一杯のラーメン

一杯のラーメン

Date: 2002/05/11

えっとですね。いよいよリアルタイム更新が明日に迫ってきたわけなんで、今日は日記を書くのはやめて明日に備えて体を休めようかと思ってたんですよ。でもね、日ごろの感謝の意を込めてリアルタイム更新をするわけじゃないですか。なのに、その感謝企画のための通常の日記を休んでたら本末転倒なんですよね。だから今日も日記を書くぞ!というわけなんですよ。で、今日は近所のラーメン屋のお話。

僕のアパートからさほど遠くない場所に、小汚いラーメン屋があります。この店はとにかく凄い店でして、まずオヤジの愛想が全くないんですよ。なんか店のオヤジはいつも怒ってる。で、その妻であるオバハンもなんか知らないけど怒ってるんですよ。余程連日嫌なことでもあるのかと疑ってしまいたくなります。

しかもね、お客に対する感謝の意とか全然ないの、皆無。僕がチャーシュー麺とか頼んでもブスッとしてるだけ。オバハンもブスッとしてるの。で、金払う時も「オラ、寄越せよ」と言わんばかりに右手を差し出して金を受け取る。で、お釣りは投げるような勢いで寄越してくるわけ。まったく別の意味で殿様商売だよな。どうなってんだ。

僕はこの店に通うようになって6年ぐらいになるんですけど、このラーメン屋で「ありがとうございました」「いらっしゃいませ」「お待たせしました」とかいうような客商売チックなセリフを一度も聞いたことないんですよ。

しかもね、そういう無愛想さ感じの悪さを吹き飛ばすほどラーメンがマズイの。ムチャクチャまずい。どうやったらこんなに不味く作れるのか疑問に思うくらいなんですよ。ホント、レシピとか公開して欲しいってぐらいに不味いの。

なんかね、ラーメン頼むじゃないですか。すると戸棚から麺が出てくるんですよ。戸棚ですよ、戸棚。木の戸棚。家の居間とかにありそうな戸棚。狂おしいほど戸棚。

で、その麺をなんか湯の中に入れてチャッチャとやるじゃないですか。でもね、湯から上げても水切りとかしないの。で、丼に移して、変なタレとか汁とか粉とか明らかに不味そうな組み合わせでトッピングするの。変な意味不明な粉とか入れてるもんな。

で、色々野菜だとか、ノリだとか乗せてラーメンが完成するんだけど、運ばれてきた瞬間から丼からムワッと死んだ子猫のような匂いがしてくるんですよ。なんていうか目に来る匂いなんですよ。で、なんか変なカサブタみたいなものが無数に汁の中を泳いでるしさ。明らかに不味そうなんですよ。

で、食べるんですけど、麺ゴワゴワね。これ不味いラーメンのデフォルト。さらに麺が太すぎ、汁不味すぎ。新宿でも不味いラーメンを食べて死にそうになったんですけど、ここのラーメンはそれに匹敵、いやそれ以上の不味さなんですよ。

しかもメニューが豊富にあるんですけど、全品不味いからね。6年通った僕が言うんだから間違いない。この店で一番上手いのはライスだってぐらい全品が不味いの。ここまでくると一種の才能だと思うんですよ。ラーメンを不味く作る才能。ハッキリ言って食べてらんないぐらい不味い。

じゃあなぜ、そんな地獄のラーメン屋に僕が6年も通ってるのかってことになるんですけど、なんか不味いけどココのラーメンって癖になるんですよ。いやね、好きだと美味しいとかそういった感覚を超越したものですよ。不味いのは間違いない、だけどしばらく食べてないと無性に寂しくなるんですよ。「ああ、またあの不味いラーメンが食べたい」とか死地に赴く戦士のような気分になってくるんですよ。

それで、ズルズルと不味いラーメンを食べつつ6年の歳月が流れてしまったんです。

しかもなんか、ラーメンは不味いんだけど、暖かいんですよね。店全体が暖かい。なんともアットホームな気分なんですよ。最初にも言ったように、麺が戸棚から出てくるような店ですよ。厨房には洗濯物とか飾ってあるんですよ。しかも丼とかコップとかバラバラで大きさとか模様とか合ってないし。明らかに家庭でも使ってそうな丼なんですよ。

