですよ。お得意のミスチル「Over」を歌ってブラブラと街を歩いてました。

夜の帳が落ちた街を歌を歌いながら闊歩する長身男。すれ違う人々が怪訝な目つきで僕のことを凝視します。中には振り返って確認する人までいる始末。くくくく・・・たまらん、なんたる注目度だ、たまらんたまらん、ハァハァ。などと露出狂一歩手前な快楽を覚えつつ闊歩しておりました。

みるとね、なんか前から歩いてくる小娘も歌を歌っているんですよ。歌を歌いながら歩ってるんですよ。

いやね、鼻歌交じりに歩く人ってそんなに珍しいものではないじゃないですか。ちょっとハッピーな気分の人ならルンルンとスキップしそうな勢いで鼻歌を歌う人っているじゃないですか。

でもね、僕の場合は違うよ。もう熱唱だからね。狂おしいほどに熱唱。鼻歌っぽくなるのは歌詞が分からない部分だけだからね。それだけに異常性が高く注目度も高い。

でもね、前から歩いてくる小娘は、僕以上に熱唱なんですよ。キチガイのように熱唱してるんです。もうね歩きながらスポットライトを浴びてるかのように熱唱。なんか目とか瞑っちゃって、感情込めて歌ってるの。

身振り手振りで「オーウェー、オーウェ」とか歌ってるの。横からマークパンサーが出てきて「キツクー、キツクー」とか言っててもおかしくないぐらい熱唱。横から小室が出てきて似合わない長髪を振り乱しながらキーボード叩いてても不思議ではないぐらい熱唱。小室プロデュース一歩手前といったカンジなんです。

明らかに僕以上の注目度なんですよ

オーディエンスたちの視線は全て彼女のものに。なんかすごく悔しい気分でしたよ。で、僕も彼女もお互いに立ち止まって睨み合いですよ。

「くっ・・・・・こ・・・こいつ・・・・できる・・・」

ってなカンジでね。やっぱりさ、お互いに街中で鼻歌交じりに熱唱するっていうキチガイに片足突っ込んだような人間ではないですか。こういう人間ってのは異常に意気投合するか嫌い合うかのどちらかなんですよ。

負けじと熱唱するキチガイ2人。負けじと声を張り上げる2人。まるでオペラのように歌によって感情を交換し合う2人。負けたくない負けたくない。そうするうちに「なんて素敵な歌声なんだろう」と相手の歌を認め合う仲に。もう言葉は要らない。二人は手と手を取り合って名もなき歌を一緒に歌った。歌は国境を越える、歌は性別を越える、そして心の垣根さえも越える。さあ、一緒に歌おう。人々が感情を顕にすることを忘れてしまった砂漠の中で、憎しみ、嫉妬、憎悪、悲しみをオブラートのように優しい歌声で包んであげよう。2人は手と手を取り合って楽しく歌を歌うのだった。

といった、街中でいきなりミュージカルな展開を予想してたんです。そいでもって歌を通じて意気投合した繁華街の歌姫と繁華街の歌殿はホテルにフェードイン。裸でベットに寝ながらタバコを吸う歌殿。「一緒にブロードウェイを目指そう」「素敵」2人の夢を語り合い。愛を確かめ合うかのように歌を歌うんです。なんて素敵な展開でしょうか。

などと今後の展開を妄想しつつ、半勃起で歌を歌う彼女を見ていたんです。そいでもって、彼女に見とれている場合ではないと僕も歌い始めたのです。もうかなりの至近距離で。後は意気投合するだけといった状態です。ホテルやらモーテルやらまであと一歩ですよ。

そいたらね、オーディエンスの中の1人が言うんですよ。酔っ払いのオヤジが言うんですよ。

「下手糞な歌やめろ!うるせえんだよ、男も女も!」

とか、すげえ怒ってるんです。いやね、僕も歌が下手なんですけど、音痴なんですけど、歌姫の方も僕以上に下手なんですよ。

オーディエンスたちは聞き惚れていたわけではなく、なんか不快に思ってたみたいです。なんて下手糞な2人なんだろうと。

というわけで、率直なオーディエンスの生の意見を聞いてしまった僕と歌姫は恥ずかしくなってその場をそそくさと逃げ去りました。もちろん意気投合なんかしてません。別々に逃げ出しました。恥ずかしくて恥ずかしくて。

結局、ブロードウェイを目指すという2人の夢は叶いませんでした。

音痴とは、自分の音痴を認識できず、歌が下手であるにもかかわらず無遠慮に歌いだす人種のことである。

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