そして頑固な店の主人に、無愛想なオバハン。そして不味いラーメン。これが通わずにいられるかって。なんか僕が行かないと潰れてしまいそうな気になって、変な使命感に駆られて通ってしまうんですよ。多分、この店の常連はそんな使命感に騙されて、不味いラーメンを我慢しつつ食べてるんだと思うんですよ。

しかもなんか、夜とかに行くと、子供達が店にいるんですよ。客の子供じゃないですよ。店の子供ですよ。主人とオバハンの子供が客席占領して宿題とかやってるの。

なんか意気揚々と店に行くと、隅っこの方でテーブル席に座ってガリ勉そうな丸メガネのハリーポッターみたいなクソガキが算数の勉強とかしてるの。

しかし、このガキも大きくなったようなぁ。通い始めの頃は小学校一年生だったけど、もう中一だもんな。ホント月日が経つのは早いよ。

で、親である主人とオバハンは無愛想なんだけど、子供は愛想良くて色々な客に話しかけたりとかするんですよ。僕も昔は何度か遊んであげたりとかしましたしね。なかなかどうしてカワイイ子供でしたよ。

でもなんか、急に進学校目指して塾とか行くようになったらしくて、丸メガネかけはじめて、いつも勉強するようになってて客ともあまり話さなくなったみたいなんです。常に勉強してる。なんか可愛げがなくなっちゃったんですよ。クソガキが。

で、一度だけなんか僕がラーメン食ってると、その子供が話しかけてきたんですよ。

「わからない問題があるので教えてください」

とかって。で、なんか算数の問題みたいだったから、「お安い御用だ」ってなもんで僕も教えてあげようと思ったんですよ。ラーメン屋で算数を教えるなんて変な話ですよ。

で、みるとね、なんかすげえ難しい問題なの。もうお手上げ状態。手の施しようがないほど難しい問題やってるの。中一のくせにすげえ先のほうまで進んでる。なんか「sin」とか「cos」とか横文字がイッパイ出てくるの。これって算数じゃなくて数学やん。三角関数やん。もうね、全く解けなかった。すげえ恥ずかしかった。

なんか相当ハイレベルな塾に行ってるらしく、もう高校の数学とかやりはじめてるんだとさ。三角関数とか当たり前に出てくるみたい。すごいよね最近のお受験戦争は。

で、僕は聞いたんですよ、その子に

「そんなに勉強して何になりたいんだい?」

ってね。きっとこの子は医者とか弁護士とか学者になりたいんだろうな。それで不味いラーメン屋で苦労している両親にラクをさせてやりたいとか思ってるんだろうな。だから一生懸命勉強してるんだろうって勝手に推測してたんですよ。

そしたらなんとね

「ラーメン屋になりたい」

とか言うんですよ。親父と一緒なラーメン屋になりたいっていうんですよ。オヤジの店を継いで親父の味を受け継ぎたい、僕にはそう聞こえました。

いやね、僕は既に家業を継ぐことを放棄した人間なんですよ。だから、「親の仕事を継ぎたい」って言うこのハリーポッターのような少年のことが凄く立派に見えた。なんかそれが良いことなのか悪いことなのか分からないけど立派に見えた。

きっと、自分で何か商売や家業を興してる親御さんにとって、息子がそれを継いでくれるってのは嬉しいことなんじゃないのかな。

いつもは無愛想な店のオヤジが、その会話を聞いててラーメンを作りながら「ニヤッ」って微笑んだのを僕は見逃さなかった。やっぱり嬉しいんだろうなぁ。なんか素敵だなって良い気分になっちゃった。

きっと、この不味いラーメンの味は少年が受け継いでくっるでしょう。

そしていつまでも僕に不味いラーメンを提供し続け、僕を苦しめてくれるでしょう。あの死んだ子猫のような匂いもいつまでも味わえる。不味いラーメンが恋しくなったらいつでも食べられる。

なんか嬉しいんだか悲しいんだかわからない複雑な心境になりました。

とにかく、この無愛想ラーメン屋夫婦、そして息子にいつまでもラーメンを作り続けて欲しいと願って止みません。頑張れ、ハリーポッター。

でも、ラーメン屋継ぐのに三角関数はいらないと思う。

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